作品タイトル不明
コラボ配信
コラボ配信の話をして以降、紗由の機嫌が悪い。
先日、デパ地下で買ってきたデザートを実家に持っていってからは、メッセージには返答してくれるようにはなった。
しかし、まだ、通話には出てくれない。
紗由の中で、俺は姫川ユリナとワンチャン狙っている男扱いされているようだ。
あいつも結構、潔癖というか、ガチ恋勢っぽさがあると思う。
まあ。こういった感じで、コラボ配信について妹と一悶着あったが、約束してしまったものは仕方がない。
なんとか妹を説き伏せた上で、配信に臨むことになった。
配信開始30分前。
事前に準備している最中だった。
Discordの着信音が鳴った。
発信者の名前を見て、俺は思わず背筋を伸ばした。
『姫川ユリナ』
同じ事務所に所属しているが、顔を合わせたのは1回だけ。言葉を交わしたのも挨拶程度。
それが今日、コラボをすることになった。
本日行うゲーム、鉄の咎人の配信は、既に3回目になる。俺が攻略に詰まっている様子の配信を見て、
「私、もうクリアしたんで、もし良ければ指示役みたいな感じでどうですか?」
という話があり、コラボが実現した。
一度リアルで会った縁もある。断る理由はなかった。
俺は通話に出た。
「お待たせしました、ベルンさん」
第一声は、想像していたよりも柔らかかった。初対面の時に感じた、クールな印象とは少し違う、落ち着いた声。
「……いや、こちらも準備できたところですよ」
「よかった。えっと……今日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそお願いします」
沈黙が流れた。
……気まずい。
配信上であれば、灰城ベルンっぽいの語彙の言葉が自然に出てくるのだが、配信前のこの状態では、あくまでただの一ノ瀬透である。どのように接するべきか、正解がわからなかった。
「あの、今日の流れなんですが」とユリナが口を開いた。
「私が指示を出して、ベルンさんが操作する形でいいですよね」
「ええ、それで」
「はい。えっと……今、溶鉱炉の手前でしたっけ?」
「そうですね、溶鉱炉のボスまでの道中を攻略中です」
「溶鉱炉、私も苦労しましたよ。敵の配置がいやらしくて...」
「苦労したんですか?」
「え、あ。でも、ボスも倒しましたよ?一応」
ちゃんと指示役として力になれる筈です。
そう、慌てたように付け加える声が、少し可笑しかった。
「よし、じゃあ今日はお願いしますね」
「はい、任せてください」
ヘッドホン越しで聞く声は、なんとも自信ありげだった。
「あ、そうだ」とユリナが言った。
「配信タイトル、私の方で考えてきたんですけど、大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ないですよ」
「よかった。『【コラボ】没落貴族のボス攻略、クールな姫の参謀が助けてくれるらしい』にしましょう」
「ユリナさんって、自認クールなんですか」
「デビューから、そのキャラでやらせてもらってます」
少し恥ずかしそうな声色だった。
少しだけ間が空いて、配信時間が近づいていることに気がついた。
「じゃあ、そろそろ始めましょうか」
ユリナの声が切り替わった。さっきまでとは打って変わって、落ち着いたトーンになる。
「お願いします」
自枠の配信を開始する。すると、待機場のコメント欄が動き始める。
《あ、始まった》
《今日もベルン様の沼配信見にきた!》
《ユリナ姫とコラボ?》
「同志たちよ、待たせたな」
俺はいつもの声で言った。
「本日は特別な配信をお届けする。我が灰城家復興の前に立ちはだかるダンジョン、溶鉱炉を攻略すべく、今日は助力を借りることにした。紹介しよう——我が参謀、姫川ユリナ先輩だ」
「……参謀役を務めます、姫川ユリナです。よろしくお願いします」
先ほどより、少しだけ声のトーンが高かった。普段の配信だと、こういう声なのか。さっきDiscordで話していた声とは、結構違う。
そして、さすがに半年以上vtuberとして配信しているだけはある。落ち着いた雰囲気だ。
《ユリナ様おるやんけ》
《この組み合わせ聞いてない》
《貴族と姫は豪華すぎる》
《助っ人かあ、だいぶ沼ってたもんな》
「本日の形式を説明する。姫川先輩が指示を出し、私が操作する。いわば、姫川先輩が指揮官で、私が兵隊、そういった関係だ」
《ついに一兵士にまで墜ちたか...》
《没落して最前線に行かされてるの草》
うるさいぞ、コメント欄。
ユリナからも、説明が入る。
「簡単に言うと、私が攻略の指示を出しながら、ベルン様に実際にプレイしてもらう形です」
《ラジコンスタイルね》
《没落貴族ラジコン》
《没落して結果、ラジコンにまで堕ちた男》
《ユリナ姫が指示役で大丈夫なんか》
「では、ベルンさん——ベルン様、参りましょう」
「うむ」
初コラボという少し浮ついた雰囲気の中、ユリナとのコラボが始まった。