作品タイトル不明
72.
「あの方たちは内密ということで遊園地にいらっしゃったのですよね?」
「ええ、そうね」
確認ベースのカーヴェルの問いかけに私は頷く。
「ならば奥様から関わりを持とうとするのは、望んでいないかもしれません」
「……ああ、それが切っ掛けで他の王族にお忍びがばれるかもしれないってこと?」
「はい、王家の方々は皆詮索を嫌われるという話は以前聞いたことがあります」
「確かに私が突然王妃に贈り物などしても不審極まりないわね」
確かにケビンと第二王子は仲が良い。
他の王族とも会話ぐらいしたことはあるだろう。
でも私は別だ。王妃の顔すら知らなかった。
そんな人間が突然王妃に対し贈り物をしようとしたら題目が必要だろう。
(王妃の手元に荷物が届くまでに何度もチェックが行われる筈だしね)
私と王妃は公式には全く面識が無い。
第二王子と仲良くしているケビンの妻ですで王妃に贈り物をするのも変だ。
「じゃあ今回は向こうの立場を慮って行動しなかったということにしましょう」
私はカーヴェルに笑顔で告げた。
実はこの結論は既に出していたりする。
しかし相手が王妃なだけに判断に迷いが出ていたのだ。
それでカーヴェルが昔王城に勤めていたことを思い出し尋ねたのである。
実際有用な情報は聞けた。
(しかし詮索を嫌う、ね)
それが事実かは知らないがあまり近づきたくないとは思う。
私だって詮索されるのは嫌いだ。
しかし一介の城勤めだったカーヴェルにまでそう思わせるのだから程度が違いそうだ。
自分より圧倒的に身分が高くてどこに逆鱗が埋まっているかわからない相手など関わりたくない。
(……よく考えたらケビンがまさにそれだったわ)
彼には王妃たちの件について報告した方が良いのだろうか。
ただ手紙にすれば文章として王妃が遊園地に遊びに来たことが残ってしまう。
しかも何を考えているかわからない第二王子と仲が良いケビンの手元にだ。
第二王子クリスは王女と王妃をお忍びで遊園地に誘い、それを放置してさっさと帰るという最悪な行動をしている。
それに何らかの計算があったのなら、私が関わる事さえ意図していたのではと邪推してしまうのだ。
私がクリスを過剰に嫌悪して同時に警戒しているのは理解している。
けれど足を掬われそうな予感がして嫌だった。
(こういう時の勘は無視しない方が良いわね)
勘が全て的中するなんて有り得ないが、それでも前世で歳を重ねてからの勘は中々の的中率だった。
今の私は若い娘だが前世の一部を持ち越しているようなものなのだからある程度尊重しても良いだろう。
「奥様、差し出がましいことを申し上げても宜しいでしょうか」
「ええ、構わないわよ」
カーヴェルに話しかけられ、私は意識を目の前の家令に戻した。
「もしかしたらですが、向こう側から奥様に接触を試みることはあるかもしれません」
「それは……ある、かもね」
王妃は孤独で悩み事も多そうだった。初対面の私が軽く言葉を交わしただけでも張り詰めているのがわかった。
その上で彼女は私の言葉に少し救われたような顔をしていた。
孤独な人間は反面心許した相手へ執着する場合が多い。
王妃側から私に再度関わりを持とうとするのは有り得そうだった。
「ですので、その時にお渡しする為の贈り物を用意されてはどうかと思うのです」
「……成程、それなら私の方も彼女を忘れていなかったと言い訳が出来るわね」
「はい」
「その上で相手の事情を考えて行動しなかったと……それで行きましょう」
私は対王妃への方針を決定する。
それだけで肩の荷が一つ下りた気分だ。
するとタイミングを見計らったように扉が叩かれる。
「どなた?」
「俺だ!」
元気のいい返事と共にレオが入って来た。
まだ入室許可は出していないがまあいいだろう。
「ロンと相談したけど、俺たち犬が欲しい!」
「……は?」
「昨日馬車の中で言っただろ、花火が駄目だった代わりに何か願いを叶えてくれるって」
「それは、確かに言ったけれど……」
「だから子犬が飼いたい、大きくて強くなる奴だぞ!」
そう力説するレオの後ろで彼の侍女が申し訳なさそうな顔をしている。
これは言っても聞かなかったという顔だ。
前世の知識でそれがわかる。私も多分したことがある。
「犬、ねえ……」
「ロンも飼いたいって言ってたぞ!」
弟と和解した途端「兄弟二人からのお願い」を使いだした現金なレオに、私はカーヴェルと顔を見合わせた。