軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暴かれた出自。

「出鱈目だわ!」

「いいや。リロウド公爵家は、代々治癒魔法の名家であり、クラーテスは幼い頃から医療に強い関心を示していた。男の身にも関わらず積極的に慰問や診療の手伝いに赴いていた。……出奔の前に、かなりの頻度でお前が暮らしていた養護院にも赴いていたことが、記録に残されている」

エイデスの糾弾に。

逃げないように押さえつけられたお父様は、呆然とお母様に顔を向ける。

「おまえ……」

「公爵家の男と、伯爵家の男。エルネストと出会ったのは、街中か? 見た目だけは美しいお前は、二股をかけた。そして、公爵家を捨てて添い遂げようとしたクラーテスよりも、貴族の妾の立場を選んだ」

エイデスは、うっすらと笑みを浮かべて、お母様を指差す。

「地位を得るためだけに、前夫である急逝した先代伯爵の妻……イオーラの母と婚姻を結んだ、エルネストの妾の立場をな」

それは、ウェルミィが知る事実だった。

余計な回り道を挟んだが、話が戻って来たことに内心ホッとする。

イオーラは、お父様の娘ではない。

記録上はそう記されているけれど、実際はお父様の兄上だった先代伯爵の子だった。

それをウェルミィが知ったのは、前妻の日記を見つけたからだった。

赤い、題のないその本を、かつて前妻の部屋であり、お母様が使うことを拒否して埃を被っていたイオーラの母の部屋で、見つけた。

たまにゴルドレイが足を止めて、ジッと眺めていたその部屋に、ウェルミィは興味を持った。

何故、父母はお義姉様にあそこまで辛く当たるのか。

お母様だけではなく、実の父親であるお父様までもが。

その疑問を解消してくれたのが、イオーラの母の日記に記されていた内容だった。

突然、夫を亡くした悲しみ。

身籠った子どもが産まれた後の不安。

そして、兄に比べるとかなり能力に劣り、遊び呆けていた義弟の提案。

ーーー自分の妻になり、自分を伯爵と認めるのなら、後継者を生まれた兄の子どもにする、と。

イオーラの母は、苦悩の末にその要求を呑んだ。

しかし産後の肥立ちが悪く、伏せってしまい、やがて夫よりも少し遅れて亡くなった。

心労も、きっとあっただろう。

「婚姻前に身籠ったイザベラと、その腹から生まれたウェルミィ。その時期は、エルネストが伯爵を継いだ時期。……だがそうなると、イオーラの生まれた時期がおかしい」

お義姉様とウェルミィは、ほんの一ヶ月程度しか生まれた日が変わらない。

「当時から優秀と謳われていた先代と、悪評だらけだったそこの愚鈍。先代夫人がそちらに 靡(なび) いて、不貞を働くとは思えん。イオーラは、先代の子だろう」

だから虐げた。

それでも、イオーラの母が生きていた当時は、まだ正当な後継者を見守る目が多かった。

親戚と縁が切れたのは、お母様を後妻に迎えた時だったから。

だからしがらみが消えた後に、ウェルミィだけを可愛がった。

そんな自分も。

「エルネスト。伯爵家の血を継ぐ者はいても、貴様の血を継ぐ者は誰もいない。ウェルミィは、クラーテスの子だ」

ーーーああ。

ウェルミィは、目を背け続けていた事実に、どこか諦めに似た感情を覚える。

治癒院に、解呪して欲しいと呪いの品を持ち込んだだけの自分に、なぜあんなにもクラーテス先生が良くしてくれたのか。

出回っている魔導具のほとんどを解呪出来るくらいまで、鍛え上げてくれたのか。

きっと彼は、調べたんだろう。

その上で、黙ってくれていた。

ウェルミィが幸せに暮らしているのなら、それで構わないと、きっと。

クラーテス先生の人柄は、分かっていたから。

そう考えているのじゃないかと、思っていた。

ーーーごめんなさい。

その娘が、まさかお義姉様を助けて破滅するために、策謀を張り巡らせていたなんて、思ってなかっただろう。

「話はこれでほとんど終わりだが……最後に一つ、残っていることがある」

そう言って、エイデスはウェルミィに目を向けた。

ーーー私も断罪されるのね。

ウェルミィは、嬉しくも複雑な気持ちだった。

クラーテス先生の実子だと判明しても、ウェルミィは伯爵家の娘。

呪いの品の件で、もしかしたら自分が、正当な後継者であるお義姉様を助けようとしていたことは、バレてしまっているのかもしれないとは思っているけれど。

だからといって、表面上のウェルミィの行動は、決してそうではない。

お義姉様を、ともすれば死ぬような環境で黙認し、虐待に加担していたとされるような振る舞いを心掛けて来た。

それ自体は、子どもだったからとか、温情だとかでどうにでもなるだろうけれど。

お義姉様のレポートを自分のものと偽ったこと。

その為にお義姉様を脅迫したこと。

交友関係を制限したこと。

そして何より、貴族学校の教師陣を欺いたことはーーー確定した事実。

脱税で確保していた伯爵家の財産を、ドレスや宝石に使い込んだのも、ウェルミィの罪だ。

赦される謂れはない。

しかしエイデスは、こちらの手が届く距離に近づいて来たかと思うと、不意に、後ろに目を向けた。

イオーラお義姉様と、その側に立つカーラ子爵令嬢と、レオ。

どうしたのかと、疑問を挟む間も無く、エイデスは告げた。

「イオーラ・エルネスト。この場で、私はお前との婚約を破棄する」

その言葉に。

ウェルミィの頭は、真っ白になった。