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作品タイトル不明

【初配信】灰の城より、再興の狼煙を上げよう【灰城ベルン】

モニターの端に表示されたデジタル時計の数字が、18時59分から19時00分へと切り替わった。

「……よし」

小さく息を吐き出し、マウスのクリック音とともに配信開始のボタンを押す。

画面上の「OFFLINE」の文字が消え、「LIVE」の赤いランプが点灯した。

スピーカーからは、フリー音源サイトで何時間もかけて探してきた、古城を思わせるようなクラシック調のBGMが静かに流れ始める。

待機画面として設定した、月明かりに照らされる廃城のイラストの横で、コメント欄のスクロール速度が急激に跳ね上がった。

《きたあああああ!》

《ベルン様!》

《待ってたぞ没落貴族!》

《うおおおおおおおおおおおおお》

リレー配信のトップバッターということもあるのか、同接(同時接続者数)はすでに2000人を超えている。

画面の向こう側では、2000人もの人間が自分を見つめている。そう思うと、手にうっすらと汗がにじんだ。

「……えー、聞こえているだろうか」

マイクに近づき、低く、落ち着いたトーンを意識して声を出す。

『気高い没落貴族』。高木プロデューサーに叩き込まれた設定を、頭の片隅で反芻する。

《聞こえてるよー!》

《え、声かっけえ》

《イケボ助かる》

《ベルン様ああああ!》

「ふむ。どうやらマイクは正常に作動しているようだな」

よし、まずは無難な滑り出しだ。

画面を切り替え、自らの立ち 絵(アバター) を表示させる。

アッシュグレーの長髪に、豪奢だが少し擦り切れたコート。切れ長の目が画面の向こうを見据える。

「初めまして、リスナー、いや、これからの我が復興の同志たちよ。私の名は灰城ベルン。かつては栄華を極めた華族、灰城家の末裔だ」

《同志です!よろしくお願いします!》

《没落してるのに態度でかくて草》

《顔が良すぎる》

「我が一族の復興のため、この『配信』という現代の錬金術に手を染めることとなった。不慣れな点も多いだろうが、せいぜい私を楽しませてくれ」

高飛車な態度を崩さず、用意しておいた自己紹介のスライドをめくっていく。

名前、年齢、好きなもの、嫌いなもの。

順調だ。リハーサル通りに進んでいる。

しかし、事件は『好きなもの』の欄を紹介している時に起きた。

「……というわけで、私の好物は『赤ワイン』と『ステーキ』だ」

そう言い切った瞬間。

『ぐきゅるるるぅ……』

静かなBGMの合間を縫って、マイクが非常にクリアな音質で、俺の腹の虫の音を拾い上げた。

緊張のせいか、昼から何も食べていなかった胃袋が、ここぞとばかりに自己主張を始めたのだ。

コメント欄がドッと動き出す。

《……今、おなか鳴った?》

《腹の音wwwww》

《めっちゃいい音で草》

《ベルン様、お腹空いてるんですか?》

《高貴な腹の音たすかる》

《没落貴族のリアルな胃袋の叫び》

画面の前の俺は、冷や汗がどっと噴き出すのを感じた。

よりによって、初配信の、自己紹介の最中に。

高飛車なキャラクター設定が、開始十分で崩壊の危機に瀕している。

「あー……これは、その」

必死に誤魔化す言葉を探すが、頭の中が真っ白になる。

『生活感あふれるアクシデントは、すべて没落貴族の哀愁に変換される』

先日、高木プロデューサーが真顔で語っていた言葉が、ふと脳裏をよぎった。

「……すまない。実は、我が家の財政状況が芳しくなく、昨晩から『もやし炒め』しか口にしていないのだ。ステーキなど、最後にいつ食べたか……」

開き直り、少しだけ切なそうな声色を作ってアドリブを放つ。

居酒屋の深夜バイトで散々食べてきた、原価の安いもやし炒めを思い出しながら。

《もやしwwwwwww》

《急に現実味出すなwww》

《ベルン様(涙)》

《没落しすぎだろwww》

さらに、コメント欄にひときわ目立つ青色の文字――モデレーター権限を付与された、配信待機中の同期からのコメントが投下された。

神宮寺愁 / Jinguji Shu 【ダイバーシア】:《ベルンさん、もしかして俺より金ないんすか?www》

この一言で、コメント欄の熱量はさらに加速した。

《借金探偵に心配される没落貴族www》

《底辺の争い》

《誰かベルン様に飯を奢ってやってくれ》

《とりあえずチャンネル登録したわ。早く収益化してくれ》

デビュー初日で収益化が通っていないため、スーパーチャットこそ飛ばないものの、画面の右上に表示されたチャンネル登録者数のカウンターが面白いくらいに回り始めた。

「ふっ……同志たちの温情、しかと受け取った。神宮寺、貴様に心配される謂れはないが……この恩は忘れない」

どうやら、この「少し残念な没落貴族」という俺の不本意な立ち位置は、リスナーたちに思いのほか温かく迎え入れられたらしい。

「それでは同志たちよ、次は借金まみれの探偵の事務所へ向かうとしよう。私と一緒に乗り込んでやってくれ」

こうして、灰城ベルンの波乱に満ちた初配信は、予想外の笑いと大量の同情を生み出しながら、次の神宮寺へとバトンを繋いだのだった。

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【初配信】灰の城より、再興の狼煙を上げよう【灰城ベルン】

最大同接数:2505人

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