作品タイトル不明
炎の巨人ヴォルカ
紆余曲折あり、1時間近くプレイして、ボスエリアの霧の扉が見えてきた。
「……ボス霧の前に来たな」
「はい」
ユリナの声が変わった。さっきまでの頼りにならない感じが薄まって、落ち着いたトーンの声色に戻っている。
「作戦を確認します。ボスは攻撃前に声を発するので、それを合図にローリングしてください。ただ、発生の早いフックと、追尾性能の高いジャンプ突きは声だけでは間に合わないので注意すること」
ほう。声を頼りにするのか。難しそうだ。
「それとジャンプ突きの後に地面を走る炎が来ます。後ろにローリングすると、ちょうど炎の中に突っ込む形になってしまうので、必ず横か前に逃げてください」
「……声を聞いてローリング。出の早いフックとジャンプ突きに注意。ジャンプ突きの後は後ろにローリングしない、か」
「はい。それだけ守ってくれれば大丈夫です」
シンプルに聞こえる。だがプレイしながら意識するのは別の話だ。俺がそのとおり実行できればいいのだが。
《ユリナ様の解説が頭良さそう》
《さっきの道案内と別人みたいで草》
《ベルン様にそんなこと出来るわけないだろ》
《これ全部覚えられるんか?》
「……覚えることが多いな」
コメントにもある通り、この動作を体に染み込ませるのには時間がかかるだろう。
「最初は声に集中するだけで大丈夫です。慣れてきたら他のことも意識してみてください」
「わかった。任せてくれ」
霧の扉をくぐった。
荘厳なBGMと共に、炎の巨人ヴォルカが姿を現した。でかい。プレイヤーキャラの3倍はある巨体だ。
「来ます。声を——」
ユリナの指示が入る前に、その無防備そうなヴォルカの体に対して、剣を振り下ろす。
唸り声が聞こえたのは、それと同時だった。その結果攻撃後の硬直中の体に、出の早い攻撃が直撃する。
「……声が聞こえたら、ローリング、です」
「……わかった」
《開幕で殴りかかるの草》
《声を聞けって言われたのに》
《脳筋は治らんなwww》
仕切り直す。今度は声を聞いてローリングした。攻撃が空を切る。
「今——」
攻撃しようとしたが、タイミングが合わなかった。空振り。
「動きが早くて難しいな」
「慣れるまで我慢です」
そんなやり取りの最中にも、ヴォルカは縦振り、横振り、と交互に攻撃してくる。当然、見たことがない攻撃で、避けきれずに何度か被弾してしまう。気づけば体力が残りわずかだ。その時、ヴォルカが跳躍した。
「ジャンプ突きです!」
その言葉に反応して、俺は体に染みついた動作を取る。
即ち、『後ろにローリングをする』だ。
これはもはや本能だった。
ローリングをうまく合わせられたので、ジャンプ突き自体は避けられた。
しかし、地面を赤い炎が走り、その中に飛び込んでしまった。
『YOU DIED』
《あ~》
《後ろはダメって言ってたやんけ》
《ユリナ姫、ベルン様は上達に時間がかかるので優しく教えてあげてね》
「……すまない」
「大丈夫です。後ろに逃げたくなる気持ちはわかります。最初はこんなものですよ」
ユリナの声は穏やかだった。
頭ではわかっていた。だが体が勝手に動いた。これは、本能を矯正するところから始めなければならないらしい。
これが、死亡回数1回目だった。
2回目。出の早いフック攻撃が来た。ローリングで避けようとしたが、全く間に合わず、直撃した。
「……速いな」
「そうです。見てから対処は困難なので、予備動作を見るか、距離をもうちょっと取って——」
ユリナが説明を続けている最中、ヴォルカがジャンプ突きに移った。ユリナの言葉に意識が割かれていたためか、また、後ろにローリングしていた。地面を炎が走り、その中に自分から入っていってしまう。
『YOU DIED』
《同じ死に方で草》
《条件反射後ろローリングやめてね》
《こういうのがいいんだよ》
9回目。フックの対処法を理解し始め、攻撃後の隙に合わせて反撃しようとしたところへ、ジャンプ突きが来た。
タイミングを合わせ、今度は横にローリングする。
すると、炎はキャラクターに当たらず、その後方へと過ぎ去っていった。
よし、避けれた。そんな喜びも束の間、余韻に浸っていた俺は、次に来た回転切りへの反応が遅れ、被弾してしまった。
「あ〜〜、惜しかったです」
「……炎を避けれたことで気が緩んでしまった」
《後ろ以外にもローリング出来るやん!!!》
《よかった、スティック壊れてなかったんだ》
《おすすめのコントローラのリンク貼ろうと思ってたのに》
コントローラーの不調を疑うのやめなさい。
ライバー活動をする為に新品買ったんだから。
22回目。初めて第一形態を突破した。
「よし、このまま——」
第二形態へ移行した瞬間、ヴォルカの動きが速くなった。面食らって後ろにローリングした。炎の中に入ってしまった。
『YOU DIED』
《無限ループって怖くね?》
《何回言えばわかるんだ》
《おじいちゃん、さっき同じ死に方したでしょ》
「……これは、癖だ」
「……癖、直しましょう」
小さめの声で、ユリナは応援するように言った。