軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

192.みつかっちゃった

先ほどからトラヴィスはうろうろうろうろ落ち着きがない。まあ、己の進退がこれで決まるのだからわかるっちゃわかるが。

柚子と一緒に暑苦しい双子の像を眺めていると、声を掛けられた。

今日はちゃんと【気配察知】を使っていたので近づいてきた時点で気付いていた。

「やあ、時間通りにすばらしいね」

「こんにちは」

何事も挨拶からです。

貴族の名前はジャック・アクティス。本名かは知らないが、名乗り上げた瞬間から頭の上にオレンジ色の文字が浮かんでいる。

「それで、性急ではあるがどうだった? 見つかったかな?」

「はい、【鑑定】もできました」

「ふむ、聞こう」

ふむ、聞こうじゃねーよっ!!

「その前に絵画を鑑定させてもらえますか?」

「ああ。そうだね。渡しなさい」

後ろに控えている、ごつい騎士さんが黒のトランクを開いてこちらに差し出す。俺は受け取って【鑑定】した。間違いなく『優雅な春のひととき』だ。

「よい、渡しなさい」

まだこちらが情報を開示していないのに報酬を渡すことをためらう騎士に、ジャックは再度促した。

柚子が受け取って【持ち物】にしまう。

「タイトルが必要ですか? それとも、書かれていたことが必要ですか?」

「そうだな、どちらも……と言いたいが、君が重要だと思う方を」

「では、『アランブレの『ノティーティア』という店に酒を持ち込め』だそうです」

「ほう……ヒントはそれだけだったのか」

「【鑑定】ではそれが限界でした」

【鑑定】ではね!

「ふむ。ありがとう。退屈な人生に楽しみが増えたよ」

「それで、持ち込むお酒は必要じゃありませんか?」

俺は【持ち物】からさっと日本酒を取り出す。

「ローレンガの酒か。いいね。せっかくならここら辺で飲めないものの方が喜ばれるかもしれない」

「100万シェルですけど」

「ふはっ! 高いな。だが、それだけの価値があるということかな? いいよ、支払おう」

こうして我々は1000万シェルの価値がある絵画を手に入れた。

あと、お小遣いを少々。

『柚子さん、手数料ゲットしましたよ!』

『せっちゃんナイスじゃ~』

「ああ、これで俺は!! 君たち本当にありがとう!! 助かったよ!!」

と、柚子からトランクケースを受け取ろうとするのでその手をびしりと叩く。

「いたいっ!!」

「トラヴィスさん、あなたこれどうするつもりですか? 相手は家宝か、1000万シェルって言ってるんですよ?」

「ああ、友人の知り合いの画商に売ろうと――」

「あほかっ!」

「どあほうなのじゃっ!!」

「ひぃっ!!」

「あんたその知り合いの画商に二束三文の絵掴まされたんだろうがっ!! もうこちらで売買終わらせますから、屋敷に戻っていてください!」

これを無駄にされたらさすがに俺もオコですよ。

ということで、美術品を正しく買い取ってくれそうな人にハトメール!!

『ちょっと現金が必要で、絵画を買っていただきたいんですけどどうでしょう? 専門でなかったら信頼の置ける画商さんを紹介していただきたいです』

『セツナさんからの持ち込みは大歓迎ですよ。アランブレの店に来られますか?』

ファマルソアンさんが執着怖いけど1番信用がおける。

柚子と一緒にクランハウスから以前レインボータートルエッグを売りに向かったアランブレのお店へ行く。

「うおおお、すごい豪華なのじゃっ! ひゃっ! この、宝石、す、すごい」

「とってもお似合いだと思いますよ~柚子さんなら5%引きさせていただきます」

「だめじゃー、こんなもの集め出したら無間地獄なのじゃぁ……」

確かに、宝石すごく綺麗だけどお値段もすごいからなぁ。

前にも入った部屋に案内されて、こちらも品物を取り出す。

「おお、素晴らしい。ロメーヌの『優雅な春のひととき』ですね。ふむ。鑑定書付き……間違いありません」

そう、鑑定書もちゃんと付いてる。トラヴィスのには付いてませんでした。

「さて、お値段ですが……そうですね、1200万シェル、でどうでしょうか?」

「そんな高く買い取ってもらえるんですか?」

「ふふ、普通なら性急な取引は現金が必要な方と多少足下を見るのですが、セツナさんと私の仲ですからね! 適正価格で買い取りましょう」

俺が見たのは1250万シェルだから、適正価格になるだろう。

「それでお願いします」

「準備させますね」

ファマルソアンが言い終わらないうちにカランさんがアタッシュケースを持ってきた。

「カランちゃんありがとう」

無表情の美人秘書さんだ。

お互い金額を確認し、取引完了。

「こちらはとてもよいお取引でしたが、セツナさんはこの素晴らしい絵画を手放してよかったのでしょうか?」

「あー、芸術にはそこまでなので、必要な方の元に渡るのが1番だと思いますよ」

「そうですか。また何かあれば是非」

さて、トラヴィスを終わらせよう。

イェーメールに騎獣で移動し、屋敷に突撃。ご本人を引っ張り出してきて、例のお店に行く、と。

「ヴァージル!?」

「セツナ!?」

聖騎士のみなさんが揃っている。

「あ、セツナくんちーっす」

「アランさん、ちーっす?」

他にも案山子のカツサンドにやられた面々が揃っているのでニコニコとご挨拶される。聖騎士の鎧着て、今日は完全なる公務である。

「こんなところにどうしたんだい?」

「いや、あのー」

「……トラヴィス兄さん?」

こそこそ逃げようとしていたところを見つかった。

「や、やあ、我が弟よ。久しぶりだなぁ」

すっと眉を寄せるイケメン。

同じDNAを引き継いでいるがくたびれ顔のトラヴィス。顔いいはずなのに、キラキラエフェクトがないとここまでくすむのか。

「ヴァージルたちは今日は仕事?」

「ああ、不正カジノがあると聞いてね。緊急取り締まりをしたんだ。ほとんどは捕まえたが、トップは取り逃がしたようだ」

後ろ手をロープで縛られた、見たことのある面子がぞろぞろと地上に上がってくる。

これは拙いんじゃと思ったが、相手は何も言ってこない。

ぎろりと大男に睨まれるが、ぐっと噛みしめ声をも漏らさない。

「これ、しゃべれない魔法とか使ってるの?」

俺の質問に、ヴァージルは不思議そうな顔をする。

「いや? そんなことはないが」

ならば自ら口を閉ざしているのだろう。あのとき支配人と言われた男がいない。つまり彼は逃げたのだろう。

さて、どうするか。

「俺と柚子はこれから腹ごしらえと思ってたけど……ここのお店はダメか」

「ダメだなぁ。なんならうちに来てもいいけど」

「いや、それならもうクランハウスに帰るよ。お仕事の邪魔してごめん」

「別に邪魔ではなかったよ」

と、笑顔で返される。

「また今度案山子が作ってくれたご飯持ってくね。みなさんの分も」

周囲の聖騎士が笑顔になる。カツサンド盗み食い犯たちだな。門番しているところへあげた覚えがない人たちがいる。

それじゃあと立ち去ろうとするが、トラヴィスが捕まった。

「兄さんはなんでセツナといるのかな?」

「いや、あの……ちょっと変なのに絡まれてるところをお2人に助けてもらったんだ」

大変嘘くさいトラヴィスの台詞に、ふうんと漏らしたヴァージルは微笑む。

「今度1度家に帰るよ」

詰められるな、これ。