軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令息と悪役令嬢の誘拐。【中編】

そんな指摘を受けたのは、初めてだった。

女性に拒絶された経験も、自分を見破られる反応も。

だからますます興味を惹かれた。

「本当はね、ミィ」

目覚めたばかりだというのに、美しい姿勢でベッドに腰掛け、淑女の微笑みを浮かべてこちらを見る彼女に、ズミアーノは気分良く応えた。

「オレは、君の策略が全て終わった後に牢から攫って、帝国に行こうと思ってたんだ」

「……どういうこと?」

訝しみながらも、表情は崩れない。

これがウェルミィの戦闘態勢だ。

ーーーようやく正面から対峙できたなぁ。

なんだか感慨深くなりながら、ズミアーノは話を続ける。

「だって、せっかく組み上げたオモチャを、自分以外の人に崩されるのって気分が良くないじゃない?」

あの、ウェルミィの告発による断罪劇は、彼女が作ったものなのだから。

「オレはミィが好きなんだと思う。だから見守ってたんだけど、無粋なオルミラージュ魔導卿に邪魔されちゃって、可哀想だったなぁ」

罪人でも、帝国に行ってしまえば、ライオネル王家の油断ならないタヌキでもそうそう手が出せない。

「そうして助けたら、ミィをお嫁さんにしたいなって思ってたんだ。退屈しなさそうじゃない? 君と一緒にいると」

すると、ウェルミィは笑みを深めた。

「あら、そうして求められるのも悪くはないわね」

きっといきなり連れ去られて怯えているだろうに、それをおくびにも出さない。

ズミアーノは、そういうところも好きだった。

「そうでしょ? だから、オルミラージュ魔導卿からオレに乗り換えない? 酷いことはしないし、苦労もさせないよ? 条件はそう悪くないと思うんだけど」

「オルミラージュ侯爵家と変わらないくらい?」

「うん」

ーーーやっぱり良いなぁ。

ズミアーノは、利害関係で言えば、本当に悪くない物件だと自分で思っている。

立場は年齢の関係でエイデスよりも下ではあるが、別に得ようと思えば地位なんかすぐに手に入るから。

だけど、彼女は断った。

「悪いけれど、今は私もエイデスが好きなの。ズミアーノ様は、前に私が言ったことを覚えていて?」

「もちろん」

「その頃から、貴方は何も変わっていない。立場も、大切にしてくれるのも、貴方を選べばきっと、エイデスと同じくらいにしてくれるだろうけれど、貴方と彼の間には、明確な差があるわ」

「へぇ、教えて欲しいな」

するとウェルミィは、あの時と同じようにジッとズミアーノの目を見て、こう告げた。

「貴方は飽きたら私を捨てるわ。自分のことしか考えていないから。でも、エイデスは捨てない。私のことを考えてくれたから」

ズミアーノは、それが取るに足らない差だと思った。

でも、きっとウェルミィにとっては大きな差なんだろうな、ということが、何となく分かる。

「飽きられない努力をする、っていうのも、一緒に過ごすには大事なことじゃない?」

「そうね。それを怠るつもりはないけれど、それでも私は、私のことを想ってくれるエイデスが良いの」

「そっか」

ズミアーノは、その返答に満足して、満面の笑みを浮かべた。

「ねぇ、ミィ。君、オレがこの騒ぎを起こしたことを、怒っているでしょう?」

すると彼女は、スッと表情を消した。

美人がそんな表情をすると、とても迫力がある。

「当然じゃない。ーーーそれが私のせいだっていうなら、尚更だわ」

ズミアーノは。

やっぱりこちらの意図に気づいたウェルミィに、何度もうなずく。

この騒動を思いついたのは、シゾルダからツルギスのことを相談された時だった。

『ウェルミィかイオーラという少女が、レオニール王太子殿下の婚約者となるのなら、ダリステア嬢への彼の思慕も実りはしないか?』

どうでもいいな、と思ったけど。

ツルギスが幸せになるための策略を考えるのも、少し面白いかも、とズミアーノは思った。

別に、幼馴染みたちが嫌いなわけではない。

ただ、行動が読めすぎて退屈なだけで。

それが暇つぶしになるなら、と頷いて、とりあえず帝国の旅行に誘った。

ツルギスは17歳、シゾルダは20歳で、ズミアーノも同じ歳だ。

シゾルダには婚約者がいて、ツルギスはまだいない。

ーーーまぁ、万一があっても悲しむ人は少ない方がいいかな。

と、楽しいことが好きなズミアーノは考えて。

シゾルダにそれとなくダリステアを馬鹿にするような噂を流すことを、香水を使って思考誘導した後、自分も人を操る魔導具の噂を流すように指示した。

同時に旅行中に帝国にライオネル内乱の噂を流し、教会がどの程度、桃色の髪の聖女を重要視しているのかを確かめる。

どうやら、帝国の方は積極的に関与したい姿勢であり、教会は聖女に、能力を見極めるまで静観の構えを見せていることは把握した。

その間に、ウェルミィがエイデスと共謀して、また楽しいことを始めたみたいだったから。

ツルギスに腕輪を嵌めて旅行から帰国した後、香水とは別の噂……帝国で聞いていた桃色の髪の聖女候補にそれとなく会う。

手頃な位置にいて、女遊びをする弟分だったセイファルトを操って、彼女に迫るように仕向けた。

婚約破棄は、ツルギスや実家の圧力を使って彼が迫りやすいようにした。

遊び終われば、誤解を解いて元に戻してやっても良いし、聖女が教会に入るならそのままでもいいかな、というくらいの軽いノリだった。

すると、ちょっとした遊び相手のつもりだったのに、テレサロという少女は今回の件に都合のいい術を会得していた。

香水を使うよりも情報が錯綜して、ズミアーノを追いにくくなるだろう。

仕上げに、ウェルミィがいるところを見計らって、ツルギスを通してレオに声を掛けさせる。

案の定、ウェルミィが邪魔をした。

ーーーこれでいい。

ズミアーノの策略に、ウェルミィは気づくだろう。

ーーー辿り着けるかな?

それは手応えのない連中を相手にするよりも、はるかに楽しい遊びで。

ダリステア嬢を使った狙いを看破した上で、見事彼女は無難なところに落とし込んで魅せた。

流石だなぁ。

その間に、特務卿とエイデスがこちらの香水と魔導具工場を突き止めて潰そうとしているのは放置した。

どうせ自分しか使っていないし、帝国側が内乱を狙っているという嘘っぱちの噂を流したのもズミアーノだ。

関与していると帝国自身に誤解させる為に、きちんと内乱の内容を伝えて、向こうの文官の一人に腕輪を嵌めて、そいつに色々手配はさせておいた。

ウェルミィとエイデスがズミアーノに勝てば、それが賞品になると踏んでいた。

帝国とのパワーバランスを有利に持っていくような隙を、あのタヌキ国王が見逃すはずもないし、彼らの株も上がるだろう。

禁を犯した聖女の先行き。

罪を犯したツルギスの恋の行方。

他国へ干渉した帝国の挙動。

そして、自分のウェルミィに対する執着の終着点。

それらを操ることは全て、ズミアーノの中で同じ程度の価値がある……あるいは同じ程度の価値しかない『面白いこと』だった。