軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35.水瓶に捧げる御神酒

そろそろログアウトの時間だ。

さすがに先行で楽しめる街を今日一日で終わりにする気はないので、仕方ないから宿屋に泊まることにする。

夜も更けてきていて、大通りにも人はあまりいない。

宿屋はだいたい門から入ってすぐのところにあるのでそちらに向かうと、案山子に行き会った。

「セツナっち! どうだった? お子ちゃまのおうち」

「旦那さんが藍染め職人で、ストールもらいました。あとは砂金の情報」

「おおー、じゃあ次はメインストーリーの流れを探すかなぁ。この街に住むパン屋の娘さんのお父さんの知り合いと話さないとだよね~探すところから」

メインストーリー、後で復習しておかないと、正直ベルトコンベアに乗せられて進んでた感じで、細かいところを覚えてない。

「チーズはどうだった?」

「もうね、最高ッ! グラタンとかこれで自家製チーズマシマシで作れるッ!! チーズケーキも作れるッ!」

なんでも各種チーズを次々に教えてくれたらしい。

「あー、乳牛と水牛と飼えるクランハウスとかないかなぁ~」

それはもう、島だね。

「柚子っちも蒸留施設欲しいって言ってた」

「工場レベル……」

「いや、小さいやつもあるんだよ。でも今のクランハウスじゃなぁ~」

場所がない。部屋に置いてもいいが、それも部屋がそれだけになって厳しいらしい。タンスが置けないくらいの大きさ。

「まあ、欲望は尽きないッ!」

自由度が高いとこんな事態になるのか。

明日は何をするかなと思いを馳せながら、就寝。ログアウト。

起きるとちょうどみんなもログインしたところだったようだ。

『セツナ、悪いけどダンジョン行ってくるからパーティー抜けてもらうな! なんかあったらクランチャットによろしく』

『あいよー』

あちらは完全やる気でガチガチに装備も揃えたと、リアルメールが届いていた。

これだけの規模のゲームで、最先端は心躍ることなのだろう。文面が小学生かと突っ込みたくなるような拙さで笑った。

今日は、またもやぶらり街歩き予定。神殿にも行きたい。あと、昼を昨日お勧めされた別の定食屋に行くつもりだ。

行き交う人々がおはようと笑顔で挨拶をしてくるので、こちらもつい律儀に返す。

それくらいリアルなのだ。

ちなみに雨は相変わらず。借りた番傘を差している。いつまでも借りているのも悪いから、買うか悩むところだ。

しかし、行き交う人が軒並み挨拶してくるこの状況が少々面倒になってきた。そこで、【隠密】を使ってみることにする。

すると、2人に1人くらいはこちらへの挨拶がなくなった。第3都市から第4都市まで歩くときにも使っていたのが功を奏したのか、熟練度が上がってきているようだ。

そうやって、神殿へたどり着く。さすがに【隠密】は解除だ。

「これはこれはセツナさん。ゆっくり休めましたか?」

「はい、おかげさまで」

先日とは一転して、神殿内部はとても晴れ晴れとした明るい雰囲気だった。雨はしとしと降り続いているが。

頭が水瓶の彫像は何度見てもシュールだ。製作費用が足りずに、頭だけ被り物をしたご当地キャラのようになっている。クールビズ。

「水瓶の神の加護のお祈りですか?」

「ああ、いえ、そういうわけではないんですが、先日はあまりじっくり見られなかったので」

「今は水瓶の神もすっかり寝入ってしまっているようですし、別の日のほうが良いかもしれませんね」

苦笑しながらいう神官に、彼らもあの流れ話を知っているのだろうなとわかる。

「神様は、飲みすぎて、ですか?」

「そう言われておりますね。ただ、ここまで長いのも珍しいことです」

やっぱり異常なのか。

「神様はお酒をどこで調達するのでしょうか。自分の水瓶から?」

「ふふ、セツナさんは面白いことを考えるのですね。供えるお酒はこの街で作られたものです。毎年コンテストを開催して、金賞に選ばれたものが供えられます」

「お酒のコンテストですか!」

「今年はもう少し先ですが、ぜひそのときはお寄りください」

セツナ∶

少し先だけどお酒のコンテストが開催予定らしい。

柚子∶

何!? 詳しく! 詳しくじゃぁ!!

まあ狩り中だからこれくらいまでで。

アキヒトあたりに、連絡をお願いしておくのもありだな。

「今年の金賞のお店に行ってみようかな……」

「でしたらこちらの地図を」

と、お約束の位置情報伝達。

他にもいくつか過去の金賞受賞店を教えてもらった。

「おかげさまで街の悲しみが晴れました。本当に感謝しております」

番傘は返す必要はないともらってしまった。

この街を散策する限り必要なものなので、ありがたくいただくことにする。

西に水田、北の山からの清水。酒蔵も水田近くの西側にある。

水田は、街をぐるりと囲う壁の外側にある。酒蔵はそこからなるべく近い壁の内側だ。

歩いて行くのも良いが、張り巡らされている水路を利用した船にまた乗ることにした。渡し賃はその距離によって変わる。

が、完全に割引価格です。指定されてた金額を払おうとするが、そのうちの数枚コインが残される。

「今日は気分がいいからなっ!」

とかいって、負けてくれるのだ。

これ、いつまで続くんだろう。まあ、お金はその分本に回せばいいのでありがたく割り引かれるが。

船を下りるとすぐ酒蔵があった。

店の前を掃除していた子どもがこちらを見て首を傾げる。

「おはようございます。こちらが金賞の酒造さんですか? お土産に何か良い物を買っていきたいのですが」

「店舗はあちらとなっております」

そう言って案内された。

ずらりと並ぶ酒瓶。日本酒だ~!

「これはこれはいらっしゃいませ。セツナ様ですね。この度は街を悲しみから救っていただきありがとうございました」

名前を当然のごとく知られている。この酒蔵の蔵元さんらしい。つまり、経営者。

「いえいえ。たまたま運よく。……それでも、本当に良かったです。今の神様へのお供えのお酒が、こちらの酒造で造られているのだと聞いて、お土産にと思ったのですが……」

「それはありがとうございます。御神酒は特別に造られた物なのでお渡しすることはできませんが、こちらも同じ製法で造られたものになっております」

「御神酒は別物なのですね」

「ええ、コンテストの時はそれぞれ用意したものをお出しするのですが、実際に神様にお供えする物は、特別な米で造るんですよ。御神米といって、特別に神様に捧げるために育てられた米があるんです」

米も別物なのか。

「中に踏み入ることはできませんが、もしよろしければ見て行かれますか?」

それは、ちょっと見てみたい。