軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウェルミィの敗北。

ーーー今、何を言ったの?

ウェルミィが呆然としている間に、アーバインが声を上げた。

「何なんだよ……どういうことだよ!? お、俺が継ぐはずの伯爵家はどうなる!?」

その焦りは、自分の将来に関すること。

ウェルミィを慮る言葉でも、この場で宣言されたことを問う言葉でもなく。

『伯爵家の次男である自分が、これからどうなるのか』という自分本位の焦りだ。

その言葉に、エイデスが不愉快そうな表情で答えた。

「お前にそんな権利は残っていないな、アーバイン伯爵令息。今告げた通り、ウェルミィにエルネスト伯爵家の血は混じっていない。それが明らかになった以上、継承権は失われる」

継承が認められるのは、まず第一に血筋の直系だ。

伯爵家の娘であるという事実よりも、実際にその身に血が流れているかが優先される。

だから、クラーテス先生とイザベラの娘であるというのが事実なら、ウェルミィに継承は認められない。

仮の話をするのなら、アーバインがエルネスト伯爵家の傍系であるか、直系であるイオーラと婚約すれば、一代限りの爵位預かりは認められはする。

イオーラが彼を認めて、間に子を産めば、その子にも継承権は生まれる。

しかしその後、仮にアーバインが爵位を継承した後に別の女性との間に子を成したとしても、その子に継承権はない。

全て仮の話だ。

お義姉様がもう一度、この男と婚約することはあり得ない。

なのに。

「い、イオーラ! お前、今魔導卿に捨てられたよな!? だったら、俺ともう一度婚約しろよ!」

ーーーなんでこの人は、こんなにも愚かなの……?

学校であれだけの仕打ちをお義姉様にしておいて、なぜそんな言葉を口に出来るのか分からない。

ぼやけてはいるが、少し考える力が戻ってきた頭で、そう思った。

相手をしてやる価値もないのに、エイデスは横槍を入れる。

「そもそも、エルネスト伯爵家は残らん。やってきたことの対価が重すぎてな。……爵位の返上以外で国家への賠償金や借金を返せる当てがあるのなら話は別だが」

それは、アーバインの希望を丁寧に打ち砕くものだった。

「そんな……」

「それに、お前の実家にもエルネストとの癒着と、同様に国家背任の嫌疑が掛かっている。そちらがどうなるかも見ものだな」

アーバインにトドメを刺したエイデスに、ウェルミィは震える指先を伸ばしながら問いかける。

「なん……それで何で、お義姉様との婚約を破棄する必要が……?」

口にしてから、悪手だと気づいた。

これではウェルミィが、エイデスとお義姉様に婚約破棄して欲しくないように、聞こえてしまう。

気付いたのか、気付いていないのか……エイデスは、酷薄な笑みを浮かべたままウェルミィを見下ろした。

「当然だろう。虐げられた先代の子とはいえ、 後ろの愚か者と(・・・・・・・) 血の繋がり(・・・・・) がある穢れた女など(・・・・・・・・・) ……」

ーーーパァン!

