軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第214話天使の試練

『中位天使をテイムする方法は、基本的に下位天使と大差はない。倒してランダムが普通ではあるから……かつてのように君が格下ならば手段は選べないだろうね。だが今は少々事情が違う。君は聖騎士だからだ』

「……僕のジョブは特殊なので中位天使は少し楽にテイムできます」

攻略君の攻略情報を、僕は竜宮院先生に丁寧に説明していた。

ジョブ的にはあまり関係がない龍宮院先生だが、興味はあるのか真剣に僕の話に耳を傾けていた。

「へぇ。じゃあ簡単なんだ」

「簡単……ではないかも?」

ただ本来であれば簡単とは言いがたい。

74階層から先、数を増し始める中位天使は天使の生息する階層を歩いていれば普通に出会えるモンスターである。

中位もどこかマネキンを思わせるフォルムだが、下位に比べると少しだけ大型だった。

ただその性質はまさしく戦闘員で、下位よりも更に好戦的で容赦がないので注意。

自分達で積極的に領域内でのサーチを繰り返し、侵入者を排除しようとする。

そして、その形状が多いのがこいつらの面倒くさいところだった。

「まず水場を探します」

そんな天使の目をかいくぐり、僕らは相変わらず楽園の様な階層を探索すると、なかなか広い池を発見。

とりあえずボートを用意しながら、龍宮院先生に手順を説明した。

「先生は池に入らないで待機お願いしますね」

「わかった。私は見ているだけ?」

「いえ。これをお願いしたいです」

そう言って僕が差し出したのは、通販で買った投網に捕縛のエンチャントを施したアイテムだった。

「……網?」

「はい、合図したら池に投げ込んでください」

「……やりたいことは理解できるようなできないような? ……君、水場をよく使うって聞いたけど本当だね」

「水って案外使いやすいんですよ」

僕は曖昧に笑って、肯定した。

最近は古くから水を活用して戦をしていた人の気持ちがよくわかっていけない。

水ってやつは、割とありふれてどこでも手に入るくせに扱いを間違えると凶悪なのだ。

ボートに乗り込み池の中心までやってくると準備は完了。

さて中位の天使を呼ぶのは簡単だ。

彼らは魔力を感知して襲ってくる。だから意図的に魔力を解放すれば、向こうの方からやって来てくれるはず。

僕は手を振って、龍宮院先生に合図する。

そして龍宮院先生が頷いたのを確認して、空間を揺らすように魔法を使用した。

ズンと重々しい音が階層全体に響いたかと思うと、すごいスピードで天使達は飛んできた。

ただ驚くのはやはり、その数だろう。

単体ではなく、明らかに纏まってやって来たのは中位天使の基本的な生態だからだ。

中位の天使は基本的にパーティを組んで行動する。

だいたい五体一組で形状によって役割まである。

持っている武器も杖と剣、斧やモーニングスターなんて珍しいものまで携えた中位天使達は、まさに探索者のパーティのように前衛と後衛を使い分けて、僕を殺しにやって来るというわけだ。

