軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第216話龍宮院遥の誰も知らないプライドの話

「……えーどうしよ」

「あー……うー……」

龍宮院 遥は託された怪しいハンマーを手に黄昏ていた。

目の前には、よくわからないがやたら神々しい光を放つ天使型のモンスターが一体。

そして……よくわからない度合ならいい勝負の生徒が一人、ちょっと人としてダメな声を出しながら立っていて、頭の炎を揺らしていた。

頭の上に炎とは別に星がくるくる回っているのは何かの冗談の類である。

「うわぁ……割と最悪の絵だ。で、あの状態の彼をぶん殴れと? ……訴えられたら負けそうだな……」

手元のハンマーを眺めながら遥はしかし、それ以上に割り切れないもやもやとした感情を無視できなかった。

まぁ大したことじゃない。

普段ならばこの程度のことサラリと流してしまえるほどに、本当に些細な事である。

だが気になる。

彼、ワタヌキ君はどういうつもりでこの武器をわざわざ手渡したのかという一点がどうしても。

まぁ理屈をつければ効率がいいとか、ただそれだけの事なんだろう。

実際そうなのだろうし、洗脳の解放条件がダメージを与える事なんであれば、この未知の武器はさぞかし効果的に違いない。

しかしそれは……こうも解釈できないだろうか?

龍宮院 遥の拳では彼にダメージ一つ与えることができないと。

「……」

ポイっと遥は怪しいハンマーをその場に投げ捨てる。

後ろの天使は能力からして完全に後方支援型、レベル的には格下だ。

動く気配もなく、まずは洗脳した相手を徹底的に前に押し出すつもりのようだ。

だがそれもいいだろう。

バシッと手のひらに拳を打ちつけて、遥は凶暴な笑みを浮かべた。

「まぁ……せっかくの機会だから。今の状態なら手加減なんてできないんだろう?」

その構えは模擬戦とは違う完全に戦闘を想定したものだった。

「興味はあったんだ―――さて、楽しもうか?」

「たー」

「あぁ! 台無しだ! でもまぁ……ちゃんと忘れてね?」

遥は思い切り身を捻り、勢いを限界までつけてアンダースロー。

まず初手で数発、光弾を放った。

手加減は一切していなかったが、飛んで行った光弾はワタヌキ君の体に触れられもせずに逸れて背後に抜けていた。

「……!」

今現在のジョブは魔闘士。

魔法よりも速射性の高い、遠距離攻撃が売りである。

その攻撃力は魔法には劣るものの決して低くはないのだが……随分簡単に弾かれた。

秘密は間違いなく不可視のオーラにあった。

「……やっぱり強固なだけじゃないな。弾力をつけるのも固くするのも自由自在……本気で厄介な防御力だ」

こうして対峙すると、本当に彼は組手の時サンドバック役に徹していたのだとわかる。

だからその真価を試してみるのは純粋に探索者として興味がある。

「じゃあ次は……こうだ」

遥は続いて一気に距離を詰める。

ワタヌキ君はいつも使っているハンマーを取り出して迎撃に入ったが、遥はここで緩急をつけてインパクトをずらし、懐に入り込むと指とハンマーの柄をピンポイントで狙い打つ。

