軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295.抜いたら負け

わめいている聖騎士様をよそに、俺たちはパーティーチャットで盛り上がっていた。

『てことで、元々 耳長族(エルフ) も 小人族(ドワーフ) も獣人族も来訪者だったって話』

『おもしれー! ゲートができて閉じるとその土地の人間として受け入れられたってことになるのか』

『その元来訪者は三種族のみなの?』

『俺が読んだ本にはそうあったけど』

「いい加減にしろ貴様ら!」

と、とうとう怒髪天を衝いたリチャードが俺の腕に手をかける。まあ、1番外側で手をのばしやすかったんだろうけど。あと、腕力は負けそうです。

「え、手出すの? 喧嘩するの? 俺はしたくないんだけど。聖地を楽しみ中だし」

と、同時にヴァージルにお手紙を送りました。

『ごめーんヴァージル。ちょっと第10の聖騎士団長さん、サイラスさんに、ここの飲み屋まで来てリチャードさん回収してってお願いしてくれないかな~』

あんまりこの最後の伝手は使いたくなかったけど致し方なし。

「ここのお店の人にも迷惑かけたくないんですけど」

「ならば貴様らがとっとと出ていけばいいだろう。獣人風情がいていい場所ではないのだ! 大人しく第8エリアに引っ込んでいろ!」

「聖騎士様がこれなんてがっかりよねぇ~ってあ、ごめん、表でしゃべっちゃった。うふふ」

ギロリと睨まれるピロリはまったく動じていない。

「すみませんが友人から手を離してもらえませんかね。後ろの同僚さんも止めてもらえませんか?」

「君らが大人しく出て行けばいいのではないか?」

後ろの聖騎士も同じレベルだったようだ。

ソーダの言葉を鼻で笑う。

「俺たち聖地観光してるからあんまり揉め事起こしたくないんですけど」

「だから、それなら揉め事になる前に尻尾を巻いて出ていけばいい」

ちらりと八海山を見て言う。

馬鹿者。八海山の尻尾が巻かれるのはお化けが出て来たときだけだぞっ!

「そういった不当な扱いを享受するつもりはまったくないんだよね。たとえ相手が聖騎士様であろうとも。だいたいお店の人ならまだしも、鎧を着てない聖騎士様にそんな権限ないだろうし」

「鎧着てても自分都合の勝手なことは聞く耳を持たないのじゃ」

「聖地の聖騎士様はみんなの模範とならないとねッ! 獣人嫌いなのは勝手だけど、だからといってその思想の押しつけはノーサンキューッ!」

「貴様っ!」

『リチャードさんおこぉ!!』

『えーどうする? 面倒くさいなこいつ』

『そろそろお店に迷惑かかるわよ? 出て行く~?』

『1番嫌がりそうなピロリ殿がそれでいいならいいでござるよ』

『酒が不味くなるのじゃー! 11エリアで飲み直しじゃっ!』

「女将さんお会計おねがい――」

「表に出ろ!」

そう言って、とうとうリチャードさんが剣を抜いてしまいましたとさ。片手剣。赤い石が嵌まっている。後ろの同僚も動揺してました。アウトだろこいつ。

「あーあ」

「すみません、会計これで足りるでしょうか?」

八海山がそばにいた店員に金を握らせていた。

「多いくらいだわ」

「では残りはお騒がせしたお詫びに」

紳士です。女性に紳士してる。

「表に出るらしいけど誰行く?」

「えー、手加減しないとでしょ、楽しくないから私ぱす~」

「俺も殺さないで終わらせる方法知らない」

基本突き刺しちゃうし。あっちの方が強そうだし。

「では拙者がやるでござるかぁ……手の内はなるべく見せたくないニンニンなんでござるが」

「ごちそうさまでした~」

「美味しかったですッ!」

「お酒もよかったのじゃ~」

お礼を言って外に出ると、リチャードさんたちもついてきた。

すでに剣を抜いているリチャードにぎょっとする表の通りの方々。

『こいつから何のクエストが派生するんだろうな』

『聖騎士団との対立でしかないわよね』

『ただ、サイラスさんの様子を見るに、こいつの反応が普通ではないというのがわかる。過激派だろ、獣人拒否過激派』

「おい、付与しろ」

「はっ? 正気かリチャード」

「あいつらに付与の恐ろしさを見せてやる」

実は付与は付与師でなくてもできる。付与のスキルを覚えればいい。だが、付与師の方が効果が高いし、自分以外にも付与ができるようになる。

ということを半蔵門線から教えてもらった。

「【氷付与】」

つまりおまけの聖騎士は付与師なのだ。

「見ろ、美しいだろう。無属性レインボータートルエッグの最大級のものを使った剣だ。先日父上より成人の祝いとしてもらったばかりの業物だぞ」

まてまてまて。その話聞いたことありますよ。

「無属性のレインボータートルエッグですってよ、セツナくん」

「いやー奇遇ですね~半蔵門線さん、付与しますー?」

そう、実はもうピロリも半蔵門線も付与できるようになっているのだ。付与剣ゲットしてます。

「拙者の最大級のレインボータートルエッグを使った剣を使うまでもない相手でござるよ。カカカ」

カカカじゃないんだよね。わざとらしい笑い方にギロっと睨まれる。

「お前たちのようなものがレインボータートルエッグを得られるわけがなかろう!! あれがどれだけ貴重なものかわかってるのか!?」

なんて言われちゃ見せるしかない。

「拙者は小太刀を付与剣にしたでござるね~」

と、半蔵門線。鞘に納めたまま【持ち物】から取り出した。付与しないと妖刀の方が性能がいいらしく、普段はしまっているそうだ。

「俺は 細剣(レイピア) にしたんだ~いいだろー」

腰を軽くひねってチラ見せ。

へへっ、最大級ですよ。

「私はなんと2つでぇーっす」

双剣を【持ち物】から取り出したピロリ。ニコニコではなくニヤニヤしてる。やらしい笑いだな。

「俺も武器に使えるように一応手元に一個持ってるな」

拳銃がやっぱり欲しいそうです。ソーダは。

珍しく高価な無属性レインボータートルエッグを使った付与剣がぞろぞろ出てきて、リチャードは口を開けたり閉めたりパクパクしている。池の鯉にでもなってしまったのだろうか。

「こらこら、あんまりいじめちゃダメなのじゃ。父ちゃんに作ってもらった記念の代物じゃよ。大切なものじゃ。モンスター倒すのに付与はとっても有効じゃから、父ちゃんも息子を思って作ったのじゃろうて。まさか、往来で人に向かって剣を抜くなんて思ってもみなかったじゃろうなあ。嘆かわしい」

救いに行ったと思ったら貶めていた。恐ろしい子!!

「貴様ら全員痛い目に遭わせてやるっ!!」

おこおこのリチャードの剣がピキピキと冷気をまとい氷の刃を伸ばしていく。

「おい、リチャード、付与の影響を考えろよ」

「うるさい!」

「何をしているっ!!」

昼間よりずっと重い怒鳴り声に、俺までびくぅっってなっちゃった。

リチャードの後ろから第9都市の第10聖騎士団団長、サイラスさんが登場した。その後ろには闇夜にも浮かび上がるイケメンヴァージルさんが……怒ってるぅ。

『せっちゃん……』

『おまけがついてきてしまった』