と、高い音が響き渡った瞬間。

先ほどまでとは違う緊張感が場を支配し、ウェルミィはカッと血が上った頭で、怒りのままに叫んでいた。

「お義姉様を、侮辱するな!!」

それが完全な失態だと気付いたのは、周りが静寂と驚きに包まれたからだった。

ーーーあ……。

やってしまった。

チラリとお義姉様に目を向けると、両手で口元を押さえて、驚きに目を見開いている。

バレた。

振り抜いた手のひらが、ジィン、と痺れている。

そして、ウェルミィに頬を張られたエイデスは、ひどく冷たい顔をしたまま、ゆっくりとこちらに顔を戻した。

「驚いたな? ……私に手をあげるとは、いい度胸だと褒めてやろう」

その言葉に、一瞬で血の気を引かせたウェルミィは、開き直ってギリ、と奥歯を噛み締めた。

失敗した。

失敗した。

もうどう考えても言い繕えない。

こうなったら、もうヤケだ。

「見損なったわ、エイデス・オルミラージュ! 実力主義の魔導卿と聞いていたけれど、とんだ大間違いだったわね!」

「誰に向かって口を利いている」

「貴方以外に誰がいると思って!? お義姉様の価値が分からない愚か者のくせに、偉そうにしてんじゃないわよ! お義姉様の書いたレポートに目を通していないの!?」

魔導学で書いた、治癒魔法で消耗する魔力の軽減魔術式の提唱論文も。

薬学での、治癒能力を向上させる薬草の組み合わせに関する仮説も。

それらを組み合わせた、治癒分野における魔導師の負担軽減に関する卒業論文も。

「あれだけの論文を、寝る間もないほどの領地経営に関する書類を捌きながら、お義姉様は書き上げたのよ!? その頭脳は、魔導省の研究部門から誘いがあったほどのものだったわ!」

それだけでも、とんでもない逸材なのに。

「その領地経営だって、無能のお父様が賭博に注ぎ込んでも、お母様が装飾品やドレスに無駄遣いをしても、それでもまだ持ち堪えるくらいの手腕を発揮していたわ! まだ十代のお義姉様が、一人で! 容姿の美しさも、礼儀も、その瞳が象徴する魔力の量も! 魔術を操る才覚だって! 何もかもがたった一つでもこの世の至宝と言えるくらい、素晴らしいあの人を!」

その程度のことで、手放して埋もれさせて、良いわけがない。

「たかが血の繋がった愚か者がいるくらいのことで、手放して良いような安い価値の人じゃないって……気付けないような節穴の目をしているならッーーー今すぐその偉そうな肩書きなんか、捨ててしまいなさいよッ!!」

