軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女テレサロの受難。【前編】

ある日の午後。

貴族学校の中にある、とある隠し部屋で……テレサロは、頬を引き攣らせていた。

目の前にいるのは、平伏して地面に頭を擦り付ける三人の青年。

ーーー何で、侯爵家と公爵家の御令息がわたしに頭を下げているんですかぁ〜!?!?

そこにいるのは、ズミアーノ様を先頭に、ツルギス様とシゾルダ様である。

しかも、土下座。

宰相の息子であるシゾルダ様など、王位継承権をお持ちの方のはずなのに。

商人からの、しがない成り上がり男爵家の娘でしかないテレサロは、卒倒しそうだった。

いきなり呼び出されたかと思ったら、この状況。

さらに、彼らの横には得意げに両拳を腰に当て、平均よりつつましやかながら形のいい胸を張っているウェルミィ様の姿がある。

相変わらず、愛くるしくて美しい人だけれど、今は謎の迫力を身に纏っていた。

「あのぉ〜……な、何でわたしは頭を下げられているんでしょうか〜……?」

「謝罪のために決まってるでしょう!」

ふん、と鼻を鳴らしたウェルミィは、侮蔑するように三人を見下ろした。

「か、仮にも高位貴族の、それも嫡男の皆様です、よね……?」

「貴女、乙女の純潔が危うく奪われるところだったのよ!? このくらい当然だし、陛下も親御さんも認めてるんだから良いのよ! 今は私の護衛だし、全員!」

何だかヤケクソ気味のウェルミィ様に、一体何があったんでしょうか、とは聞くに聞けず「そうですか……」と返答する。

「テレサロ嬢への謝罪か……それならこれ、僕も並んだ方がいいよね?」

「やめて下さいっ! それにセイファルト様にはとっくに謝って貰ってます!」

横から聞こえた声に、テレサロは即座に拒否を示す。

顎に手を当てているのは、以前迫られていた時とは比べ物にならないくらい、表情が柔らかくなったセイファルト様。

どうやら謝られる側として呼ばれているらしいセイファルト様は、〝魅了の聖術〟が解けた後、本当にすぐに手紙で連絡をくれた。

同じ校内にいるから会おうと思えばすぐに会えるのに、『怖いだろうから』とウェルミィ様経由でソフォイルにも連絡を取ってくれたようで、彼もその場にはいた。

ソフォイルは物凄く不機嫌そうに、糸目の奥から殺気を放っていたけれど、セイファルト様が操られていただけだと知って……テレサロが宥めたのもあり……どうにか怒りを収めてくれた。

ソフォイルとの婚約解消は、どうやら介入してきていた権力者的に難しいようで、未だに再婚約は出来ていないけれど。

お互いに起こったことや想いを伝え合って、どうにか元通り、恋人同士になれた。

セイファルト様は、学校であまり距離を詰めすぎないように、テレサロに気を使ってくれる。

……ソフォイルとの関係が一歩進んで、言いたいことを言い合えたし『これはこれで良かったのかなぁ』と口にしたら、『君は人が良すぎる』とセイファルト様に呆れられたけれど。

「ていうか、学校の中なのに、何で当たり前のように皆様いらっしゃるのですか……?」

「え? レオの許可を貰ったからだけど」

ーーー殿下ぁああああ!!! 何してくれてるんですかぁああああ!!!

テレサロは心の中で叫び声を上げた。

だってここには、騎士服を纏ったソフォイルまでいて、平伏している、今回の主犯らしい三人の後ろで腕を組み、今にも剣を抜き放ちそうなオーラと共に仁王立ちしているし。

今いるこの場所は、もう卒業してしまったレオニール殿下が用意した、イオーラ様のための空間……通称『サロン』と呼ばれていた部屋だった。

「そういえばテレサロ、セイファルトとこの部屋に入って来たけど、場所知ってたの?」

ーーーそんな事より平伏やめさせて下さいよぉ!!

と、質問してきたウェルミィ様に心の中で叫びつつ、質問に答える。

「あ、わたし、サロンのメンバーだったので……」

「……へぇ?」

すると、何故か雰囲気が冷たいものに変わったウェルミィ様の、宝石みたいな朱色の瞳がスッと細まって危険な光を宿す。

「ひぃ!?」

「そうなのね、テレサロ……? 私がアーバインとつまらない時間を過ごしている間、貴女はここで私のお義姉様と、楽しい時間を過ごしていた、と……」

「ああああああ、あのあのあの……」

完全に自分が失言したと気づいたテレサロは、頭が真っ白になった。

イオーラ様の話題は虎の尾だった、と後悔してももう遅くて。

「だから最初、レオに話しかけた時にあんなに親しげで? ふぅん、そうなのね……」

テレサロは、恐怖のあまり胸元にぎゅっと手を当てて体をこわばらせ、視線を彷徨わせる。

するとウェルミィ様は、爪を瞳のお色と同じように塗った指先で、スィ、とテレサロの顎を持ち上げた。

背はそう変わらないくらいなのに、彼女はとても大きく見えて、目だけが笑っていない微笑みには思わず『女王様』と呼びたくなるような、とんでもなく嗜虐的な圧を感じる。

ーーーえ、エイデス様の雰囲気が乗り移ったみたいですぅ!!

数度しか会ったことがないけれど、ウェルミィ様がお側におられる時とおられない時では、全然雰囲気が違う魔導卿の顔を思い浮かべながら、テレサロはダラダラと冷や汗を流した。

「あの時、助けなかったほうが良かったかしら……?」

「うぇ、ウェルミィお姉様に助けていただいて、テレサロはとってもとっても感謝してますぅ!!」

目を閉じて震えながら、反射的にそう口にすると。

ウェルミィ様が、何故かピタリと動きを止めたようだった。

恐る恐る目を開けると、何故か顔を凝視されている。

「テレサロ」

「はいぃ……」

「もう一度?」

「私はウェルミィお姉様に助けていただいて感謝してますぅ!!」

すると、それまで処刑モードだったウェルミィ様の顔から、すぅ、と威圧感が抜けて。

どこか恍惚としたように、軽く頬を染めて潤んだ目で見つめられる。

女の自分でもドキドキする、とても色っぽくて切なげな表情に思わず見入っていると、彼女は、はぁ、と吐息を漏らした。

「何だか、凄くいい……」

「え……?」

「テレサロ。これから貴女は、私をお姉様と呼びなさい……」

「分かりました! お姉様!」

テレサロが、ウェルミィお姉様にそう答えると、横でセイファルト様が感心したように言う。

「なるほど、これが眺める百合ってやつか……ウェルミィ様が性癖に目覚めてるな。いや元から素質あったけど……」

そんなわちゃわちゃに、ソフォイルが痺れを切らしたように溜息を吐いて、低い声で言った。

「そろそろ、話を本題に進めていただけませんか?」