するとスッポリと抜ける様にハンマーが飛んで行った。

「―――からの! フン!」

更にほぼほぼゼロ距離から掌低を叩き込み、ついでに光弾も生成。

爆発力を底上げしたが、吹っ飛んだのは遥の方だった。

「うお!」

手ごたえはまるでゴムを殴ったようで、衝撃を丸ごと返された。

体勢を立て直した遥は、改めて聖騎士の厄介さにフーと長い溜息を吐いた。

「うそでしょ? 今のをあの薄い障壁で完全に弾くって?」

これは本格的にあの聖騎士の防御性能は、こちらの予想をはるかに上回っているようだ。

そして今度はあのパイルバンカーの付いた背中のサブアームが動き出す。

瞬時にぼんやりと輝くオーラがアームを覆うのを見て、遥は目を細める。

あのオーラは、伸縮自在。

武器にオーラを纏わせることで生まれる効果範囲は見た目通りではない。

そして遥は半端に開いた射程に背筋が凍った。

咄嗟に防御の体勢をとると、サブアームの鉄拳はずいぶん離れた位置から降って来た。

「…………っ!」

ズンとやってきた衝撃は冗談ではなかった。

身体がバラバラになりそうだとそう感じたのは人生で初めてで、マジで死ぬかと思ったほどだ。

遥の身体は地面に釘の様に打ち込まれて、周囲の岩盤が砕けてひっくり返る光景は中心で見ると天変地異のようだった。

「ぐぉぉぉお! これは! ……洒落にならない!」

だがそれを堪え切れたのはジョブチェンジが成功した証だ。

最近熟練度上げ中の聖闘士。

このジョブは耐久力に優れた戦闘スタイルで、そう簡単にやられはしない。

「……フゥー!」

深く呼吸してチャクラと呼んでいる回復力を全身に回すと、瞬時に体中の骨に入った罅すら修復されてゆくのを感じた。

「いいダメージだ……いただくよ」

本来であればダメージエネルギーなんて概念は存在しないものだろう。だが探索者はそうじゃない。

そして聖闘士は、この未知のエネルギーを掴むことが新骨頂だ。

格闘技でも相手の力を利用する技術は数多あるが、これはもう概念からして違う。

「……!」

溜まったダメージを己の拳に上乗せして、インパクトの瞬間に敵に叩き込む。

殺してしまってもおかしくないほどの一撃が吸い込まれるようにワタヌキ君の身体にめり込んで―――遥の拳はその身体を貫通した。

「いぃっ!」

だがさすがにそいつはやりすぎである。

ほとんど手ごたえもなく体の奥深くに入り込んだ拳にヒヤリとしたが、しかしすぐにあまりにも手ごたえがなさ過ぎた違和感に襲われた。

答えは簡単な話。

拳は突然できた穴を抜けて背後に抜けていることに気が付いた遥はヒクリと頬を引きつらせた。

「それはさすがに……反則じゃない?」

空間魔法によって背後に逸らされたら、いくら技が強力だろうと意味がない。

そして攻撃の後の一番無防備な瞬間を洗脳状態であれ見逃さないくらいには、遥はワタヌキ君を鍛えていた。

「ぱー!」

「ああくそ! 緊張感をそぐなぁ!」

しかし気の抜ける洗脳ボイスに反して、空間魔法でいつの間にか引き寄せていたハンマーを両手で握り締めてのフルスイングは洒落にならない。

完全に遥の脳天どころか全身をノシイカみたいに平たくしようとしている一撃は、防御自体が無駄に終わりそうだ。

だが絶対絶命のその瞬間、体は自然と動いていた。

「……!」

大ぶりの攻撃をかいくぐる様にタックル。

超低姿勢から掬い上げる様に組み付き、意識が追いついた瞬間にジョブをスイッチ。

練度は低いし、正直あまり得意ではないが、遥はその一瞬にすべてを掛けた。

「―――どりゃぁ!」

ジョブの名は力闘士。

それは高次元の肉体強化に特化した、接近戦仕様のバトルスタイル。

その最も得意とするところは投げだ。

体に触れた瞬間、あらゆる魔力をかき乱し、芯を捕らえてしまえば、脱出は困難。

遥はスルリとバックに回り、引っこ抜くようにワタヌキ君の体を頭から地面に叩きつけた。

「フンヌ!」

「……~~~っ!」

渾身のバックドロップである。

ズズンと先ほどのハンマーの一撃に勝るとも劣らない強烈な衝撃でワタヌキ君の頭は地面に突き刺さる。

素人には受け身すら難しい天地が逆転する一撃は、障壁の展開も間に合わなかったと信じたい。

ワタヌキ君が動かなくなって、手を離した遥は身を起こした。

「よっと……終わった?」

気を抜かずに腰まで地面に埋まって飛び出している足をツンツン突いてみる。

反応してバタバタ動いているところを見ると、まだ死んではいないらしい。

遥は熱くなりすぎたかと反省しつつ、胸をなでおろした。

「……ふぅ。や、やりすぎたかな?」

だがさすがは近接特化のジョブ。一先ず、これでダメージが入ったはず。

「―――揺るがぬ己を持つ者よ。私は汝に従おう」

そんな天使からの宣言で、遥はハァと深々とため息を吐くと、その場に座り込んでいた。