軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第215話上位天使の試練

「思ったよりも早くたくさん集められたので、では今度はいよいよ上位の天使をテイムしていきましょう。これは先生は一度見てますね?」

「ああ。時間のやつか……」

中位天使が入れ食いだったことで予定を前倒しにできたわけだが、続いてやってきたのは僕も龍宮院先生も見覚えのあるストーンサークルの立ち並ぶ、異様な結界入り口だった。

「こいつは、まぁめちゃくちゃ強いです。時間を司るとか言われても意味わかんないですし」

「だろうね! そもそも天使って時点で私は意味わかってないけど?」

かつて時を操る魔法文字を拝借するためにやって来たこの場所は、当然のように時を司るボス天使が守護している。

今回のターゲットはそのボスの上位天使だった。

「上位は一番厄介で、でも一番簡単にテイムできるモンスターです」

「……矛盾してない?」

「はい。わかっていますとも。レベルは階層+1くらいなので、他の強力なモンスターと大差はないんですけど単純に上位の天使はパラメーターが高くて……そして何より厄介なのは特殊能力なんですよね。まぁお察しの通り、目の前のこいつなんて体感時間を止めてくる厄介な奴です」

実際まともには戦いたくないと今でも思っている。

たぶん攻略君の攻略が真っ当に戦うことだったら、僕は断っていたかもしれない。

「……厄介なんてもんじゃないだろうそれ? 絶対避けるべき相手だよ」

龍宮院先生もそう思ったみたいだが、本当にこいつに関しては問題なかった。

「本来ならそうです。だけどテイムする方法が決まってるんですよ。手順通りに行動すれば必ずテイムできる謎解きです」

「…………あー、そしてそのやり方を君は知っていると?」

「そういうことです。では行きます」

「……わかった。まずやってみよう」

時間の流れが遅い部屋を作った時に大変お世話になった天使は入り口もすっかり治ったその領域で相変わらずそこに立っていた。

シンボルエンカウントのように、守護する場を守っているからその場に行けば必ず挑むことができる今回は都合のいい奴だ。

僕はそいつを前回同様完全に無視して、解説を始めた。

「いいですか? 中に入った途端戦闘が始まりますけど、敵意に反応しないように。あいつは素早い動きに過剰に反応します。決して速くは動かないでください」

「……わかった」

領域に入った瞬間、恐ろしい殺気が叩きつけられたがレベルが上がった僕らが耐えられないはずもない。

説明も利いていて、まだ落ち着いている僕と龍宮院先生は合図しあって、反対方向に向かって歩き出した。

「ではゆっくりと僕は時計回りに柱を触っていきますから、先生は逆に順に柱を触っていってください」

「これはかなりおっかないな……」

それは僕もそう思う。

相手はすでにこちらを視界に入れて今にも魔法でも撃ってきそうだ。

だがそうしないのは僕らが想定以上に遅く動き、敵意を見せていないからでもあった。

僕は深く深呼吸してゆっくりと歩き出す。

一歩一歩確かめるように足を踏み出して、グルリと円形に設置された岩の柱を順に触っていった。

一個また一個と触っていくたびに圧迫感が増すが、我慢。

そして最後の柱まで来て龍宮院先生と合流し、柱を同時に触るとリンゴーンと鐘が鳴り響いた。

「時を―――尊ぶものよ。私は汝に従おう」

「おお!……簡単と言えば簡単だ!」

龍宮院先生が歓声を上げる。だがうっすらと汗が額に滲んでいて、言うほど簡単ではなかったとは思う。

このプレッシャーの中闘争心を抑えるのは、知らなければまず不可能。そういうタイプの攻撃だった。

膝をつき、差し出される天使の輪っかに僕は触れるとテイムは完了である。

さて、お楽しみの時間だ。

今度は一体どんな女の子になるのかな! 楽しみだ! ……なんて心の中で開き直っていると、時の天使は輝き、予想外の形に変わっていた。

ロボである。時計を思わせる歯車の機構が複雑に組み合わさった、6枚の翼を備えたロボである。

僕は震える手で彼に手を触れそして……歓喜を爆発させた。

「女子じゃない!……流れが! 変わった!」

「喜ぶところはそこなのか」

「そ、そりゃあそこでしょう! なんかこう繊細なところが暴かれ続けているんじゃないかと気が気じゃなかったんですから!」

「いやーまぁそうなんだろうけどね?」

このロボは気が付けば美少女天使のご主人様になってしまった、男子高校生のピュアな心を暗黒面から救い上げてくれる、希望の光に他ならない。

「よし! 次々行きましょう! 一日は短いですからね!」

「……時を司りそうな天使のテイムを終えたって言うのに、せわしないなぁ」

「そりゃそうですよ。僕は元来せっかちなんです」

お気づきでなかった? しかし今日中にあと二体は行くつもりなので覚悟していただきたい。

そして二体目。ズズンとでっかいそいつはぼんやり輝く森の領域に鎮座していた。

そいつはずいぶん巨大な……いや、人の形すらしていなかった。

奇妙な卵にしか見えないモンスター。そいつもまた上位天使の一体である。

「なにこれ? なんか卵?」

