軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第187話聖地

存分に旅行気分を味わいつつ、バスと電車を乗り継いで、僕らは目的地に向かう。

噂に聞く同人の祭典。

その象徴的な建物は、数年前に劇的な変化を遂げたことで別の意味で有名になった。

「うへぇ……でっかー」

僕は思わずそれを見上げて呟いていた。

もちろんこのでっかいは会場の建物自体も含まれているんだけど……しかしその大半はダンジョン・『ユグドラモドキ』と呼ばれる巨大樹木型ダンジョンのあまりのデカさに対しての感想だった。

「ホントにこんなの生えるんでござるな……」

「全くだねぇ。おかしなこともあるもんだ」

きっと僕らと同じようにあの巨大樹を眺めている人は、アレを初めて見た仲間に違いない。

今では名所にもなっている地下から突如として生えて来た珍しいダンジョンは、本家北欧に生えたダンジョンに比べると小規模だという話だが、それでも十分すぎるほどの大きさだと僕は思った。

ただ、今でこそ観光客でにぎわってはいるがずっとそうだったのかと言えばそんなことはなかった。

このダンジョンが突如として生まれた日、聖地は一度死んだのだ。

ダンジョンからモンスターがあふれ出し、町からは一時人の姿すら消えてしまったのだと言う。

そのままダンジョン周辺は危険地区に指定され、侵入すらも困難になってしまったのだ。

しかし聖地を奪われたオタク達は十字軍さながらにこの場所を奪い返すべく奮起し、同時にあふれ出ていたモンスターを駆逐し取り返した。

そして近年ではダンジョン周辺の安全も完全に確保されて、ようやくイベントが復活したのだという。

なんというか……すさまじいエピソードである。

土地とかって本当に大事なんだね。

人類の歴史ってきちんと意味があるんだなと思うし、行動派オタクのバイタリティに世間が恐れ慄いた事件として、今でも語り継がれていた。

そして―――その最前線で戦った人たちの熱は今もすさまじい。

お祭りイベントとなれば、その熱は熱すぎて雲どころか嵐でも起きそうなほどだった。

「なんてね……まぁまずはイベントだ。気合入れていこう」

「そうでござるなぁ」

僕らはひとまず先遣隊として浦島先輩のスペースで設営準備を整え、コスプレ登録をしているレイナさんと浦島先輩と後で合流する流れになっていた。

まぁしかし最近は力が有り余っているのだし、体力的には肉体労働どんとこい。

準備を整えてしばらく待っていると、ザワリと会場がざわめいて、そのざわめきは波のようにこちらに近づいてきていた。

「え? 何事でござる?」

「さぁ……人気の有名人でも来たのかな?」

桃山君と首をかしげる。

しかしその原因はすぐに真っすぐこちらにやって来て、僕らに手を振っていた。

「おーお疲れ様! 設営ごくろう!」

「ちょっとぶりです! いやー! 聖地最高ですね!」

やってきた二人はすごく見慣れていたが、その声が中から聞こえることに違和感があった。

レイナさんは赤パーカーにガスマスクの侍姿。

そして浦島先輩の方は僕のというかファイアーボールヘッドの姿をしていたからだ。

燃える頭にジャージ……そして何よりパイルバンカー付きの巨大な腕を装備した浦島先輩は、ガスマスク侍バージョンのレイナさんと合わせて注目度抜群である。

「なんか照れますね……。バックパック大丈夫だったんですか? 凶器持ち込み不可なのでは?」

「それ昔の規約でしょ? 今ダンジョンが近いからね。免許があればバッチリよ! どうよ? ちゃんとファイアーボールヘッドになってる?」

「たぶんバッチリです。めっちゃ……燃えてますね頭」

「これ全然熱くないんだね! 係の人ビックリしてたよ!」

「そうでしょう? というか僕って端から見るとこんな感じですか……」

「あっそうね。自分じゃ見れないもんね」

