軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

爆弾は、予期せぬところから。

「デルトラーテ侯爵令息、ツルギス。……テレサロ・トラフ嬢の発言に、相違ないか」

陛下にそう問われたツルギスは、グッと唇を噛み締める。

「……ありません……」

「捕らえろ」

陛下は申し開きをさせず、即断した。

ツルギスは衛兵によって即座に拘束されて、夜会の席から退場する。

これは予定通り。

何故ならツルギスは、人を操る……思考力を低下させて、思考に方向性を持たせる魔薬を香水として身に纏っているからだ。

その香りに中てられた者は、言葉巧みに誘導されると『それが唯一の真実だ』と思い込んでしまう。

ダリステア嬢がこのような騒ぎを起こしたのも、テレサロが彼を魅了して黙らせることを思いつかなかったのも、二人の元々の気質はあるだろうけれど、ツルギスが思考を誘導したせいだった。

貴族が周りに多数いる場で、偽証をさせる可能性があることをエイデスが事前に進言していたから、陛下は即座に退場させたのである。

この場で騒ぎを起こす前に、全員を秘密裏に退場させる手もあったけれど。

ウェルミィ達の当初の目的に、都合が良いことから、あえてこの場で罪を暴くことを選んだ。

ダリステア様とテレサロは、これで被害者側だと印象付けられただろう。

ーーー出来ればダリステア様は、こちら側に先に引き込みたかったんだけど。

思いの外、気が強かった彼女はワインを掛けられた後に、レオの手を拒否してしまった。

あの時はまだタイグリム様を計りかねていて、彼には事情を伝えていなかった。

その間にダリステア様にツルギスが接触してしまい、その後夜会にもお茶会にも姿を見せなかった為に、仕方なくマレフィデント特務卿にだけ危険を伝えて今日を迎えた。

「トラフ嬢」

「……はい」

跪いたまま、両手を祈るように組んで顔を上げたテレサロに、エイデスが申し添える。

「リロウド嬢より聞き及んでおります事情によれば、魅了を使った最初の目的は自衛の為、と考えられます。そこを鑑みていただければ、と具申いたします」

「自衛とは。オルミラージュ魔導卿」

「は。テレサロ嬢は、婚約解消後、アウルギム伯爵令息セイファルト様より、無体な真似を強要された際に力を発動したもの、と思われます」

「……アウルギム伯爵令息。相違ないか」

「は。間違いはありません」

話を向けられたセイファルトは、優雅とも言える仕草で頭を下げた。

金髪碧眼、整った美貌に浮かぶ表情はどこか軽薄で、しかし奥底に自信が満ちている様子に見える。

ーーーそう見える、だけなんだけどね。

彼を夜会で誘い、上手く物陰に誘い込んだ後、ウェルミィは解呪を実行した。

するとセイファルトは、何故か呆然とした様子でしばらく立ち尽くしていたのだ。

聞いた話によると、彼はアウルギムの長子ではあるものの、庶子……アウルギム伯爵の妾の子であるらしい。

アウルギムの家は典型的な政略結婚で、夫婦の間に元々愛はなかったようだ。

お互いにそれを納得している冷め切った夫婦関係であるものの、男子二人と女子を一人を出産しており、その後はお互いに愛人を抱えていたそうだが……。

その正当な後継者である長子が、流行病で亡くなった。

同様の病でセイファルトの母も亡くなり、その関係でアウルギム伯爵が彼を引き取ったことで、ややこしくなった。

次男よりも、セイファルトの方が年上だったからだ。

ーーーだから、彼は。

「申し開きはあるか、アウルギム伯爵令息」

「確証はございませんが、ツルギス様と以前より親しくしておりました。その際に、彼より嗅ぎ慣れない芳香がしており、気づけばテレサロ嬢に執着するようになっていたように思います。その後、トラフ嬢によって魅了を受けたことにも、相違ありません」

歯切れの良い、堂々とした語り口だった。

事実を淡々と並べている彼は、自分が処罰されることを憂いていない。

公になれば、アウルギム伯爵は彼の弟を後継者に指名するだろうからと、事情を話した時に笑っていた。

『肩の荷が降りて、清々するよ。僕は後継者なんかに向かないからね。ツルギスに感謝したいくらいだ』

と。

彼は軽薄な態度で浮名を流していた。

そして優秀であるにも関わらず、それを隠していた。

セイファルトの弟も優秀な人材のようで、彼はずっと、爵位を弟に渡したかったのだと。

アウルギム伯爵は、自分の愛した女の息子と、正当な権利をもつ息子のどちらに継がせるかで、揺れていたらしい。

『義母は、血の繋がりもない、愛してもいない夫の息子である僕に、とても良くしてくれるんだ。プライドがあるのかも知れないけど、それでも僕は感謝してるから』

将来は宮廷貴族として男爵位でももらい、悠々自適に過ごしたいらしい。

それに元は平民だから、爵位を貰えなくてもいいんだ、とセイファルトは笑っていた。

その為の醜聞を求めて、彼は女性が自分に好意を持って、その後に恨むようにと、接していたのだから。

ーーー自分勝手だけれど。

話を聞いて、どことなく自分の振る舞いに似ているものを感じたウェルミィは、セイファルトの決断を尊重した。

「ツルギス様が何を思って僕にそんなことを強要させたのかは、分かりませんが。ーーーあの香は、おそらく精神に影響を与える魔薬の類いだと思われます。それらの影響を、リロウド嬢に解呪していただきました」

そう言って頭を下げたセイファルトは、さらに言葉を重ねた。

「ーーー僕と同様に、シゾルダ様とズミアーノ様も。婚約者を放ってウェルミィ様に侍っていたのは、そうした事情にございます。彼女たちを、巻き込みたくなかったので」

ウェルミィが見渡すと、三人のご令嬢が一様に口を両手や扇で押さえていた。

三人の令息がたの、婚約者様たちだ。

ーーーこれで、誤解は解けたわよね?

彼らは全員……浮気症のセイファルト様の婚約者様も……令息がたに好意を抱いていると聞いている。

でなければ、いくら家のためとはいえ、あり得ない振る舞いをする相手との婚約解消の話一つ出ないのは、おかしな話だ。

魅了が解かれた彼らは一様に『そうなっても仕方がない』と、魅了された自分達を責めて協力してくれたので、少しでも関係を元に戻す手助けになればいいと、ウェルミィは思う。

「状況は理解した。ラングレー公爵令息、シゾルダ。オルブラン侯爵令息、ズミアーノ。それぞれに、申し開きはあるか」

陛下にそう尋ねられた二人は、目を見交わした後に、シゾルダが口を開く。

片眼鏡(モノクル) をかけ、青い髪をきちんと撫でつけた真面目な宰相の息子は、ここに来て更なる爆弾を落とした。

「ーーーこの一連の案件を起こすよう、ツルギスを唆した首謀者は、私でございます」