軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

179.落ちた先で

こんにちはと俺が地下の店の扉を開けたところに現れたのは、黒いマスクをした男だった。マスクというのは口元に、ではなく、目元だ。あやしぃーと思いながらも、俺は話しかける。

「上の雑貨屋さんに、本を読みながら軽食を楽しめる場所だとお聞きしまして」

「いらっしゃいませ。どうぞ奥のお席に。本はこちらの本棚の物をどうぞ」

本棚はわりと立派な物で、物語や神話に関する本が多いようだった。とにかくタイトルを覚えておこう。情報を持って帰るために!!

「お酒はさすがに昼間からは悩ましいので、ドリンクと軽食でもいいですか?」

「ええ。もちろんです。それでは先にそちらの注文をお聞きしましょうか。作っている間にどうぞゆっくり読む本をお選びください」

さあどうぞと奥の席を勧められたのだ。

店の中は長細く、手前はバーカウンターのようになっていた。奥に席が3つ。ボックス席のようになっていて、何人かで来ても問題ないようだ。

テーブルにはランタンが置いてあり、店内は暗めだが、本が読めるよう、手元は明るく照らされていた。

本を読みながらという話は嘘ではないようだ。

奥のソファの席に通され、メニューを渡される。

「ありがとうございます」

そう返事をした瞬間、店主はにやりと笑った。

カチャンと音がして何事かと思った瞬間、落ちていた。

ソファがくるりと回転して、床が抜けて、もちろんシートベルトなんてしてない俺は、真っ逆さまに落ちていったのだ。

「ごきげんよ~」

はえええええええっっ!!!

これは落下死? と思っていたらなにやらとても柔らかい物にぼよんと当たって無事。ダメージ判定ゼロだった。しかし上を見上げても真っ暗で、どのくらい落ちたのかもわからない。

なんてことだ。

渋るアンジェリーナさんの顔を思い出す。

あまり深追いしないでねと念押しされたのに。不覚っ!! てかこれ、どうなるんだ?

とりあえずぽよぽよの上から立ち上がり歩いてみる。トランポリンみたい。【夜目】があるので薄っすらではあるが自分が四角い大きな部屋の一角に落ちてきたのだとわかった。かなり広い場所だが、特になにもないように見えた。が、【気配察知】に引っかかった。

「【ライト】」

生活魔法の【ライト】は指先か、触れた場所。本当は何かいる場所にぶっこみたかったのだが、できなかった。ので、指先に灯しながら近づくと、声がした。

「誰? ……人?」

「こんにちは」

「こんにちは……貴方も落ちたの?」

「ですねー。いやー、ご飯を食べながら本をゆっくり読めるって言われてホイホイ」

「私も、新しい雑貨屋ができるって言うから、見に行ったの。ほとんど商品が並んでるのに、まだ開店準備中だって。それで、店主が、地下のお店に特別美味しいご飯メニューがあるっていうから来てみたら……もう、なんなのよ」

そうやって話している彼女。ヒューマンタイプの、薄茶のボブな女の子だ。

うーん、NPCだな。名前がもう出てて、さらにNPCのオレンジネームなのだ。

「来訪者向けの店だと聞いていたんですけど、あなたは来訪者ではない、ですよね??」

「あ、わかっちゃう? 店主にそこバレたからなのかなぁ~。キャロットって言うの。よろしく。雑貨屋好きだから、来訪者の方ですか? って聞かれたけど嘘ついちゃった。貴方はどちら?」

「セツナです。俺は来訪者ですね。そういえばさらっと聞かれたな、俺も」

いったい何目的なのか、まだよくわからない。

とりあえず周囲を調べようということで、部屋の中をライトを付けたまま一周する。キャロットもついてきた。

「下にあんな風に柔らかい物を置いてあったということは殺す気はないようですけど……来訪者の振りはしていた方がいいかもしれないですね。来訪者がキーワードな気がします」

「う、うん。わかった」

ここに落ちてから、なんと、クランチャット封印されてます……わーん。

フレンドチャットももちろん封印。

ヘルプができないのだ。にんとも心細い。

「あ、扉があるよ?」

「おお」

俺が扉のノブに手をかけたところ、アナウンスが響く。

《クエスト:アランブレの奴隷商人が開始されます。途中でログアウトした場合、現在のメンバーではそこから始まりますが、他にプレイヤーと合流した場合、話が進んでしまう場合がございますのでご了承ください。今までの行動原理を元にして、他プレイヤーとともに貴方のアバターが行動をする場合もございます。》

おおう……そんな。NPCだけならストーリー止めるけどってことか。でもそうか、そうなるよなぁ。てか、プレイヤーと合流することがあるのか。しかも奴隷商人って。完全に来訪者奴隷にする気だ。何の奴隷にするんだろう。1日動いて2日寝ちゃいますよ?

起床時間まで、ゲーム内時間で十時間ほどだ。

まあ、だからといってここでログアウトしてもな。やっちゃおー!

俺は扉の取っ手をぐっと押した。キャロットが後ろから着いてくる。

顔を少しだけ覗かせると、そこは電気のついた通路だった。石で作られている。先ほどの部屋とそう変わらない。

「静かに行きましょう」

【気配察知】フル稼働で俺が進むと、向こうから人がやってくる。ヤバイ。見つかっちゃう。

慌てて横の、誰もいない部屋に飛び込んだら、なんということでしょう……先から来てた人が同じ部屋にやってきてしまった。

って、さっきの商人さんじゃん。うあああんん。

「部屋を出た辺りから見張っておりました。【気配察知】をお持ちのようですね。いいですね~スキルがたくさんある人は高く売れます」

俺は腰の剣を抜く。キャロットも同じように短剣を構えた。

「【パラライズ】」

うおー、麻痺だぁ~それは思い切り掛かっちゃう~!! 毒ならちょっと訓練したのに。

「麻痺耐性はないようですね。いいですね。それでは今のうちに奴隷の首輪をしてしまいましょう」

いやーっやめてっっ!!

牢屋にわざと入るプレイヤーがいると聞いたけど、奴隷プレイは嫌だよ~!

まあ、何か救済はあるのだろうが、これは、こー、どれだけ抗って救出されるか、逃げ出せるかクエストな気がする。

商人の後ろにいた屈強な男が、俺とキャロットに黒い首輪を付けた。

「さあさあ、来訪者のお2人さん。働いていただきましょう」

そういう趣味はないんだよー!!