軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決着?

ーーー 復讐(リベンジ) ?

何の話をしているのか、とウェルミィは訝しんだ。

オルミラージュ本邸で彼女を追い詰めたのはウェルミィであり、後から聞いた話によれば、それすらもエサノヴァにとっては織り込み済みの件である筈。

復讐、というのなら、エイデスは彼女に『勝った』ことがある筈だ。

彼がそれを知らないのはおかしい。

そうした疑問はあるけれど。

ーーーそれは、後でゆっくり聞けば良いわ。

ウェルミィは、もうエサノヴァを逃す気はない。

前に進み出るのにエイデスを連れて来たのは、これをやった後、彼ならエサノヴァに対応出来ると思ったからである。

エイデスは、何故かやっぱり彼女の魔術を見抜けていなかったようなので、おそらく他の誰にも見えていなかった筈だ。

ウェルミィだけに、何かがあった……もしくは何らかの理由で、エサノヴァが隠さなかったのだろう。

エイデスはエサノヴァの正体を暴いた後に少々驚いてはいたものの、既に落ち着いている。

不意打ちを食らったヒルデの件と違って、この状況であれば彼女に逃げられる可能性は低い筈だ。

「もう抵抗するつもりはない、っていうことかしら? それともまだ、逃げられるとでも?」

「試してみれば宜しいのでは?」

そんなやり取りの緊迫感を引き裂くように、ブラード・ハイドラ公爵令息が声を上げる。

「衛兵! 捕らえろ!!」

瞬間、場の空気が一転した。

大公国は、多少他国に経済面と領土の大きさで他国には劣るが、国際条約が結ばれる程の血統魔術を複数管理する国である。

円形闘技場のように外に向かって迫り上がった全方位にいる兵士たちの内、数人が〝風渡り〟の魔術を行使して招待客を飛び越え、四方の影から〝土〟の兵士が飛び出してくる。

〝変貌〟の魔術の一形態なのか、絨毯に化けていた〝水〟の兵士までも姿を見せ、ウェルミィは知らないがおそらく、駆けてくる兵士の中には〝火〟の血統魔術を使う者もいるのだろう。