「先生? 攻撃とかしないでくださいね? 戦闘始まっちゃうので」

「あ、モンスターかこれ……攻撃しちゃダメなのか」

「そうですよ。これはですね―――今回は持ち上げればいいんです」

僕は準備運動をして気合を入れ直すと、力を込めてそいつを掴んだ。

この天使はダメージを与えることで戦闘が始まり、容赦ない重力波で押し潰して来る系のスキルを使ってくるのだが、戦闘が始まるまでは決して動かない。

そして平和的にテイムをしたいのなら彼の試練を突破する必要があった。

「では……行きます!」

ふんぬ! と力を入れて持ち上げる。

「んぐぅ……!」

メコリと沈んでいる地面から卵を浮かすと更にもう一段ズドンと重くなるが、必要な力は満たしているはず。

後は気合と根性である。

僕は自分の肉体と、アームの両方を使って拮抗し―――持ち上げ切ればテイムの条件達成だった。

「ぬああああ!」

条件を達成して落とした天使は地面にめり込んでいたが、その時点で重力の異常は消えていて、卵はピピっと点滅。

フワリと浮かび上がって、僕に話しかけて来た。

「星の楔を凌駕する者よ―――私は汝に従おう」

「……!」

僕は卵の上に浮かんだ輪っかに手を触れて頷く。

卵は光り輝いて光の中から現れたのは……なんと! 小さな羽根6枚と天使の輪の付いた、 卵よりデカいクマのぬいぐるみみたいなマスコットスタイルだったのである。

「来てます! 来ていますよ流れが! つぶらな瞳が好き!」

「……なんかこう、思考が変な方向に偏り出している」

「よし次いきます!」

「フットワークが軽すぎないかな?」

「それが僕の数少ない良いところです」

「……そうだね」

まぁまぁそう疲れた顔をしないでくださいな先生。一番大事な先生の出番は次なんですから。

そして最後のターゲットは、ひどく眩い天使である。

まるで太陽のように、燃えているようにも見えるそいつには妙なシンパシーを感じもしたが、とりあえずまずここは警戒し過ぎて困ることはない危険な攻略だった。

「えーこいつの特技は洗脳です」

ただ今回はあまりに物騒な単語に、龍宮院先生は難色を示した。

「洗脳?……おいおいそんな相手の前に私を連れて来てどうするつもりだい?」

「そう、そこが重要なんです」

「……え? そんな本気のトーンで肯定されちゃうと困るんだけど?」

龍宮院先生が及び腰になったけれど、ツッコミませんからね?

それに冗談を言っている余裕もない。この洗脳の効力は強力無比。

そしてこの攻略には、第三者の協力が不可欠だった。

「覚悟を決めてください……いいですか? 奴の洗脳は強力です。まず防ぐすべはない」

「う、うん。それで?」

嫌な予感がしているのだろう、後ずさりしている龍宮院先生には妙な緊張感があった。

僕は彼女との間合いをジリッと一定に保ちながら、先生に見える様に人差し指を立てた。

「だから……一人まず洗脳されます。なぜならば奴の洗脳はその凶悪な性能と引き換えに一人にしか使えないからです」

いわゆる人数制限である。

一人支配権を奪えば、一人はフリーになる。

後は煮るなり焼くなり好きにするだけだった。

「壁役を私にしろってこと!? さすがに勘弁して欲しいんだけど!」

しかし拒絶する龍宮院先生の予想は外れである。

僕とてそこはきっちり役割をわきまえていた。

「いえ! それはノーです! ここは……僕がいきます!」

「! 君が洗脳されると!?」

「そうです! 奴の洗脳を解くことがテイムの条件。必然僕が洗脳を受けねばなりません!」

そう、テイムの権利が生まれるのは洗脳された人。つまりは僕自身がこのめちゃくちゃに強烈な洗脳を受けねばならないのだ。

ただそう宣言した時、ほぼノーダメージのはずの龍宮院先生の目は点になって小首をかしげていた。

「……それって誰得……いやなんでもない」

「そんなの僕が一番思っています! つまり先生の役目が最も重要なんです!」

「……君が洗脳されている間に天使を倒す?」

さらに先生は予想したが、それも大外れだった。

「惜しいですけど違います。僕が洗脳されたなーと感じたら、僕を死なない程度にぶんなぐってください……!」

「そんなのでいいの!?」

「それが一番簡単に洗脳が解けるんです!」

攻略君の話では洗脳自体は避けられないとのこと。

ただしその解放条件は一定のダメージを受けることだという。

正直これが一番やりたくないが、洗脳が解かれた時点で終わるテイムは、楽なテイムだ。

怪我をしたとしても治療の準備は万全だし、聖騎士はタフさが売りなのだから。

「と、いうわけで手加減を教えてくれている龍宮院先生なら、程よい手加減を期待できます! よろしくお願いしますね!」

「お、おう……」

僕は龍宮院先生とがっちり握手。そしておまけにとっておきのダンジョン攻略報酬トールハンマーを龍宮院先生に掴ませた。

「え? 何でコレ手渡した?」

「では……後は任せました!」

「ちょっと! これで生徒をぶん殴れってこと!? 私先生なのに!?」

「これさえあれば、楽々防御貫通です!」

悲鳴にも似た叫びを後ろに残して、僕は駆け出すと燃え盛る白い炎はすぐさま僕の精神を捉えていた。