軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54.【番外編】アンジェリーナさんへチョコを渡せ!

日課のミュス狩りの最中、突然謎の物体が出現した。

ミュスのドロップは、にょろりと長い尻尾だ。

それが、……色とりどりのリボンに化けた。

『あ、0時超えたからバレンタインイベント始まったんだろ』

『バレンタイン!?』

『おう! 材料集めて、チョコレート作って包装掛けてプレゼントにするんだよ』

『……リボン集めは任せろ』

『www 他の材料調べてくるわ。確かピロリがなんか言ってた』

普段攻略は見ないで楽しみたいと言っているが、バレンタインデーイベントとなれば、そこは信念を曲げてでも参加する。

と言うわけでとりあえず公式から。普段公式すら見てない。アンジェリーナさんにさほど関わりはないからな。

なにやら材料を揃えてさすらいのパティシエとやらに最高のチョコレートとやらを発注するらしい。箱に入っているが、その後包むのはユーザーの仕事となるそうだ。

包装……学生の時お中元お歳暮バイトをしていた俺様が、完璧な、角がきれっきれのものを作り上げてやる。

材料はカカオ、グラニュー糖、バニラ。カカオを砕いたりの作業もある。これは、料理スキルがない人はNPCに頼むことも出来る。

案山子:

チョコ作り手伝いますッ!

その代わり材料ちょうだいッ!

ソーダ:

というか、カカオとりはお前も参加だ、案山子。

案山子:

こき使われるイベントだったッ!

ピロリ:

バニラは私がソロで行けたから~もう山盛りとってるわよー!

さくっと材料集めに行くこととなった。

『今日は素直に来るんだな』

『そりゃ、アンジェリーナさんにプレゼントするからなっ!』

『ああ、そんな話だったわね……』

『まあ、うん』

『セツナっちふぁいっとッ!』

化粧箱用の紙も取りに行かないといけないらしい。あと包装紙。結構やることあるな!!

とはいえ、先行ランカー。効率狩りもお手の物。魔法が必要なカカオ取り以外は分担作業となった。

「リボン取ってくる係!」

「まあ、セツナのルーティーンだもんな。行ってこい。こっちの材料集まったら案山子シェフにお願いして仕上げは伝説のパティシエに。箱も作ってもらわないとかな。そこら辺は今回NPCがちゃんといるらしいぞ。セツナは出番来たら呼ぶわ」

「出番待ってる」

というわけで今日も楽しくミュス狩りだ。

尻尾と同じだけでる。つまり1体につき1本。1時間に20本程度……なのだが。

なんだこれは。

いつもは俺専用MAPの始まりの平原が、人で溢れている。

これは拙い。0時直後はそんなにいなかったのに。え、こんなにユーザーいたの!?

もちろん接敵回数が激減。しかも小競り合いまで発生してる。

いかん。これでは、俺の超絶技巧リボンかけをアンジェリーナさんに見せられない!!!

届けハトメール!!!

ダンさん、ビルさん、下水道デートしましょう!!!

NPCをこちらから誘って乗ってきてくれるか不安だったが、2人は快諾してくれた。やっぱりこの2人好き。ゲーム時間内で朝の八時だというのに、即下水道前待ち合わせだ。

助かったとお礼をいいつつ、彼らにリボンは見えていないらしい。あくまでユーザー目線のイベント。お、赤だとか、ピンクだと言っていたら、とうとう尻尾の色味もわかるようになったのかと驚かれた。もうミュスマスターだねと親指を立てられたが、それは不名誉な称号な気がする。

3時間ほどお付き合いいただき、その前からの分もあわせて全部で115本をゲットした。

『セツナ~材料全部集まったぞ。リボンとんでもない高値になってるけど大丈夫か? 平原行ったけどお前も見かけなかったし、すごい人でミュスの奪い合いになってた』

『ダンビルコンビ誘って下水道行ったから100本以上集まったよ』

『……お前、NPC狩りに誘えるのかよ』

クランへ戻ると、チョコレートが山ほど皿に並んでいる。包装紙の模様がハートだらけだ。

「ピロリに任せたばかりに……」

「可愛いからいいじゃないのよー」

「イベントNPCに渡して後は自分で食べるだけだぞ。ハート柄の箱を開く俺らの身にもなってみろ。ただ、デバフ解除のいい料理らしい」

「自分用でも包装しないと完成しないから、可愛くラッピングしないとねッ!」

結構な量の材料を調達したらしく、1人10個は確実のようだ。

柚子は今日はログインできない。仕方ないので柚子用のチョコもラッピングしておくことになった。

「く、リア充でござるね!!」

「半ちゃん……南無」

「ピロリ殿もはぜるでござるっ!!」

「セツナ君が異様にラッピングが上手いんだが……」

「ラッピング依頼受け付けますよ」

バイト経験です。カチッとしたタイプだけじゃなくて可愛くもできるぞ!

