軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第259話新学期デビュー

「……」

僕はまだまだ暑さの残る日差しを感じて目を覚ました。

場所は寮の自分の部屋で、長い休みでだらけた時間感覚に冷水が浴びせられたようだ。

「……夏が終わった」

僕は呟く。

何やら長い夢を見ていたような感覚だが―――新学期である。

新学期の始まりはだいたいいつもと同じようで、どこか何かが新しくなったような

新鮮な空気で始まった。

僕は1学期を思い出し、どんな風に過ごしていたかな? なんて考えながらいつものように自分の席に腰を掛ける。

まぁ新学期とはいえ空気の固まりきった同じクラスだ、特になんということはないと思っていたが……ガラリとある生徒が教室に入ってきた瞬間、クラスは騒然となった。

そしてざわついたのは主に男子であった。

「……だ、誰だあれは? あんな娘いたか?」

「う、美しい……」

「え? 誰? お前知ってる?」

などなど、動揺で色めきだつ面々。

僕も心当たりはなかったが、その美女の視線が一瞬だが確実に自分に向けられて内心首を傾げた。

そして彼女が自分の席に座った瞬間、男女問わずクラスメイトは更に動揺した。

「ハットリ!……まさかそんな」

「ハットリさん……だと!?」

「マジで言ってるのか?……マジかーノーマーク過ぎる」

何気に失礼だよ君達?

叫びそうになる声をギリギリで抑え込んだようなくぐもった声がそこら中であがる。

そして動揺したのは僕も同じだった。

まぁ……動揺した内容はたぶんみんなとは違うだろうけど、その動揺具合はクラスでも上位に位置すると自信があった。

いや……新学期デビューにもほどがあるだろう。

確かに魔法の化粧品のレシピは渡した。

しかしおそらくそのすべてを惜しみなく使用しなければあれほどの肉体改造は成立しない。

しかも骨格から変化するものは、一過性のもの……それこそ化けるくらいにしか使えない、しかも苦痛を伴うもののはずだ。

ニュー服部さんは荷物を置くと、今度は僕の席に真っすぐやって来て、開いていた前の席の椅子に座る。

そして自然な動作で足を組みクラスの視線を独り占めして、自信に満ち溢れた雰囲気のまま服部さんの声で言った。

「―――ワタヌキさん? おはようございます」

「オ、オウ。おはようございます……その姿は?」

僕は誰にも聞こえないように声を潜めて問う。

すると服部さんは素知らぬ顔でツルツルのキューティクルの髪をかき上げた。

「はて? 何か変わりましたか? いつも通りだと思いますが?」

「流石にそれは無理があるでしょう? ……まさか、全部使った?」

「使いましたが? 何か?」

そうか……やっちまいましたか。すげぇ女だ。

僕はある意味その躊躇いの無さを賞賛しつつも、背筋がヒヤリとひり付くような恐怖を覚えた。

「いやいやいや……それはさすがに……わかってる? あれって元に戻るんだよ? 使うたびにめっちゃ痛い奴もあったでしょう?」

純粋に心配っ! ちゃんと説明読んだよね?っと視線で訴える。

だがしかし彼女はすべてを受け入れていた。

その上で優雅に頷いた服部さんはうっとりと色気があふれ出すような恍惚とした表情を浮かべて満足そうに主張した。

「初めて理解しました……お洒落とは我慢なのだと―――ゆくゆくはこの弱点すら克服した究極の魔法薬を開発して見せましょう。そのためには貴方の協力が不可欠だとも理解しています。今後ともよろしくお願いいたしますね?」

「えぇ?」

妙に丁寧になったのは多少見直してもらえたと言う事か?

しかしデメリットを理解しつつ、当然のように新学期にアイテムを使用してくるその根性に脱帽だった。

「では、失礼しました」

ニッコリ微笑み、自分の席に戻った服部さんは僕の席にドロッとした困惑と嫉妬の混じる視線を置いていった。

ちょっと勘弁して欲しいんですけど?

しかしこの程度の騒ぎ、この新学期の前菜に過ぎなかったらしい。

「女王だ! 女王が来たぞ!」

「?」

そんなよくわからない知らせが届くと、クラスの相当数が立ち上がって走って行く。

そして素早く扉開け係?が、教室の扉を開け。

並んだ生徒達が頭を下げると、困り顔の黒髪の美少女が扉の向こうから顔を出す。

「クイーン! おはようございます!」

「鞄をお持ちしますよクイーン!」

「肩をおもみしましょうか? クイーン!」

「……ありがとう、でもいらないわ」

さっと手を振るだけで全員を黙らせ、颯爽と肩で風を切って歩く月読さんはまさに女王の風格だった。

……えぇ? 何事ぉ?

ちょっと目を離していたら、てぇへんなことになってた。

愕然としているのは少数で、おそらく帰省組だったクラスメイトに違いない。

僕のクラスは居残り組が多かったんだなーなんて、ちょっと現実から目をそらしながら、月読さんも遠くへ行っちまったなーなんて考えてしまった。

しかしその女王。

何を思ったか、僕の姿を見つけると真っすぐこちらへやってきて、ポンと肩を叩いた。

「……おはようワタヌキ君。実は少し話があるの? いいかしら?」

「…………」

とたん集まる先ほどとは比べ物にならない殺気の籠った視線を一気に集めて、思わず涙が……っというか、新学期早々大量の冷や汗が滴りそうだ。

今このクラスの負の視線がすべてここに集まってきてるみたいだ。

僕はゴクリと喉を鳴らす。

断るべきだと危機感知センサーはそう告げていた。

しかし顔を上げると、気が付いてしまったのだ。

女王の風格さえ感じたはずの月読さんの目が、穏やかな笑みを浮かべつつも目が必死だということに。

「……いいよ」

「そう―――ありがとう。後で改めて連絡するわ」

「……」

どいつもこいつも、新学期デビューにもほどがあるんじゃないだろうか?

だけどまぁ、案外よくあることなのかもなぁっと遠い目をして、心の平穏を保つべく心の窓をシャットアウトした。