軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

途絶えた純血。【前編】

ーーーウェルミィ達が王妃宮に向かった後。

エイデスは面会手続きをした後、ズミアーノとセフィラのオルブラン兄弟と共に、先に朱瞳の男の元へと向かっていた。

ウェルミィ達もじきに来るだろうが、個人的に、先に一つ尋ねておきたいことがあったのである。

【黒晶石】の牢の面会窓から顔を見せると、両腕を拘束されて閉じ込められている男は、特に怯えた様子もなく座っていた。

彼は窓の向こうにいるこちらに目を向け、同行している二人の顔まで見ると、肩を竦める。

「何だ、王妃殿下は来ないのか」

マイラーの発言に、エイデスは目を細めた。

「問うのはこちらだ。お前は何故、グリンデル伯爵家の事件の真相を知っていた?」

ルトリアノを捕縛した後、エイデスは彼が語った『知り合いの話』を極秘資料に指定させていた。

マイラーと接触したズミアーノは知っていた可能性があるので道中尋ねてみたが、『魂を縛る契約魔術の解除方法』以外は尋ねられていないらしい。

この段で嘘をつく必要はないので、事実だろう。

だとすると、どこからその情報を得てヘーゼルに教えたのか、という点が疑問だったのである。

「ルトリアノ本人から聞いたんだよ」

「あり得ないな」

マイラーが皮肉そうな笑みを浮かべてそう答えるのを、エイデスは即座に否定した。

「他の誰から漏れたとしても、あの男だけは、死んでも口を割らない」

「死刑になった犯罪者に対して、随分と厚い信頼だ。友情に惚れるね」

こちらの神経を逆撫でしようとしているのだろう。

この状況でそうすることに何の得があるのか知らないが、無駄である。

「時間がないからな。無駄なやり取りをするつもりはない……魂を縛る契約魔術の解除方法を教えてやる。代わりにこちらの聞きたいことに答えて貰おう」

すると、マイラーが片眉を上げた。

「ほぉ? アルガ・オルミラージュの不世出の才を、息子が超えたってことか?」

ーーーそんなことまで知っているのか。

エイデスが義父イングレイの息子ではなく、その弟であるアルガの息子だと知る者も数少ない。

少なくとも、身内以外で知っている者はほぼ皆無と言っていい。

「ズミアーノ」

「全部オレを疑うのはよくないと思うよ〜? そもそも、ミィの不利益になることはしないようにしてるしね〜」

いつも通りにヘラヘラと答えたズミアーノに、セフィラが微笑みながらたおやかに口元に手を当てる。

「ふふ。兄上に、 義姉上(ニニーナ) や『面白いこと』より優先するものがあるなんて、何度聞いてもおかしな話ですわね」

「ミィ自身が面白いからね〜」

余計な話をしている二人から、エイデスは再びマイラーに意識を戻した。

「方法に関して教えるのは、最後だ。取引に応じるか?」

「情報だけ吐かされて殺されるかもしれない状態でか? 冗談だろう。それこそ、契約魔術でも使って貰わないとな」

ーーーなるほど、間抜けではない。

エイデスはそう判断し、手札を一枚切ることにした。

「では、もう一つ条件をくれてやろう。マイラー・マクスウェル」

「……」

素性を知られているとは思わなかったのか、マイラーの表情が少し硬くなった。

が、エイデスは気にせず言葉を重ねる。

「 行方不明になった(・・・・・・・・) 従姉妹を助けてやる(・・・・・・・・・) 。その上で、我々の目的に協力するのであれば、正式に司法取引の手続きを踏んでやろう」

相手の反応から、エイデスは自分の推測が間違っていなかったことを悟った。

ズミアーノが、わざわざマイラーの話と共に『従姉妹が行方不明になった』という情報を口にしたのは、そう使えという意図だったのだろう。

この男が情報だけ与えて自ら手を下さず状況が動くことを楽しむのは、今に始まったことではない。

「ヘーゼルの誘拐や、【賢者の石】を求める理由も、そこに繋がっているんだろう?」

誘拐した後の行動から、エイデスはマイラーの動機や目的を考えていた。

最初のヘーゼルの誘拐。

貴重な編者の一族を手にしたにも拘らず、大した情報も取らずに放置した。

殺すわけでも国外に連れ去るわけでもなく、だ。

ルトリアノやヘーゼル達を含むグリンデル伯爵家の情報を得た上で、王城でオルミラージュ侯爵家の侍女を誘拐するという危険を敢えて犯したにしては、見返りが少な過ぎる。

放置したのも表向き『逃亡のための囮』と見せかけているが、様々な状況を加味すると違う一面が見えた。

「なるべく人を傷つけない立ち回りをし、必要なら自分から泥を被りに行く……そういう人間を、私はよく知っている」

悪意ではなく善意で動き、しかしどれだけ他人から汚く愚かに見えようと手段は選ばない、そんな妻の顔を思い浮かべていた。

そもそもリロウド……〝精霊の愛し子〟に連なる朱瞳の一族は、情が深いのである。

イザベラと添い遂げる為に平民になったクラーテスと、イオーラを助ける為に動いたウェルミィを知っているからこそ、同じ朱瞳の持ち主である男もそうなのではないか、と考えた。

逃亡の際、ヘーゼルを放置したのではなく、元々すぐに帰すつもりだったのではないかと。

必要だから誘拐したのだとしても、必要以上の不幸を産むつもりはなかったのではないかと。

「だからこそ解せなかった。何故お前が、誰も得をしないルトリアノの秘密を暴いたのか。そして、その情報をどこから得て、使おうと思ったのか」

マイラーは深く息を吐くと、呆れたように首を横に振る。

「本当に、オルミラージュを舐めていたつもりはなかったんだがな……実際目の前にすると、探究者の氏族は不気味過ぎるぜ。あのクソみたいに迷惑な契約魔術を発明したアルガといい、お前らは一体何が見えてんだ?」

そう問われて、エイデスは微かに笑みを浮かべた。

「何も見えてはいない。口にしたのは、ただの推測とカマ掛けだ」

「あ?」

「 全てを見透かして(・・・・・・・・) いるように見えた(・・・・・・・・) のなら、お前自身が並外れた力を持っているわけではなさそうだな」

エイデスはスッと自分の目元を撫でるように手を動かして、予め瞳に掛けておいた魔術を解いた。

すると、マイラーが顔を歪める。

「チッ……やられたぜ。隠蔽魔術か」

「私の妻が誰だと思っている? その瞳の内面を読み取る力は、対処法を知っている者や並外れた魔力を備えた者には通じにくい」

エイデスは笑みを消すと、改めて問いかけた。

「お前の目的は分かった。独力で様々なことを調べ上げた手腕は我々の目的にとって有用であり、またお前の目的も我々の助力を必要としている、と思うが。取引に応じるか?」

「……契約魔術の解除と、ラーシュの身柄確保。本当にやってくれるんだな?」

「洗いざらい話し、こちらの目的に協力するのならな」

マイラーは覚悟を決めたように、一つ頷いた。