軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

178.男の影

さて、貝採り。

ファンルーアのあたりならもう1人でもいけるか?? と思いつつも、貝が採れる場所がわからないし、その貝で合っているかもわからない。

セツナ:

クティス貝ってどこで採れるかわかりますか?

八海山:

レインボーシータートルの海岸からマップ1つ奥へ行ったところだね。

そこなら1人で行けそうだ。

八海山:

ただ、かなり狂暴だからセツナ君1人じゃ無理かな。

セツナ:

oh……

ソーダ:

なんで今更クティス貝なんか?

セツナ:

レイピアの触媒なんだよねー。

ソーダ:

おおっ!? んじゃあ、あー今やってるクエスト終わったら行こう。

細剣(レイピア) の受け取りもう少し先だったよな??

セツナ:

あと少しかかるね。

ソーダ:

じゃあまた連絡する。

セツナ:

ありがとう。

となると、暇ができる。暇になったら行くところは決まってる。まだ日は高い。

アンジェリーナさ~ん!!!!

クランハウス経由で貸本屋へ向かうと、俺の前に男が入って行くのが見えた。

まさかまさか、来訪者に見つかった!? それは、ダメだ。お、脅してでも退出させたいっ!!!

などと昏い感情を抱えながら急いで扉を開ける。

カウンター前にいる男が、その音で振り返った。眼帯してるイケメンっっいやっ! 俺のアバターだって結構なイケメンなんだよ~普通に、普通にイケメンなんだってばっ!

「いらっしゃいセツナくん」

「こんにちは」

俺とアンジェリーナさんの普段の会話。男は、NPCのようだ。頭の上に名前が表示されている。名乗ってないのに変だなと思いつつも、カウンター近くの本棚で耳をダンボにしていた。

そう、そんな風にNPCの会話を聞こうなんてしたことなかったから、【聞き耳】が生えました。わー。スキル本当にそこら辺に転がってる。

「誰か人をやって聞いてみるしかないだろう」

と、眼帯男、ウォルトが言う。

「誰かって誰よ……」

「来訪者に知り合いはいないのか?」

「こんな面倒なこと、頼めないわよ」

「だが、時間もない」

なんだ、面倒ごとって。アンジェリーナさんのお困りごとならこの身を捧げてもいいんだが、あの男がぁぁぁ……。

眼帯イケメンと、我が美の女神が並んでるのが許せん。ぐぎぎぎぎぎ……。

適当に本を1冊持って貸し出しへ向かう。

「ごめんなさいね、ほら、どいてちょうだい」

カウンター前に陣取るウォルトをアンジェリーナさんがおいやる。彼は、俺のことをまじまじと見ていた。なにぃ……。

「もしかして彼が『セツナ』か?」

男に名前知っててもらってもなにも嬉しくないんだが。

「そうよ、うちの常連さんで本好きのいい子よ」

いい子です。いい子ですけど、その口ぶりだと俺のことを話したってこと? えっ?

アンジェリーナさんが俺のことをこの男に話した。

それがどういった種類のお話なのかが気になって夜も眠れない。今寝てるけど。仕事が手につかなくなりそうっっ。

「彼に頼んだら?」

「ウォルトっ!」

「アンジェリーナさんのお困りごとですか?」

俺が尋ねるとウォルトはにやりと笑った。

「そうだよ、実はね、うん、そうだ、アランブレに商売敵ができそうでね。ちなみに俺はミラエノランで貸本屋を営んでいる」

「ミラエノラン……第7都市ですね。名前だけは聞いています」

ファマルソアンの本拠地だ。

「貸本屋業は図書館があるそばで細々と続いていてね、それぞれの店主の趣味が反映されたラインナップになっていて、それなりに人気があるんだよ。まあ、1軒が2軒になったところでそれほど変わりないとは思うんだが、気になるのは気になってね……」

とは言うが、なぜこの男がアンジェリーナさんのお店のことまで気にする!?

「貸本屋さんはチェーン店なんですか?」

「ちぇーん……? よくわからないが、たぶん、察するに、横の繋がりの話だろう? 代々続いている店だからね、各都市ごとに大体1店舗あるんだ。お互いの顧客の希望を叶えるために本をやりとりするくらいの連帯感はあるんだよ」

あー、貸本屋協会みたいな?

「ただ本当に貸本屋になるのかちょっとわからなくてね。探りを入れたい気持ち、わかるだろう?」

ちょっとわかっちゃった……。

「なんでも来訪者向けの店にするらしいから、住民への対応が素っ気ないんだ」

「それで、俺に様子をうかがってきて欲しいと」

「セツナくん、いいのよ。こんな話聞かなくても」

「でも、アンジェリーナさんも気になってるんですよね?」

俺の問いに口ごもる彼女が可愛すぎて即オッケーですよおおお!

「時間もあるのでちょっとチラ見してきますよ」

「おお、助かる」

お前のためじゃねーからなっ!

「セツナくん!?」

「任せてくださいアンジェリーナさん!」

地図を広げてその新しい店舗の場所を教えてくれる。

「それじゃあ行ってきますね」

「あまり深追いしないでね? ほんとうにちらっと見るだけでいいからね?」

最近街を歩くとき、人以外を【鑑定】しまくっている。【鑑定】しきれないところを早く見られるようにするためだ。さらに、先ほど出た【聞き耳】を使うと、プレイヤーではなく、NPCの声が漏れ聞こえてくるようになった。猫又の話を聞いたときはクエストで聞かせるようになっていたが、今はそれこそほんの日常会話が次々耳に飛び込んで来た。

『新しいパン屋が開店したそうだ』

『西の靴屋がとうとう閉店したらしい』

『お貴族様が新しいパーティーを開くとかで、ドレスを作るのに必死だそうだよ』

『新しい店は来訪者に向けて作られているという』

ほんとうに、ポンポンと耳に飛び込んできてやかましい。

そうして辿り着いた店は、1階は道具屋、地下1階は軽食と酒を出す店、だそうだ。

本の欠片もないんだが、どういうことだろう。

道具屋の方は、キオスクタイプではなく、中に所狭しと売り物が置いてあるタイプだった。大通りから1つ道を入ったところにあり、うるさくもなければ、人が訪れないような奥まった場所でもなかった。

「いらっしゃい」

「お邪魔しまーす」

店内を見渡すが、本は1冊も置かれてなかった。

あれーっ?

「何かお目当てのものがございますか?」

店主であろうおっさんが、揉み手をしながら俺のそばまでやってくる。

ついストレートに聞いてしまうのが俺の悪い癖。

「新しく店ができるって聞いたから見に来たんだけど、もうできてるし驚きました」

「まだまだ商品の陳列が追いついておりませんが、来訪者の方ですか? 開店の際にはぜひご贔屓に」

おお、これ以外にもあるのか。棚は満タンに見えるけど。

「ポーション類は間に合ってるんですけど……本はないんですね」

「本、ですか……」

店主は小首を傾げる。

そしてにこりと笑った。

「この店の地下に、軽食とお酒を出す店があるのですが、そちらには本も置いてあるんです。もしかしたらそのことかもしれませんね」

「お酒と本」

「ええ、ゆっくり読まれる方も多いらしいですよ」

へええ。

「昼間はノンアルコールを提供もしていますし、もし良かったら覗いていかれればどうでしょう?」

「そうですね、ちょっと覗いてみようかな」

もしかしたらそちらの話と伝言ゲームがミスって混ざってしまったのかもしれない。

あまりにも本に関して何もないまま帰るのは忍びないので行ってみることにした。

そして俺は奈落に落ちた。