軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女テレサロの受難。【中編】

「あら、申し訳ありませんソフォイル様。わざわざ足をお運びいただきましたのに、お待たせして」

微笑みと共に、茶目っ気のある仕草で小さく頭を下げたウェルミィお姉様は、一転して平伏したままの三人に声を掛ける。

「ほら、ちゃんと声に出して謝って下さいませ」

「「「「誠に申し訳ございませんでした」」」

「ゆ、ゆゆ、許しますっ!」

「いや、ダメに決まってるでしょ!?」

テレサロは謝罪に即答したのだけれど、ウェルミィお姉様は許してくれなかった。

「な、何でですかぁ! この状況、もう無理ですぅ! せめて頭を上げて貰って下さいぃ!!」

そう半泣きで訴えると、ようやく「顔を上げていいわよ」とウェルミィお姉様は許してくれた。

思わず倒れそうになった新興男爵令嬢であるテレサロを、三人の後ろから回り込んで近づいて来たソフォイルが、横からそっと支えてくれる。

大きな体と手の温かさに、ホッと息をつきながら、テレサロは立ち上がった三人に向き直った。

セイファルト様は、どこか所在なさげに頬を掻きながら、兄貴分だったと言っていたズミアーノ様を見ている。

「ねぇ、ミィ。そろそろ喋っていい?」

先ほどまで、とんでもなく屈辱的な格好で待たされていたというのに、まるで気にした様子も……同時に後ろの二人と違って反省した様子もなく……ニコニコとズミアーノ様が問いかける。

「余計なことばっかり喋ったら殺すわよ」

「ちゃんとやるよ。そのくらいは弁えてるからね」

今回の事件で、ツルギス様やシゾルダ様、それにセイファルト様まで操っていたという黒幕、ズミアーノ様。

ソフォイルはしばらく、ウェルミィお姉様に侍って近くにいたらしいけれど、その事実を告げられた時に、怒りよりも先にとても驚いていた。

そして後になってポツリと、こう呟いていた。

『身分で侮らず、功績を認めて、親しみを込めて接してくれる方々ばかりだったのだが』と。

テレサロの目に映る魔力の波動も、誰も彼も心地よい雰囲気を放っているので、ソフォイルの気持ちはよく分かった。

ーーーご友人の恋を実らせるためだった、と。

やり方がとんでもなくて、迷惑を掛けられたけれど、そのズミアーノ様本人すらも、少し歪だけど決して悪い波動を持ってはいない。

しかしその色合いはどこか灰色みを帯びていた。

色のない絵のように。

よくよく見ると、何かに阻害されるように少し波動に歪んだ部分があり……テレサロは、無意識に手を伸ばしていた。

「ん? 何?」

ニコニコと問いかける彼に、テレサロは歪みを正す聖術を発した。

魔力の波動が感じるだけでなくハッキリ見える、というのは、どうやら特異なことのようで『信用できる人以外にはあまり口外しないように』と、タイグリム様に命じられていた。

そして、魔力の歪みを正すことで、その原因となっている傷や痛みといったものを、間接的に癒やせることもまた、テレサロ特有の力だそうで。

ズミアーノ様の波動が歪んでいるのは、頭の前。

多分、十年近い昔から歪んでいたのだろう部分はそれだけでは回復しなかったけれど、魔力の波動は、阻害していた膜に穴が空き水滴をぴちょんと落とすように、流れ始めた。

歪んだ部分が開いたようなので、少しずつ広がって、流れは正されるだろう。

「何をしたの? テレサロ」

「魔力の波動が歪んでいたので、それを少し治したんですけど。ズミアーノ様?」

「うん、何?」

ウェルミィお姉様の問いかけに答えた後、不思議そうな顔をして首を傾げているズミアーノ様に、テレサロは問いかける。

「ズミアーノ様は、昔、頭に傷を負われたことはありませんか?」

「傷? ああ、うん。そういえば昔、落ちかけたニニーナを庇って、崖から落ちたことがあったかな? ねぇ?」

後ろの二人に何でもないことのように問いかけるズミアーノに、シゾルダ様がため息を吐く。

「あったかな? ではありません。生死の境を彷徨ったでしょう」

「そうだっけ?」

あはは、と笑う彼に、ウェルミィお姉様が「ニニーナって誰?」と問いかけると。

「ああ、オレの婚約者。社交嫌いで、年始の挨拶以外はずーっと領地に引きこもってる、変わった子なんだよねー」

「!? 貴方、婚約者がいるのに私を口説いたの!? 信じられない! アーバイン並みにクズじゃない!」

「だって、オレが罪を犯してるのがバレたら、どっちにしたって婚約解消になるしさ。実際、父上が謝罪がてら向こうに言って慰謝料払うよーって打診したらしいけど、なんか断られたって。だから今も婚約者のままなんだけど」

やっぱり変わった子だよねー、とズミアーノが軽く笑う。

しかしテレサロは、その話に申し訳ないと思いながらも割り込んで、大事なことを口にした。

「あのですね、今、わたしズミアーノ様の魔力の流れを正したんですけど! その、頭に怪我をされると、表面上は問題がなくても、色々支障が出ることがあるんです!」

同じように頭の部分の波動が歪んでいて、精神を病まれた方を、偶然治療した時。

彼の魔力の波動は温かそうなのに、阻害された部分から広がるように灰色がかっていた。

それを治すと、数ヶ月後に彼はすっかり元気になっていたのだ。

「なので、その怪我の前後で変わったことがありませんでしたか?」

「んー? 昔すぎてあんまり覚えてないけど……そういえば、全部つまんなくなったのって、その位の時からだったっけ……? あれ?」

ズミアーノがかすかに眉根を寄せた顔をするのを、ウェルミィお姉様やツルギス達が珍しいものを見たように目を見開く。

「……よく分かんないけど、今退屈なことも昔は楽しかった気がするな……ま、どうでもいいか!」

すぐに笑顔に戻ったズミアーノ様は、まるで何事もなかったかのように話に戻り始めたけれど。

全体が灰色がかっていた波動が、癒した部分から少しずつ瑞々しい輝きを取り戻し始めていたので、テレサロはそれ以上何も言わなかった。

「それで、お詫びの話なんだけど」

「あ、はい」

別にいらないんだけどなぁ、と思いながら、テレサロが頷くと、ズミアーノ様がニコニコととんでもないことを口にした。

「ーーー君が聖女として神殿に入りたくないって聞いたから、ぶっ潰す準備をしてきたんだ!」

と。