軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〝無貌の殺人鬼〟

ーーーそうして、ウェルミィはこの場に立っている。

エサノヴァを追い詰め、その罪を償わせる為に。

ウェルミィは、目の前の彼女を睨みつける。

「私、二つの事件を起こした犯人の罪を許すつもりは、一切ございませんのよ」

するとエサノヴァも、不敵に笑いながら首を傾げた。

「では、どうなさいます?」

問われて、扇の先を彼女に突きつけたまま、ウェルミィはカッと目を見開く。

「当然……こうするのよ!」

一気に放出した魔力によって、ブワッとドレスの裾が浮き上がり……胸元の〝 太古の紫魔晶(ロストヴァイオレット) 〟が輝いた。

魔宝玉は、呪玉の一種。

その美しさと希少価値から高価な装飾品であると同時に、魔力の媒介となる宝石なのである。

ウェルミィが発動した魔術はーーー『解呪』。

自分が最も得意とし、そしてこの断罪劇の場において、最も効果的な手法だった。

『大公選定の儀』は、高位貴族の夜会同様に魔術の使用が禁じられている場だけれど……世の中には常に、例外が存在する。

王侯貴族に(・・・・・) 、 危険が及ぶ(・・・・・) 可能性がある場合(・・・・・・・・) 。

特例として、魔術の行使が許されるのだ。

ウェルミィが解呪を発動したことで場に衝撃が走ったが……その結果起こったことは、さらにその場を混乱の渦に叩き落とした。

「ねぇ。ピエトロ・ハイドラ大公閣下を殺したのは、〝朱色の瞳の女〟だったわよね?」

「……」

サンセマ公爵に化けていた魔術を剥がされて、姿を見せたエサノヴァは……その 朱色の瞳(・・・・) を煌めかせて、笑みを深める。

「このような場で魔術を行使なさるなんて、野蛮ですこと」

「王侯貴族が集まる場で殺人を行う方のほうが、余程野蛮でしてよ」

凍りついたような空気の中、ウェルミィは告げる。

「犯人は貴女でしょう? ーーー〝 無貌の殺人鬼(ジェーン・ザ・リッパー) 〟エサノヴァ・デスターム」

※※※

エイデスにとって、この状況は完全に想定外だった。

この場でこちら側が行う予定だったのは、あくまでもピエトロの罪を暴くことと、彼の殺害に〝土〟の一族の関与があったのを証明することだ。

その上で、ヒルデントライ・イーサに傷害を負わせた犯人を捕らえて法の裁きを受けさせる……筈だった。

それによって、神託を解釈した結果、押し上げる予定だった〝土〟ではなく。

〝火〟を大公位につけることを、レオや辺境伯と同意した上でこの場に臨んだのである。

〝風〟が降りるつもりだという話も、辺境伯より聞き及んでいた。

ブラードが大公殺害の件を話すのに合わせて、大公の過去の罪とヒルデントライを狙った犯人がどこの所属かだけを明かせば……〝水〟と〝土〟の不利を開示すれば、それで終わりだった筈なのだ。

母の件や、義母や義姉の件は、自分の中で呑み下せてはいない。

顔も知らぬ母がウェルミィを一時期でも育てていたことも、探し続けた犯人、ピエトロに法の裁きを受けさせることが出来なかったことも。

それらはウェルミィとは話し合ったが、一度置いておいた。

ヒルデントライが刺されたことで、エイデスにとって最優先すべきは『大公選定の儀』を滞りなく終わらせることと、ウェルミィや仲間達の安全を守ることになったからだ。

だが話を始める前に、ブラードが〝朱色の瞳の女〟の情報を出してきたことで流れが変わった。

それでウェルミィが矢面に立つことになったのも予定外ではあったが、ウェルミィであれば主導を任せても問題はなかった為、そのまま話を続けさせた。

そうして、意図は不明だったが、前に出たがった彼女を連れて中央に立ち……。

ーーーまさか、サンセマに化けていたとはな。何故察知出来なかった? それに、何故 使える(・・・) ?

彼女が使っていたのは、おそらく〝変貌〟の魔術である。

しかしエサノヴァはオルミラージュ本邸から〝影渡り〟を使って脱走したのだ。

エサノヴァが〝水〟の血統なのか。

別に〝土〟の血統魔術の使い手がいるのか。

もしくは、その逆か。

あるいは……彼女は、両方の血を継いでいるのか。

だが、エサノヴァ自身はアロンナの娘である。

そうなると。

ーーー彼女は、 エサノヴァ(・・・・・) ですらない(・・・・・) のか?

ウェルミィの解呪を受けた以上、その姿が偽りであることはない。

となると、ヌーアやアロンナすら知らない内に、赤子の段階で差し替えられていた可能性すらあった。

予想外の展開、あまりにも唐突に現れた彼女。

謎だらけの〝 無貌の殺人鬼(ジェーン・ザ・リッパー) 〟という存在に思索を巡らせながらも、エイデスはいつでも魔術を発動出来る体勢を保ち続ける。

ーーー動きを見せれば、捕らえる。

エイデス自身も、ウェルミィ同様に魔宝玉を……〝 希望の朱魔珠(ウィルヴァーミリオン) 〟を身に付けているのだ。

「本物のサンセマ公爵はどうしたの?」

「あら、心配ならさずとも、生きてはいますわよ」

ウェルミィの問いかけに、ふふ、と笑ったエサノヴァは、周りを見回した。

この場には、エイデス以外にも強力な魔術の使い手が多数いる。

その内、何人が魔術を発動出来るのかは不明だが……少なくとも周囲を守る兵士たちは、ブラードが命じれば動くだろう。

が、彼女を捕らえられるとは限らない。

オルミラージュ本邸からも、ピエトロを殺してからも、ヒルデントライを刺してからも、エサノヴァは逃げおおせているのだ。

流石にこの最重要な式典に際して、影にツルギスやズミアーノを潜ませておくことは出来なかった為、彼らは後ろにいる。

即応して動けるのは、エイデスしかいなかった。

隙を見せた瞬間に拘束する。

その機を伺っていると、エサノヴァは不意にこちらに視線を向けた。

「ご心配なさらなくても何もしませんわ。だって私の狙いは、既に達成されていますもの」

彼女は、手を上げて人差し指を唇に当てる。

「ねぇ、魔導卿。ーーーこれは、 復讐(リベンジ) でもありますの。一度私に土をつけた貴方への、ね?」