軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74.

「わかったわ。但しお父様が駄目と言ったら駄目よ」

私がそう言うと二人は目に見えて喜んだ。

この時点で公爵家に犬が来るのが確定したかのように。

そして仲良く犬の名前は何が良いか言い合いながら部屋から去っていった。

二人で話し合いでもして決めるのだろう。

レオとロンはケビンが犬を飼うことを反対しないと思っている。

(その根拠が父であるケビンが自分たちや屋敷に無関心だからというのが切ないけれど)

そうやって割り切るのも彼らなりの処世術で防衛本能なのかもしれない。

ケビンが自分によく似た我が子を可愛がり慈しむ姿は私でさえ想像出来なかった。

原作の中盤以降ならエリカを中心にしてケビンとロンは何とか繋がっていたけれど。

(でもエリカについて以外で話をしているシーンは無かったわね……)

貴族とはいえ親子の会話とはとても思えない。

そしてこの世界には二人に愛され仲を取り持とうとするエリカは存在しなかった。

代わりにレオとロンが兄弟として強固な絆を築きつつある。

ならこちらの関係を後押ししていこうと私は思った。

(ケビンは長生きしない可能性もあるし)

我ながら酷薄なことを考える。

エリカが存在しない場合、レオは父親以上に残虐な公爵になると作者がイラストに描いていた。

その予想図では成長したレオは二十代前半くらいの美青年だったのだ。

ただ今の無邪気で快活な様子のレオがあの絵のように魔王公爵になるとは思えない。

だからケビンが早くに亡くなる予想も大分怪しくはなってきている。

(こうやって原作設定に振り回されること自体が徒労なのかもしれないわね)

私は苦笑いを浮かべた。

そしてまだ残っていたカーヴェルに向き合う。

「犬の世話係に適任な使用人はいるかしら」

「父と相談し該当人物をリストアップ致します」

「お願いね」

「奥様、万が一を考え鯉の棲む池に囲いなどを備え付ける必要もあるかと」

「ああ……そうね。王家から賜った鯉ですものね」

万が一犬が脱走して食い荒らしでもしたら流石のケビンも無関心ではいられないだろう。

「囲い自体は先に設置して良いでしょう。あって困るものではないのだから」

「かしこまりました」

レオが家出未遂をした時のことを思い出す。

あの時レオはうっかり池に落ちそうになった。囲いがあれば防げただろう。

ケビンにはそれなりに長い手紙を書かなければいけない。

今日の予定を組み立てながら家令の秀麗な顔に目をやる。

先程彼にしては珍しく感情的だった。

犬を友達と呼ぶ子供たちにどこか悲し気な表情を浮かべていた。

「……貴方のところで飼っていた犬はどんな性格だったの?」

言い方を考えあぐねて遠回りな問いかけになる。カーヴェルは眼鏡の奥の目を僅かに見開いた後で答えた。

「子犬の頃は腕白でした。大きくなってもやんちゃで……ただ甥が生まれてから急に大人になった気がします」

「そう……賢くて優しい犬だったのね」

「……はい、子供にはとても優しい犬でした。だから甥は今でも悲しんでいます」

そう呟くカーヴェルも十分に悲しんでいるように私には思えた。

いつかレオやロンも彼と同じような表情をするのだろうか。

そう思うと少しだけ犬を飼うのに反対したくなった。

「大切な存在がいなくなるのは悲しいわね……」

「……はい」

「でも二人なら悲しみを分け合える筈だわ」

あの二人を信じましょう。私は微笑む。

そして前世の私が亡くなった後の息子たちについて考えた。

彼らはひとりじゃない。兄弟も配偶者もいる。

きっと悲しみを乗り越えてくれるだろう。そう信じたい。

(偶には思い出して欲しいけれど図々しいかしら)

そんなことを考えつつカーヴェルに別の仕事に戻るよう指示を出そうとした。

けれど私が口を開く前に誰かの足音が聞こえる。

それは新しく雇った若い家令補佐だった。

「奥様、御実家から使者がいらっしゃいました」

「実家からって……オルソン伯爵家からってこと?」

「はい、表に馬車を待たせてあると」

私は眉を吊り上げる。

それはつまりさっさと馬車に乗って伯爵家に来いということだ。

少し前までの物悲しくも温かな気持ちが嘘のように私の心は冷えて行った。