せっかく助け出せたと思ったのに。

父も母も、自分も消えて、ようやく自由にしてあげられると。

これ以上苦労しなくても、ようやく幸せを手にして生きていけると。

「あなたに預ければ、それが叶うと思ったのに……!!」

見込み違いだった。

節穴だったのは、ウェルミィの目の方だった。

エイデス・オルミラージュは、くだらない男だったのだ。

「これならそこの、臆病者にでも預けた方が、百万倍マシだったわよ!!」

じわ、と目の端に勝手に滲んでくる涙をこらえ、ウェルミィは肩で息をしながらエイデスを睨み上げる。

誰もが、黙っていた。

頬を叩かれ、言いたいことを言われたエイデス自身は、何を考えているのか読めない、青みがかった紫の瞳で、無表情にこちらを見下ろしている。

その沈黙を破ったのは、アーバインだった。

「っおい、臆病者! テメェ、イオーラから手を離せよ!」

その言葉に、お義姉様に目を向けると、レオが目元を押さえて俯く彼女の肩を抱き寄せていた。

「その女は俺の……!」

「あんたが黙りなさいよ、アーバイン! もうお義姉様の婚約者でもなんでもないんだから!」

「なっ……!」

ウェルミィが振り向きもしないまま怒鳴りつけると、アーバインが絶句した。

「今は、私がエイデスと話をしてるのよ! どうせ今の馬鹿な発言であんたも私も 不敬罪(・・・) に問われるんだから、そのまま死になさいよ!」

「は、ふ、ふけ……?」

「そんなことすらも気づいてないの!? 学校則に何で『在学中に限り、同王族に関する対応は無礼講とする』って記載があったのか、考えたことすらないの!?」

少し考えれば分かることだ。

王太子は、ウェルミィたちと同学年だった。

貴族学校入学前は、お茶会での噂話がまことしやかに囁かれていたのだ。

王太子殿下はご入学されるのかと。

しかし、入学後に誰も彼の姿を見つけることは出来なかった。

でも、ウェルミィは知っている。

他にも幾人かは気づいているはずだった。

過去を遡れば、王太子となった人物は、誰も学校には通っていない。

貴族学校は、社交の一環であるはずなのに。

そして入学後、試験だけは受ける、という通達があった。

調べれば何故か、王太子が入学年齢に達した年には、名前も聞いたことのない、領地も持たない、同じ苗字の男爵令息が必ず入学していた記録がある。

クラスは必ず上位に食い込む男爵令息。

しかし成績表の張り出しではそこまで振るわず、上位クラスにギリギリ入れるくらいの成績。

代わりに、王太子殿下の名前は常にトップ近くにあった。

ーーー影のように差すだけの、王太子。

学校に通っていないことはともかく、優秀な成績。

貧乏男爵の成績は、嘘だ。

ただそこにいることを示す為の……身分を隠す以外にも、それに気づいて近づいてくるだけの力量がある相手を見定めるために存在するブラフだと、ウェルミィは思った。

彼の本当の成績は、王太子の名で記されている。

そして、ウェルミィがお義姉様とのレポートの入れ替えを思いついたのも、その成績表を初めて見た時だった。

「そうでしょう? レオニール・ライオネル王太子殿下! 私は、貴方みたいな臆病者にお義姉様を預けるとは言っていないわよ!」

お義姉様の肩を抱くレオに、ウェルミィは噛み付いた。

影の騎士でも気取っていたつもりなのか。

お義姉様の近くにはいた。

でもアーバインに絡まれても、お義姉様を守ろうともせず、身分を明かすことも国王陛下を恐れて出来なかった臆病者だ。

ウェルミィの目には、そう映っていた。

たとえ後でお義姉様を迎えるつもりであったとしても、それはお義姉様の学生生活を守っていたとはいえない。

さっさと身分を明かして、権力でもなんでも使ってお義姉様を攫ってしまえば、ウェルミィなんかよりずっと良い方法でお義姉様を守れたはずなのに、それをしなかったのだから。

ウェルミィの発言に、レオは苦笑して、指先を回す。

すると人差し指の指輪が光り、彼にかかっていた魔法が解けた。

髪は、王室の血に連なる証である紫色。

瞳は、攻撃魔法を得意とする金の色。

顔立ちは変わっていなくとも、印象はまるで変わる。

「う……そだろ……?」

アーバインの呆然とした呻きには、もう構わなかった。

言いたいことは言い尽くした。

計画は破綻した。

どちらにしたって、ウェルミィは破滅を免れない。

そう、思っていた。

なのに。

「くくっ……!」

エイデスは、堪えきれないように喉を鳴らして。

「……見事な啖呵だ、ウェルミィ・エルネスト」

おかしくて仕方がないとでも言うように、先ほどまでとはまるで違う、生き生きとした楽しげな笑みを浮かべて、彼は目を輝かせていた。

「教えてやろう。お前は不敬罪には問われない。他のどのような罪状にも同様にな」

「は……?」

言葉の意味が分からず、ぽかん、とするウェルミィに、銀髪を掻き上げたエイデスが告げる。

「伯爵家の真の告発者はお前だろう。私はそれに乗ったに過ぎない。……キルレイン法務卿と王太子殿下は、この件に関するウェルミィ・エルネストの全ての罪を赦すと書面に記し、国王陛下が承認している」

