軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

余興の後で。

「……どういう意味か、ラングレー公爵令息」

「言葉通りの意味にございます。私は縁戚として、ツルギス様と親交がございました」

ラングレー公爵家の公爵夫人は、デルトラーテ侯爵の妹。

代々文官のラングレー公爵家と、同じく騎士の家であるデルトラーテ侯爵家は良好とは言えず、それを憂いた現陛下は、当然ながらどちらとも親交があったため、関係を改善してはどうかと提案したのだ。

三人は貴族学校の学友でもあり、結果としてラングレー現公爵と、気性のさっぱりしたデルトラーテ嬢は恋に落ち、どちらにも不利益のないことから、婚姻が成立した。

親族からの反対はあったものの、後ろ盾に王家がついているとなれば、強くは言えなかったそうだ。

そうして、従兄弟であるツルギスとシゾルダが生まれた。

「ツルギスは以前から……ダリステア嬢に、恋情を抱いておりました」

「っ!」

その発言に、ダリステア様が息を呑む。

「しかし、レオニール殿下の第一婚約者候補であらせられる彼女への見合いの申し込みを、デルトラーテ侯爵閣下はお許しになられませんでした」

その恋心を知っていたシゾルダは、どうにかならないかと協力していたのだという。

「その際に、私は、ツルギスに伝えてしまったことがございます。『ダリステア嬢が、婚約者候補から外れられれば良いのにな』と。ーーーおそらく、彼のこの一連の行動は、それに基づいて行われたものです」

ダリステアは、自分が原因だという事実に、今にも倒れそうな顔をしていた。

「私は、彼の手助けをするつもりで、何かと気を配っておりました。そして、こちらのズミアーノ・オルブラン侯爵令息と彼を、引き合わせたのです」

紹介されたズミアーノは、黙って頭を下げた。

濃い茶色の髪と浅黒い肌、透き通るような青い瞳を持つ彼は、長い髪を肩口で束ねており、服装も異国風の正装をしている。

オルブラン侯爵は、広大な穀物地帯で採れた作物を、国内だけでなく隣国の帝国へも輸出をしている。

以前、帝国内で飢饉が起こった際に支援したことから、さらに向こうの高位貴族と繋がりを持つに至った。

そこで見初めた異国のご令嬢が、現オルブラン侯爵夫人となっている。

ズミアーノは異国とのハーフであり、当然向こうの貴族と繋がりがあった。

「長期休暇の折に、少し気晴らしをしてはどうかと、帝国への旅行を提案し……そこで彼は、どういう形で接触したのか、魔薬の原料となる香草を手にしたもの、と思われます」

「では、問うが」

陛下は決して愚鈍ではない。

「この状況ではダリステア嬢には大した非がなく、もしツルギスの企みが成功しておれば、逆にダリステア嬢が大逆の罪を暴き、婚約者候補として最も相応しいと判断されたであろう」

そう。

この状況は、ウェルミィ達が偶然相手の策略に気づいて、逆手に取ったことで作られた状況だ。

ツルギスは、次々とこちら側につく令息達を見てどう思ったのか知らないが、それでもウェルミィを……『レオに最も近い婚約者候補である』と皆に印象を植え付けていた相手を、大逆の主犯として罪をなすりつけようとした。

そうなれば、元々幼馴染みで第一候補に近かったダリステアが婚約者となる、ことを、彼は予測出来なかったのだろうか。

それが疑問点だったのだけれど、ウェルミィは、シゾルダの話を聞いて気づいた。

ーーー彼はきっと、以前のウェルミィと同じようなことをしようとしているのだと。

愛するダリステアが、想う相手と結ばれるように。

それに気づいた時、全ての狙いが繋がった。

シゾルダが、それを話した後、深く頭を下げる。

「陛下。私は、ウェルミィ様がレオニール殿下の婚約者になるという噂に懐疑的でした。しかし、それに乗じてダリステア様を貶めるような噂が流れるように計らいました」

「また、学校生活での交流から、本来の殿下の婚約者はイオーラ様であろう、と推察致しましたので、夜会や茶会に姿を見せぬ彼女のことも、悪い噂が流れるよう、同様に計らっております」

ウェルミィの悪い噂は、自作自演だけれど。

ダリステア様を貶める話も、イオーラお義姉様がレオに捨てられたという話も、同じように流れていた。

「ツルギスの狙いに気づくことが遅れ、テレサロ様の魅了を受ける以前より、他者に不利益となるような振る舞いをしていたのは、私でございます。ーーーツルギスは、大逆など狙ってはおりませんでした」

むしろ、手段は間違えても、ダリステア様の地位を守るように動いていた、と。

「ゆえに、この騒動の主犯は私です」

そう、シゾルダは締めくくった。

法を犯し、実行したのはツルギスでも、そう動く様にけしかけたのは自分であると。

彼とシゾルダの目的は食い違っていた。

だからツルギスは、偶然握ったテレサロの弱味を盾に、ダリステアをレオに嫁がせるのに邪魔な者たちを、抑えたのだ。

シゾルダは、評判通りに聡明だった。

そして潔かった。

「いかような処分も、受ける覚悟にございます」

陛下は、深く息を吐くと、宣言した。

「シゾルダも拘束を。また、ダリステア嬢はクラーテス伯爵が解呪の措置を。その後、テレサロ嬢と合わせて自宅にて謹慎するよう。改めて事実関係を詳らかにした上で沙汰を出す」

話は以上だ、と陛下はテレサロ、ダリステア様の両名に退席を促した。

ソフォイルはテレサロに付き従い、ダリステアはマレフィデントが彼女が落とした肩を抱いて退出する。

「ラングレー、デルトラーテ両当主は、この夜会後、王城に残るように。ーーーさて、少々時間が押したが、今夜の本題に移る」

陛下は、沈んだ空気を払うように、明るい声を出した。

「此度、めでたく我が子レオニールの婚約が成立した」

静粛の空気が失せたことを悟った貴族たちが、ざわりとざわめく。

「相手は才媛である。我が妻が患った病の治療薬を開発し、先日、上位国際魔導師として正式に認可を受けた。またその礼節は王家に遜色なく、領地経営の手腕は各家当主にすら劣らぬ辣腕を持つ」

誰だ? という呟きが漏れたが、大半はもう悟っているだろう。

陛下に促されて、王妃がヴェールを上げると……病によって皮膚が爛れていると言われていた彼女が、滑らかな肌の美貌を取り戻していることが衆目に明らかとなった。

おぉ……と感嘆の声を上げる貴族たちの中、ウェルミィの近くにいたレオが頭を下げて壇上に上がると、袖に手を伸ばす。

すると、白い手がその上に乗り、レオの色である紫と銀の衣装を纏った少女が、悠然と姿を見せた。

輝く白銀の髪と、紫の瞳を持つ、ウェルミィの最愛のお義姉様ーーー。

「ーーーイオーラ・エルネスト女伯である」

この国において、たった二人しかいない魔導爵に匹敵する資格を得た、お義姉様は。

人の目を惹かずにはおかない清楚な微笑みを浮かべ、レオの横に立って完璧な 礼儀(カーテシー) を披露する。

広間が、歓声と拍手の音に包まれるのを、万感の思いで聴きながら。

ウェルミィは、心からの笑みと共に、誰よりも大きな拍手を響かせて祝福を贈る。

ーーーおめでとう、お義姉様。

幸せそうにレオと顔を見合わせてから、こちらに目を向けたお義姉様は。

ゆっくりと目を細め、ウェルミィに小さく手を振った。