「リボンこれどうなってるの? お花の塊みたいになってる。可愛い。これ私も欲しい」

結局ほとんど俺がラッピングした。まあいいけど。

1人10個でリボンが余るので2種類使ったり、かなり豪華な物にした。

そして、さあいざいかん!! アンジェリーナさんの元へ!!!!

「やあセツナ君!」

「オーランさん。こんにちは」

「あ、チョコレートだね。ありがとう。これは俺からのお返し」

《オーランへチョコレートをプレゼントしました。オーランからチョコレートをもらいました》

いやいやいやいやまてまてまてえっ!!

え、何、怖い。追い剥ぎ!?

【持ち物】にはオーランのチョコレートが増えている。説明には、『すべての状態異常を解除後に受けていた状態異常完全耐性3分間』とあった。

強すぎ。喜ぶべきなのだろうが、アンジェリーナさんにあげるはずのチョコなのだよ!?

「それじゃあね、あんまりよそ見して歩いてたらだめだよー?」

安定の子ども扱い。いや、これは、よそ見してるとチョコレート 掏(す) られるぞってことか!?

アンジェリーナさんの店への最短距離を狙う!

「あ、セツナ君。さっきはどうも……チョコレート、嬉しいな」

「ありがとうね、セツナ君。またミュス狩り行こうね」

ダンとビル。マイナス2チョコ。プラス2NPCチョコ。何気に持ち物の中の1枠取るからめんどくさいなこれ。名前付きなんだ。

「こんにちはセツナさん」

「よお、セツナ!」

モランとハザック。お仕事向かうところらしいですよ。追い剥ぎ……追い剥ぎチョコプラス2。

「やあセツナさん。いつでもロフトベッドの注文は待ってるよ」

普段店から出て来ないくせに!! いてもゴワン商会の方だけなはずなのに! 何うろついてるんだよっ!!

結局名前付きNPCチョコが6個。怖い。薬師のヤーラとか、鞄屋のレラントなんて会ったばっかりだから、拙い!!

俺はあまり推奨されていない、街中走りを始める。走らないと、余計なのに会う前に!!

こそこそと道を進んでいると、後ろから肩を叩かれる。

「なんでっ!!!!」

もうフレンド、アランブレにいないはずなのにっ!!!

大声で嘆きながら振り返ると、驚いた顔をした2人の女性。

「あ、ごめん。住人かと思って」

ホントいきなり威嚇してごめん。1人が街中あちこちで見かけるバレンタインイベント限定課金衣装を着ていた。つまりユーザーだ。頭の上に名前と、クラン名が書いてある。『深淵のコルニクス』とあった。

「いえ、突然すみません。あの、始まりの平原が人だらけで、もし持っていたらでいいんですが、リボンを売ってもらえないでしょうか?」

あー、あの平原で思うような狩りはできないよな。

「いいよ。何色がいい?」

「水色とか薄紫とかがあったら……」

「ん、じゃあこれ」

ちょうど2つともあったので相手の手に乗せる。

「あ、お金を」

「いや、別にいいよ、驚かせたお詫び。今急いでるからごめんね」

NPCに会う前に早く行かねばならぬのだ。

貸本屋の扉を開ける。ここでもまだ気を抜いてはいけない。中にヤーラ婆がいるかもしれない!!!

だが、店内は静かなものだった。カウンター向こうで今日も麗しいアンジェリーナさんは本を読んでいた。

「あら、いらっしゃい、セツナくん」

「ここここんんにちは、アンジェリーナさん」

ひ、久しぶりに緊張してきた。

また退出しろって怒られるから、ゆっくり深呼吸する。そして、頑張れイケボ!

「アンジェリーナさん、もしよかったらもらってください」

一番綺麗で可愛いと、ピロリ(中身男)にいわれた包装のチョコレートを差し出す。

アンジェリーナさんは大きな瞳をさらに大きくさせていた。

そして――、

「ごめんなさいねセツナくん。今、ダイエット中なのよ」

俺は失意の元、クランハウスに帰還する。

「よお、どうだったセツナ」

「……断られた」

「ああ、やはり」

「やはり!?」

八海山に俺は詰め寄る。

「今回のチョコ、NPCはフレンドになってないと渡せないっぽいって話が掲示板にあったからさ」

「うああああああんんん!!!!」

その後、ローレンガに友チョコを渡しに行きましたとさ。

1ヶ月後。

当然のようにホワイトデーイベントがあり、チョコレートを渡した相手が次々に飴を持ってきた。お礼の飴を必死に作った。