超頭燃えてるけど、中の人が女性だからか目の辺りがちょっとかわいい気がする小癪な幻影である。

後は……浦島先輩は普通に僕より身長高いのは素直に羨ましい。

元々少し長めの丈の物を渡していたので、サイズもばっちりのようだ。

ただ今日のコスプレのために完璧に仕上げて来たらしい浦島先輩は、一切のぜい肉をそぎ落としていたが、それでもジャージの上からでもバッチリ女性として認識できた。

「……これファイアーボールヘッド女性説出ますね?」

「アハハ! いーいんじゃなーい? まぁコスプレだからね。特にこの背負い物のギミックが大好評過ぎてマジでビビった」

「ロボットアームもパイルバンカーもロマンの塊ですよ。ちびっ子にも大人気間違いなし」

「それでさ、これって着脱すぐできたよね? 邪魔になるから引っ込めなきゃ」

「ああ、魔法使う要領です。ちょっと多めに魔力通してリュックをイメージすれば一瞬ですよ」

「マジでか……。お、スゴ! 超便利。武器も?」

「入ってます。やろうと思えば、先輩の装備もヘルメットとか自分のアイテムボックスに送れるようにできますよ? ちょっと先輩のやつはギミック多いから怖いですけど」

「ああ、まぁね。やりすぎは何事もよくないよ。普通に脱いで放り込んでおけばいいし」

「そうですね」

ともかく僕よりも魔法を使うのがうまい浦島先輩なら、容易く使いこなせることだろう。

ただそのチャンスが思ったよりもずっと早くやって来たことは残念だが、驚きだった。

「置き引きだ! そいつ捕まえて!」

会場内がざわめき、ものすごい勢いで走って来る男がいた。

速度が速すぎる所を見ると、どうやら置き引きの犯人も探索者のようで、下手に触ると危険そうだ。

「……」

何かするかと身構えたが、その時ピシリと音が聞こえ浦島先輩が頭の炎の残光を残して消える。

そしてそのまま先輩は瞬時に取り出したハンマーを構えて置き引き犯に肉薄する。

「へっ! 間抜けどもめ! お前らなんぞに掴まるわけが……フギョ?」

そして―――フルスイングで天井まで打ち上げていた。

(((……しっ!)))

会場全体が言葉を飲んで、恐ろしい結末が頭をよぎった。

あまりにも冗談のような打ち上がり方で、衝撃波で雲が出来……犯人は重力に従って落ちてくる。

すかさず鞭でその体をからめとられて、お姫様抱っこで受け止められた置き引き犯はなぜか怪我一つなく、意識を刈り取られただけだった。

「お兄さん……祭りは楽しくやらなくっちゃつまんないぜ?」

男前の浦島先輩を僕は手を叩いて賞賛する。

僕は何が起こったのかしっかり一部始終を目撃していた。

おお。浦島先輩あの一瞬に回復までやったのか。

インパクトの瞬間にすでに始まっていた回復は、一切の肉体的ダメージをなかったものにしたようだった。

ううーんと唸る置き引き犯を静まりかえった会場の人間が確認して、ワッと歓声が遅れて湧いた。

やぁやぁと手を振って答える浦島先輩は注目の的だった。

だがしかし浦島先輩は犯人を適当な場所に寝かせると、何という事もなく普通に続きを話し始めた。

「うん。いい感じに出し入れできるじゃん。でもよかったー、やるじゃないファイアーボールヘッド。ちゃんと係の人にもコスプレと認識されたよ?」

「……それはよかった。さすが先輩、見事に使いこなしますね」

「ありがと♡ それで? この後二人はどうする?」

そして尋ねられて、僕と桃山君は頷きあう。

ルートはすでに決めてあった。

後は最短最速で目当てのサークルさんを廻るだけだが、果たして初心者がそんなことできるものなのか?

この日のために鍛えに鍛えたフィジカルが通用するかにすべてが掛かっているのだろう。

しかしその前に―――ちょっとだけ予定は変更せねばならないらしい。

「大丈夫ですよ。ある程度アドリブだって利かせて見せます」

「なら後は頼んだ~!」

妙に楽しそうに事情説明のために一時連行されてしまった浦島先輩の為にも僕らも頑張る所存だった。