「………………は?」

まるで理解が追いつかない。

視線を彷徨わせていると、エイデスが言葉を重ねる。

「告発者を証人として保護する法が、この国にはある。自らをも巻き込んで破滅するつもりだったお前は調べなかったのだろうがな」

エイデスは、ウェルミィの顎に指を添えて上向かせる。

「面白い趣向だった。私を自分の思う通りに操ろうとは、見上げたものだ」

そうして、チラリとウェルミィの背後にいる者たち……父母とアーバインに目を向ける。

その瞳からは一瞬で楽しげな輝きが消え失せ、いつもの、氷のように冷たいものへと変わっている。

「そこの愚者どもを連れて行け。もう、用は済んだ」

兵士たちが困ったように、キルレイン法務卿に目を向けると、司法を司る長は呆れたように頷き、それを許可した。

「一応、まだ貴人だ。そして陛下が処断する。王城近くの貴人牢へ入れておけ」

「はっ!」

「……」

「や、いやッ! 違うわ、これは罠よ! わたくしは……ッ!」

「何で俺まで……し、知らなかっただけなのに……!!」

お父様は、自分の凋落と娘の真実に言葉もない……あるいは何も考えられない様子で連れて行かれ。

お母様は抵抗して金切り声を上げながら。

アーバインは未だ自分の罪を理解していない様子で。

それぞれに連れ去られる。

そして、ウェルミィは、それら全てを視界には収められないままに、エイデスに顎を掴まれていた。

「……離して」

「そんな要望が出来る立場だと思っているのか?」

「……今さらだわ」

ウェルミィは、もう何も期待していなかった。

だけど少なくとも、父母とアーバインは消えた。

そしてウェルミィは罪を許されるらしい。

その後の生き方など、一つも考えていなかったせいで、それはひどく鬱陶しいことのように思えた。

平民として放り出されても、自分には手に職もなければ、一人で生きていく手段もない。

ーーーいっそあの人達と同じように、処罰してくれれば良かったのに。

それももう、国王陛下の捺印があるのなら覆らないのだろう。

「さて、ウェルミィ・エルネスト。……見事、エルネスト伯爵を含む〝膿〟を国から搾り出した手腕に敬意を表して、法とは別に私から何らかの褒美をくれてやろう」

どうする? と問われて。

ウェルミィは即座に応じた。

「私に与えられた赦しを、全てお義姉様に。……そうすれば、お義姉様は卒業資格も取り消されないし、正当な評価を受けてどこへでも行けるでしょう?」

元々、お義姉様の為に使うはずだった自分の命など、どうでもいい。

少しでも彼女が良いように。

そんな願いを込めたウェルミィの提案に何を思ったのか、エイデスは満足そうに頷いた。

なぜ彼は、そんな楽しそうな目で自分を見つめているのか。

「ウェルミィ……」

お義姉様が、少し涙ぐんだような声を上げるけれど、ウェルミィはそちらを見ない。

見れない、と言った方が正しいけれど、見れたとしても見はしなかっただろう。

イオーラお義姉様のこれからの人生に、ウェルミィは必要ない。

「殊勝なことだ。たったそれだけで良いのか?」

「お義姉様との婚約も、破棄しないで」

ウェルミィは、もう仮面を被っていない。

どれほど 顰蹙(ひんしゅく) を買おうとも構いはしないから、素直に全ての要求を口にしていた。

お義姉様が自由になっても、お金や後ろ盾は必要だ。

それが、あの人の才能を見極められる魔導卿なら、と思ったから。

さっきの発言は、絶対に、ウェルミィの正体を暴き出すためにわざと口にして。

避けられたはずの平手を受けたのは、暴言を吐いたことに対する、彼なりの誠意だったと気付いた。

エイデスに添えられた、思った以上に皮が硬いひんやりとした指先によって、顔を背けることも出来ないまま出した要求に対して、彼は皮肉な笑みを浮かべる。

「それは、どうするかな。私は、可愛がっていた王太子殿下の恋人を奪うような横槍は入れたくない」

「私はあの人を信用してない。臆病者は、自分が危なくなったらすぐに裏切る」

はっきり口にすると、あまりにも不敬が過ぎる態度に、再び周りがざわめいた。

しかし、王太子本人から何も言葉が出ないことから、誰も何も言わない。

エイデスは、顎を掴んだまま、軽く頭を寄せて来た。

ふわりと、強く香る清涼な香水の匂い。

密やかで楽しげな低い声音が、吐息の感触と共に耳元に滑り込んでくる。

「ふむ。まぁそれに関しては、後で言い訳をさせてやってもいいことだと思っているがな?」

そうして頭を離すと、エイデスは焦らすようにこちらを見下ろしてくる。

相手の思惑通りであると分かっていても、苛立ちが募った。

何故こんなにも、感情を掻き乱されるのか、ウェルミィには分からない。

計画を全て見抜かれて悔しいから。

あるいは、手玉に取られているのが腹立たしいから。

どっちもあって、どっちも違うような気がしたけれど。

それでもウェルミィは、抗うのをやめなかった。

この紫の瞳に、嘘は通じないだろうことが、理解出来ていたから。

素直に本心を伝えなければ、目の前の小憎らしい男は、聞く気すら起こさないだろうから。

「ねぇ、他に私があげられるものなら、何でもあげるから。何でもするから。だからお願い」

「ほう、例えばどういうものだ?」

分かっていて、問いかけて来ている。

グッと奥歯を噛み締めてから、ウェルミィはエイデスを睨み上げた。

ウェルミィが、彼に渡せるものなど、ちっぽけなものしかない。

「この体くらいしかないわよ。でも、少しは楽しめると思わない? ……お義姉様には劣るけど、それなりに綺麗でしょう? 奴隷のような扱いでも文句は言わないわ。顔も見たくないというなら、処刑でも、北の修道院送りでも、何でも受け入れるから……だから……」

