軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お叱り

「……で、なんでわざわざユリナ先輩とXで絡んだわけ?」

冷ややかな声が、フローリングの床に響く。

なぜか俺は、自室の床の上で綺麗に正座させられていた。目の前では、腕を組んだ妹の紗由が、冷ややかな表情で俺を見下ろしている。

「いや、リアルで直接応援もしてもらったし、向こうからフォローしてくれてたからさ……」

「は? リアルで会った……? お兄ちゃんまさか、連絡先とか交換してないよね? してたら軽蔑するよ。そんな軽薄な兄だと思わなかった」

一気にまくし立てる紗由の目がガチすぎて怖い。

「してないしてない! ちょっと休憩室で会って、挨拶しただけだって!」

「ほんと?」

「ほんとのほんと。マジのマジ」

「はあ……。まあ、今回は信じましょう」

何とか信じてもらえたらしい。冷や汗を拭いながら密かに息を吐く。

しかし、なぜ紗由は俺がユリナ先輩と出会ったことくらいで、過剰に反応するのだろうか。

「あのね、お兄ちゃん。お兄ちゃんはこれから好感度最強系Vtuberにならないといけないの。それには、男女コラボは少なめにしないと。それにね、ユリナ先輩はちょっと色々ある人だから……」

「色々って?」

「なんか……彼氏バレとか、そういうの」

彼氏バレ。たしかに、異性として意識しているVtuberに彼氏がいたら、それは火種になるかもしれない。しかし。

「ユリナ先輩って普通にゲームとかの配信が上手いことが配信の魅力だろ? 技術とかエンタメとしての質が高ければ、彼氏くらい、いてもいいんじゃないのか」

「違うなーお兄ちゃん。甘い、甘すぎる」

紗由は呆れたように人差し指を左右に振り、「ちっちっちっ」と小気味よく舌を鳴らした。

「どんな雰囲気の人であっても、どんな配信をしてようと、ガチ恋はいるんだよ。それがこの界隈のリアルなの」

「……そういうもんなのか」

ネットの海は、俺が思っている以上に感情の泥沼らしい。感心半分、呆れ半分で呟く俺に、紗由はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ちなみに、お兄ちゃんにもすでにいるよ。ガチ恋」

「俺に?」

紗由が俺の目の前にスマホを突きつけてくる。そこに表示されていたのは、SNSの書き込みだった。

『brn様声良すぎてリアコ拗らせるわこんなの 責任とって抱いてほしい』

「おー……なんか、直球で見せられるとなかなか気恥ずかしいな」

思わず頬を手が伸びる。

「brn」というのは、俺の名前が直接検索に引っかからないようにする「検索避け」というオタクの知恵らしい。

「そっかあ、俺にもガチ恋勢が……」

しみじみと呟きかけて――俺はハッと我に返った。

「って、だめじゃん」

「そうだよ、だめだよ」

紗由のガチ恋を減らすために、Vtuberを始めたのに、兄+妹のトータルガチ恋数は増加傾向にあるらしい。

「おいおい、『ガチ恋殲滅計画』はどうすれば…」

「さっきも言ったけど、ガチ恋なんて、どんな活動をしてても多少は発生するの。だから、あんまり増やさないでね。面白お兄さん的な感じで、色恋とは無縁のポジションでがんばろう」

なかなか難しい注文だった。

俺が内心で頭を抱えていると、紗由はふっと表情を和らげ、組んでいた腕をほどいた。

「ま、一昨日の配信面白かったから、今日のところは勘弁してあげましょう」

紗由は配信をリアタイで見てくれていたらしい。兄孝行な妹だ。

「ほら、もう正座崩していいよ。喉乾いたでしょ、冷たい麦茶でも淹れてきてあげる」

「お、サンキュ……」

張り詰めていた部屋の空気が、一気になごやかなものに変わる。

痺れた足を崩して解放感に浸りながらも、俺の心臓はさっきとは違う意味でバクバクと鐘を打っていた。

言うなら、今しかない。

台所へ向かおうと立ち上がる妹の背中を見つめながら、俺の額を冷や汗が伝う。

しかし、ここで黙っていれば後でもっと悲惨なことになるのは目に見えていた。

俺はゴクリと唾を飲み込み、意を決して声をかけた。

「あのさ……実は、ユリナ先輩とコラボの約束しちゃったんだけど」

「は?」

低く凍えるような妹の声が、部屋の温度を一瞬で氷点下まで引き下げた。