作品タイトル不明
70.
確かに人手は欲しかった。
だがまず確認することがある。
「あの高貴なお二人はどちらへ?」
「もう既にここから発っております。その際に護衛を半分貴方にお貸しするようにと」
つまり王女と王妃が被害に遭う事は無い。
そのことにホッとする。あの二人に何か起きたら今以上にややこしいことになる。
「なら、ここにいる方々から希望者を出口まで護衛して頂けませんか」
「かしこまりました……その滑稽な顔をした道化はそちらで処理されるのですか?」
てきぱきと護衛に指示した後で彼女が言う。
道化と言われてカーヴェルが取り押さえているローズを見た。
確かに道化にしか見えない。
「遊園地で暴れたのだから遊園地の警備員に引き渡します」
私がそう王妃付き侍女に答えるとローズが見苦しく喚いた。
「ちょっと、私が捕まったら私の妹であるあんたも犯罪者の妹になるのよ!」
「私はもうアベニウスの家の者だもの」
そうにっこりと笑って答える。
何故かローズはショックを受けたような顔をした。
「私が生まれた時点でオルソン伯爵は既に罪人よ、罪人が当主の家にちゃちな罪人が一人増えるだけ」
「……ッ、オルソン伯爵家の家名が汚れたならあんただって無事じゃない。アベニウス公爵に捨てられるわよ!」
強張る笑みを浮かべて異母姉が言う。私はわざとらしく首を傾げて見せた。
「そんな心配なさらなくてもオルソン伯爵家の名は既に汚れ済みよ。男遊びが大好きな娘たちしかいないのだから」
「な……」
「自由に外に出ることも出来無い私の名前を騙って男遊びをしていた誰かさんのおかげでね」
「……知って、いたの?」
目を見開きながらローズが言う。
何故知らないと思っていたのだ。
男好きから生まれた娘だからお前も男好きに違いないと散々罵っていた癖に。
ただ前世の記憶が戻る前のエリカはそんな悪評がついているなんて知らなかった。
でも初夜の時にケビンにのしかかられ、暴言を吐かれて知ったのだ。
思い出してむかむかとしてきた。
「知らないとでも? でも化粧品どころかまともな服さえ持っていない私がどうやって男遊びなんて出来るのかしら」
「そんなの……その顔なら幾らでも」
「ああでも今の貴方みたいなメイクならしない方がマシね」
そう厚塗りされたローズの顔を見つめ言う。
「鏡を見せて貰うと良いわ。その上で誰がメイクをしたのか、その滑稽な服を勧めたのかを思い出して何もかも白状することね」
それが唯一罪を軽くすることよ。
私はローズから目を話し、様子を見守っていた遊園地の警備員を振り返る。
「この女は突然現れて私の家族に絡んで暴言を吐いたり暴れていた不審者です」
「は……ですが先程、姉と」
「不審者です。連行して頂けますね?」
「はっ、はい!」
持ち帰ってくれないかなという態度が隠せない警備員に私がくれぐれもお願いする。
下手に引き取ったなら諸々の対処や損害などをこちらにも被せてきそうだ。こういうのはきっぱり関係を切っているとアピールしなければいけない。
「化粧が厚すぎて断言できませんが、オルソン伯爵家長女のローズの筈です。連絡は必ずオルソン伯爵家にお願いしますね」
「かっ、かしこまりました!」
警備員は承諾すると二人掛かりでローズを連行していった。
さりげなく身だしなみを整えているカーヴェルに落ちた眼鏡を拾って渡す。
「奥様、有難うございます」
礼を言いカーヴェルは眼鏡を身に着ける。幸いなことに歪みも破損もしていないようだ。
以前彼の父であるホルガーに贈られたと話していた。本人は無意識だが嬉しそうに。
(壊れていなくて良かった)
そう安堵しながら今度は身を寄せ合う子供たちに視線を移す。
「……迷惑をかけてごめんなさいね」
そう謝ると気の強そうな顔に不安げな表情を宿していたレオが口を開いた。
「なんでお前が謝るんだよ」
「私の姉が貴方たちを怖がらせて折角の一日を台無しにしたから」
「あんなの、お前の姉じゃないだろ! 一方的に酷いことをいって、迷惑をかける奴なんて……」
そう言いながらレオはどんどん苦しそうな顔になっていく。心当たりはある。
「俺は、絶対ああならない……!」
誓うように願うようにレオが吐き出す。
過去の自分の行動を忘れていないし忘れられないからこその言葉だろう。
でもそう思えるなら大丈夫だ。
私がレオに対し口にする前に幼い声が彼に話しかけた。
「大丈夫だよ、兄様は」
「ロン……」
「そうならないし、そうなりそうになっても僕も母様も叱るから、大丈夫だよ」
「……そうだな」
泣き笑いの顔でレオはロンを抱きしめる。
散々醜いものを見て疲れた目に染み入る程綺麗で心温まる光景だった。