ウェルミィは、堪えていた涙が一筋、自分の頬を生温かく伝うのを感じる。

「お義姉様だけは……助けて……」

それだけが願いだった。

それだけの為に、今まで生きてきたのだから。

「お前達は、姉妹で同じことを言うのだな」

「……?」

「何でもする。その言葉に、偽りはないな?」

抱いた疑問を問いかける間も無く、エイデスが言葉を重ねる。

「ええ」

彼の問いかけに、ウェルミィが頷くと。

彼は満足そうな笑みを浮かべて、こう告げた。

「ーーーでは、お前が私の妻になれ。ウェルミィ・エルネスト」

エイデスのその言葉は、お義姉様の婚約破棄を告げた時と同じような衝撃を、ウェルミィに与えた。

「……?」

思わず呆けていると、エイデスはククッ、と喉を鳴らす。

「お前は、姉のイオーラが助かれば何でも良いんだろう? ウェルミィ・エルネスト。ならば、私の嫁になれ。そうすれば、姉は助けてやる。望むままに生きるだけの後ろ盾も与えてやろう」

ーーーお前が、私の要求を飲むのであれば。

そう、告げられて。

ウェルミィは、初めてその真意を本気で探るために、青みがかった紫の瞳を覗き込んで、息を呑む。

言葉や揶揄するような態度と裏腹に、誠実な輝きに満ちたその目を。

そうだった。

初めて、彼と出会ったデビュタントでも、最初に見た彼は、こんな目をしていた。

「お前のような女性を、私はずっと探していた。幾つの時から計画していた? 十を少し過ぎた頃か? 貴族学校では、もう仮面を被って振る舞っていただろう。あの夜会の時も」

ーーー覚えていた。

エイデスにしてみれば、よくいる令嬢の一人でしかないだろう、少しぶつかっただけのウェルミィのことを。

「人を見抜く審美眼は確かだ。カーラ嬢も、王太子殿下も認めた。お前が何を意図しているのかを、正確に見抜く者はそれなりに多かったぞ。伯爵家家令のゴルドレイも、クラーテスも。ーーーそして、イオーラも」

ーーーそうだったのね。

言われるまで、考えないようにはしていた。

あの聡いお義姉様に、バレていないわけがないことを、認めてしまえば腑に落ちた。

だったら、この茶番劇の……ウェルミィが一人、道化としてエイデスの掌で踊ったことの、幕引きは。

もう彼の狙い通りの結末を迎えることでしか、成立しない。

逃げ道はない。

ウェルミィは、完敗したのだ。

「度胸と知略、我慢強さと解呪の才。努力を惜しまず、最良の道を模索し、最大の効果を狙って賭けに打って出る……そのコマとして、私すらも利用しようと目論むような、豪胆な女だ、お前は」

「お褒めに与り光栄だわ」

吐き捨てたはずなのに、その口調は拗ねているような響きを帯びていることに、自分で気付く。

負けた相手に褒められたって、ちっとも嬉しくない。

「返答を、エルネスト伯爵家令嬢、ウェルミィ」

「申し出を受けるわ。エイデス・オルミラージュ魔導卿。……今この瞬間から、私は貴方のものよ」

ウェルミィの返答に、何故か歓声が上がる。

きっと観客にとっても、ウェルミィ同様に、予想外の幕引きだったのだろうから。

エイデスは顎から手を離すと、腰に手を回して抱き上げられてしまう。

「ご来賓の方々。お約束通り、紹介しよう。我がオルミラージュ侯爵家当主エイデスの婚約者、ウェルミィ・エルネストだ!」

その言葉に。

ウェルミィは本当に、最初から仕組まれていたことを思い知った。

だって彼は、最初に。

『オルミラージュ侯爵家の婚約者を紹介する』と口にした。

それがイオーラお義姉様だとは、一言も言っていなかったのだから。