かなり広域を揺らしたので、その数は相当なもので10組くらいは釣れたか。

―――つまるところ入れ食いだった。

「うん。十分だ」

しかしヴァルキリーの時も思ったが、羽根を持った奴らは三次元的に攻撃を仕掛けてくるから、囲まれると相当に恐ろしい。

見渡す限り、それこそ見上げた先も含めて武装した人型がいる光景はスリリングである。

十分に加速を付け、襲い掛かってくるあたり殺意も相当なものだが、そいつは命取りというものだ。

「……よし」

皆、池の上に集まった所を見計らって魔法を発動。

彼らはいきなり進行方向を下に変更され、突進の勢いのまま池の中に飛び込んでいった。

動くものへの座標設定、うまくできたね。

極近距離に限ればこれくらいの方向転換はもはや難しいことではない。

しかし水に落としたといっても、そこはただの水である。

衝撃は水とはいえ相当だから、頭は揺れているかもしれないが、今はまだただのずぶぬれの天使が出来上がっただけだ。

そしてここからが今回のテイムの難しいところである。

『聖騎士が天使を確実にテイムするには頭に直接君の魔力を流し込む必要がある。頭の上に輪があるからそいつにオーラを注ぎ込めばいい』

言うのはたやすいがそれは本来であれば、ほとんどギャンブルに近い難易度であると僕は思う。

このマネキンみたいなフォルムの天使はまともに戦えば、消滅するまで襲い掛かって来るという話だ。

つまり生け捕りは、仕留めるよりも難しいことは攻略君に聞かずとも予想がついた。

それに厄介なことに天使には毒などの状態異常も効果が薄く、精霊水などは殆ど特攻で効きすぎるのも面倒臭さに拍車をかけていた。

だがそんな彼らにも効果のある、状態異常が存在した。

僕がウニョンと空間を歪ませて取り出したのは、紫電を纏う大鎚であった。

とあるダンジョンの攻略報酬であり、僕の使い慣れた形状の武器。

この局面で絶大な効力を発揮するというのなら、そこは絶対攻略君の攻略的意図が存在する。

手に持った途端鳥肌が立つような力を感じ、僕の頭の炎が燃え上がるというよりもスパークしていた。

そして天使達が水から上がる前に僕はハンマーを軽く水面に沈めてみた。

「うお!」

池が光ったのは刹那の間だ。

雷撃が走り、そしてプカリと浮かんできた大量の天使達がビクビク震えているのを確認して、龍宮院先生に合図を送る。

「今です!」

「こういう事!?」

そんなことあるのかと叫びながらも網が投げ込まれると、抵抗できない天使が大量に水揚げされた。

僕は岸に転移して、龍宮院先生の漁を手伝う。

数分後にはしびれた天使を全員捕獲し、ここからはスピード勝負だった。

「……その武器でマヒさせたのか」

「こいつの雷属性のマヒは天使にも通るんですよ。と言うか大抵の防御を貫通します。毒じゃダメなんで注意です」

「……口もないしね。君の天使と全然違うなぁ」

「……それもそうなんですけど。刃物に塗っても効かないですから。どうしてもテイムしたいなら下位天使と同じように倒してランダムでテイムが一番楽ですよ」

だけど僕の場合は輪っかに触れてオーラを流せばそれで済むと。

ここまでお膳立てすれば、天使はテイムし放題ということになる。

輪に手を伸ばした僕は、しかしピタリと手を止めていた。

そう―――ここまでは予定通り。

しかし一度天使をテイムした経験上、不確定なのはここからであり、龍宮院先生だけを連れて来た最大の理由でもあった。

僕はゴクリと喉を鳴らして龍宮院先生に話しかけた。

「それでその……一番厄介なのはここからです。ここから先は予想がつかない」

「……なんだろう? もう終わったようなものだと思うけど?」

「ええ。実は……ちょっと問題があるんですよね。……先生には大人としてフラットな目線で援護を……お願いしたいのです」

「え、援護?」

「援護です。では行きます」

意を決し僕は天使の輪っかに魔力を流した。

僕の魔力は天使に浸透して、やはり天使はその姿を変えてゆく。

まず一体目。どうなる?

「……」

「……」

光の中、天使の身体が再構成されて現れたのは―――女子型であった。

なるほど……なるほど。

年の頃は下位天使よりも大きく、僕と同い年か少し年下くらいに見える。

整えられた人形感のある美しさだと感じるのはたぶん気のせいじゃない。

癖のある金髪が輝いているのは下位天使と同様であるようだが、ただ完全に人間型でもなかった。

翼の数は4枚。そして元の人形のような形をやや踏襲して、アンドロイドのような外観に姿を変えていた。

ウーム……これも中々癖が強い。しかしわからなくもないのが厄介である。

フィクションの中では天使とSFを掛け合わせたデザインは多く散見されるものだし、戦闘を意識するとメカニカルな印象を持つ天使は数多いから、その辺りが影響した可能性があった。

「……しかし、これで僕も本当の意味でロリショタコンプレックス疑惑から脱却できますよね? この変化は天使のイメージで決して隠された性癖などではないってことですよね?」

「……なるほど? 思春期って大変だね」

「その思春期のニュアンスがちょっと嫌!? ちなみに…………どう思います?」

恐々、一応第三者の意見を聞いてみた。

ただ相談相手はじっと僕と中位天使を見比べて、いい笑顔で言った。

「大変いい趣味をしているね。男の子ならある程度は仕方がないんじゃないかな?」

「ある意味すごく先生っぽいアドバイスありがとうございます……」

「でもイメージが大きく影響を与えているのはわかるけど、性癖と切り離されているかは疑問の様な? というかむしろ……ロボっ娘の方が業の深い趣味のような気がしないでもないというか……ゴメン、今の無し」

「……っっっ!」

もう、いちいち気にするのやめようかな? そう言えば先生は、その辺の反映は仲間内だとむしろオープンな人でしたね。

……恥ずかしがるのは僕の精神的レベルが低いからか? まぁ窮屈だものね実際。

すべて認めてしまえばいいのだ。天使は己の美的感覚の化身。

テイムなんてしようものなら、エロスやらフィリアやらまで諸々反映されて当然なのだと。

僕は天使に理想の美少女を投影していてちびっ子から身長の高い大人の女性、更にロボ娘が筆頭で性癖なのだと……いや待って! やっぱりちょっと時間をちょうだい!?

僕は切に、緊急アンケートでも取って世間一般の天使のイメージを今すぐ知りたくなった。