それまで見えていたよりも遥かに多い人数の衛兵が飛び出してきた瞬間……エサノヴァは、 ウェルミィに(・・・・・・) 向かって(・・・・) 地面を蹴った。

人質にするつもりなのか、と思い、身構えるのと同時に、エイデスがウェルミィを庇うように足を踏み出しながら、右手の指を鳴らす。

「〝縛れ〟!」

「無駄よ」

エイデスとエサノヴァの声が重なり……魔術は、発動しなかった。

「「……!?」」

「ふふ、さようなら魔導卿。今回は私の勝ちよ。……また後でね」

スッと、エイデスの胸元に肉薄したエサノヴァが手を伸ばす。

そして〝 希望の朱魔珠(ウィルヴァーミリオン) 〟に触れた瞬間……エイデスの魔術に対しては発動しなかったそれが、輝いた。

フッとエサノヴァの姿が掻き消え、彼女を抱き込むように捉えようとエイデスが伸ばした右手が空を切る。

その姿を見失った衛兵たちも、ピタリと動きを止めた。

「どこに消えたの!?」

「……不明だ。やはり 魔術の気配がない(・・・・・・・・) 」

ウェルミィは周囲に目線を走らせるが、問いに答えたエイデスも厳しい声音で応える。

「どういう事なの……!?」

衛兵たちが動きを止めたのも、エサノヴァの魔術の気配が捉えられなかったからなのだろう。

もし何らかの血統魔術を行使したのなら、彼らにも、エイデスにも分かる筈なのに。

「あれは、何者だ……?」

エイデスは、珍しく苦虫を噛み潰したように顔をしかめていた。

ウェルミィはどうにかならないかと思考を巡らせる。

ーーーピエトロの時の痕跡は、痕跡は追えた……。

「ズミアーノ! 追える!?」

「ダメだねー。今回は何もないよー」

壇上に向かって怒鳴ると、彼も珍しく真剣な顔をして、エサノヴァが消えた辺りを凝視していた。

結局、取り逃した。

その事実に、ウェルミィは歯噛みする。

招待客を見回しても、王族まで含めて、熟練の魔導士である筈の人々も、誰も痕跡を追えていないようだ。

以前は、わざと残していたのだろうか。

ズミアーノがあの後、ピエトロの私室から続いていた痕跡を追うと、一度大広間に寄ってから、さらに大公宮を抜けて先へと続いていたという。

大公国側の出した捜索隊は追えていなかったという話だったので、ウェルミィだけにエサノヴァの正体が分かったように『見せる相手』すら選べるのかもしれない。

かも、かも、かも、だ。

確かなことは何も分からない状況で、各国代表の安全確保や捜索開始の怒号が飛び交う中。

ウェルミィは、小さくエイデスに囁く。

「……前に、あの子が逃げ込んだ場所に向かいましょう」

「居ると思うか?」

「あの子の言葉、聞いたでしょう?」

エサノヴァは言ったのだ。

ーーー『また後でね』。

「居るわ、絶対」

「大公国側には、その事実を伝えない……それで良いんだな」

「ええ」

きっと、ウェルミィ達が情報を漏らせば、エサノヴァは逃げるだろう。

待っている、というのなら、多少危険だとしても、この場ではする気がなかった種明かしを聞くチャンスでもある。

「大公国の問題は、私たちの問題じゃないわ。でも、ピエトロとエサノヴァの件は、もう私たちの問題よ」

エイデスの仇を殺したこと。

ヒルデを傷つけたこと。

それらは、絶対に償わせる。

この状況で逃げ果せる相手を大公国に任せても、きっともうどうにもならない。

それならまだ、直接接触する機会がある方に賭けるのだ。

「それに『語り部』とあの子の父親を、私たちはここに来て、まだ一度も見ていないでしょう」

エサノヴァ以外にもこの場に姿を見せていない『演出家』側の人間。

きっと、その二人も向かった先に同席している筈だ。

すると、そこで。

「なぁ」

衛兵達が駆け回る中で、どこか粗野な言葉遣いで投げ掛けられた声に目を向けると。

そこにいたのは、ウェルミィに『忠告』を与えた〝風〟の大公ムゥラン・ムゥラン。

ルジュ、という偽名を名乗ったその男が目を向けている先は、ブラードだった。

「どうせ、投票権があるのは俺らだけだよねぇ。こんな状況だが、もう決めちまおうぜ」

「……だが、ムゥラン公。サンセマの代表者が」

「必要ないねぇ。〝風〟は降りる……そうなると、この状況で、投票先はもう一つしかないからねぇ。違うか?」

ムゥランの言葉に、ブラードが唇を引き結んだ。

この国で、国を纏める存在は王族ではない。

あくまでも対等とされる『四公家の共同運営』であり、〝水〟と〝土〟はその中でスキャンダルを起こしたのだ。

「俺ぁ、〝火〟に投じるぜ。ーーーバーンズ、お前さんにな」

皮肉げな笑みを浮かべる彼に、最初のパーティーで出会った自信に満ちた態度のバーンズ・ロキシアがニヤッと笑って応える。

「良いのか? ムゥラン兄ぃ。こっちとしては嬉しいが」

「順当だよねぇ?」

と、ムゥランが軽く手を挙げて答えると。

同じく〝火〟から立っているスージャ・クジャ公爵令嬢は、異議を唱えかけた自分の親族を手で制した。

その間も、ムゥランはブラードから目を離さない。

「なぁ、ブラード。……後は、お前さんの答えだけだよ」

二人の間に、どんな事情があるのかは知らない。

けれど、ムゥランよりも年上でありながら未だに爵位を継いでいないブラード・ハイドラ公爵令息は……目を閉じて、大きく息を吐き。

疲れたように、答えを口にした。

「〝火〟に……バーンズ・ロキシア公爵令息に投じる」

と。