軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士爵の苦悩。

その後、ウェルミィがレオとも情報を共有し、テレサロから〝魅了の聖術〟を掛けたという令息に、慎重に接触しようと動いていたところ。

「少し、宜しいでしょうか。リロウド嬢」

慇懃に、しかし少し固い雰囲気で声を掛けてきたのは、意外な人物だった。

「エンダーレン騎士爵様……?」

そこに居たのは、テレサロの婚約者だったという青年だった。

彼はテレサロから当然ながら魅了を掛けられていない。

「どのようなお話でしょう」

「ここでは少し憚られます……申し訳ございませんが、少々人目から外れたところでお話をお願いしたいのですが」

そう告げるソフォイルの糸のように細い目には、真摯な色が垣間見えた。

家の事情で解消された婚約者。

でも、テレサロ自身が彼を説得して望んだ婚約なのなら。

ーーーソフォイル様も、テレサロが好きなのね……。

そう考え至り、今日のエスコートを引き受けてくれたエイデスを見上げて耳元で囁く。

「二人でいい?」

「影から聞いておこう。ウェルミィの悪評を高めるのにも、男と二人で暗闇へ消えるのは都合がいい」

元の目的である『お義姉様の代わりにレオの婚約者として振る舞い、かつ自分の評判を高めない』というほうに、エイデスはソフォイルを利用するつもりらしい。

クスッと笑ったウェルミィは、待っている青年に頷いた。

「構いませんわ。場所を移しましょう」

「感謝いたします」

ピシッと騎士らしく頭を下げたソフォイルと広間を出て物陰に移動すると、彼はテレサロとどんな会話を交わしたのか、を聞きたがった。

純粋に、泣いて帰って来たというテレサロを心配しているのだろう。

ーーー味方、として問題ないわね。

しかし詳しい事情を、ウェルミィ自身の口から話すわけにはいかなかった。

「彼女は、少々危ない問題に巻き込まれています。その為、テレサロの近くにあまり人を張り付けておく訳には参りません。問題の詳しい事情は、ご本人から」

ウェルミィの名を出せば、貴方を信頼していればテレサロは話すでしょう、と申し添えると、ソフォイルは顔を強ばらせた。

「……トラフ嬢は、自ら婚約の解消を望んだと」

ぎゅ、と口元を引き結ぶ彼に、ウェルミィは『彼にそんな風に説明したのね……』と少し嫌な気分になった。

それは、何も知らなければソフォイルからテレサロに話しかけるのは困難だろう。

彼は自分が辺境に赴き、放っておいたことでテレサロから嫌われてしまったと思っているらしい。

誤解を解いて、ウェルミィは口添えをした。

「テレサロは普段、貴族学校の女子寮に居ます。エイデスに頼んで、秘密裏に面会の申請を通しましょう。そこでお二人で話し合い、今後協力する気があるのなら、オルミラージュ侯爵家へおいで下さい」

実直なこの歳上の青年は、それでもテレサロを気にしていたのだろう。

だから、ウェルミィに彼女が恥をかかされて泣かされたと思い、何か手助け出来ればと話をしにきたに違いない。

そこでウェルミィに話を聞きにくる辺りが、猪突猛進ね、とは思うものの、今回はそれが功を奏した。

今、エイデスとウェルミィが住んでいるのは、エイデスとウェルミィが茶番の断罪劇を起こした屋敷だ。

本邸の方に住んでいないのは、詳しい事情は分からないけれど、多分エイデスの義母と義姉が亡くなったことが関係しているのかもしれない、と思っている。

その住所を伝えて五日後に、ソフォイルはきちんと先触れを出してから、屋敷に訪れた。

「話を聞きました。彼女を守るために、 拙(せつ) めもお仲間に加えていただきたい」

ウェルミィとエイデスはそれを了承し、レオに彼を引き合わせた。

彼は苦い顔をしつつ、ソフォイルに対して口を開く。

「遺憾に思うよ、ソフォイル卿。ウェルミィに話を聞いて問い正したら、愚弟が吐いた。素直に事情を説明した上で婚約したままであれば、教会も無理には彼女を引き抜かなかっただろうに」

それは家臣に頭を下げてはならない王族として、精一杯の謝罪だった。

「この件が片づけば、再婚約を結ぶ王命を出すよう、陛下に提言しよう」

「……そこまで……誠に、ありがとうございます。殿下」

ソフォイルは膝をつき、レオに騎士の最敬礼で感謝を示した。

それを見たエイデスは、ソファに座ったまま不遜な態度で足を組み、背もたれに頬杖をついたまま口の端を上げる。

「さて。手駒が増えたところで、そろそろ策を実行に移そう。クラーテスと話をして、どうだった? ウェルミィ」

「魅了はおそらく解呪出来るだろう、とお父様は言っていたわ。精霊は女神の友だから、望めば聞き入れてくれるそうよ。元々、聖女の本意ではない誓約ならむしろ解くのは容易いと」

ターゲットは、三人。

テレサロに無理に交際を迫ったという、セイファルト・アウルギム伯爵令息。

宰相の息子であり、才気に溢れているという噂の、シゾルダ・ラングレー公爵令息。

広大な穀物地帯を管理し、国の穀物庫とも言われる家の後継者、ズミアーノ・オルブラン侯爵令息。

彼らを操るよう唆したツルギスは、騎士団長のさらに上、軍団長を務めるデルトラーテ侯爵の息子。

ここに、ウェルミィが魅了を未然に防いだレオと、臣籍降下せず王弟として執務に当たるタイグリム様の弱味を握っていることまで加われば。

ーーー次世代に王国の中枢を担う者が、全員、テレサロを通したツルギスの傀儡となる。

「状況が見えたな。……どう見ても大逆だ。謀ったのは、デルトラーテ侯爵に見えるが」

「予断は禁物、でしょう?」

まだ、操られる対象になった令息たちの話を聞けていない。

特に、違和感の元凶であるセイファルトの話が。

「最初に解呪するのは、やはりセイファルトだな。……それぞれ、ダリステア嬢の動きに気をつけておけ。元は王太子殿下の婚約者候補で、今はこちらの策略で立場が悪い。今回の件に関係はないと思うが、何か不満を抱いて行動を起こす可能性がある」

アバッカム家は、元は前王家唯一の残された血筋だ。

次の公爵であるマレフィデント特務卿は、エイデスによると信頼に値する人物らしいけれど、未だ反抗を疑う声は根強いという。

「下手に動かれると、事が露見した際に本命に気取られて、罪をなすりつけられる可能性があるからな」

「先にこちらから接触して、どうにか事情を説明出来ないかしら? 殿下」

「彼女とは幼馴染みだが、呼び出すとなると少し騒ぎになるな……今は特に、ウェルミィやイオーラの件もあるし」

顎に指を添えて思案したウェルミィは、少々汚い手を使うことにした。

「私が彼女のドレスに うっかり(・・・・) ワインを掛けましょうか。それをレオが休憩室に案内すれば、穏便に済むのではなくて?」

「ウェルミィの悪名がまた上がるぞ……」

「あら、どうせ全部ひっくり返すんだもの。問題ないでしょう?」

ウェルミィがニッコリ笑うと、レオとソフォイルがなんとも言えない顔をして、エイデスがおかしそうにククッと喉を鳴らした。