作品タイトル不明
第218話 セレスの甘える
夕食を終えて夜、屋敷の自室にて。
カズヤさんと私はそれぞれ読書をしていた。
本の隙間からカズヤさんを覗く。
真剣なまなざしが本を射る。
聞こえてくるのは本のページをめくる音と微かな呼吸。
それがとても心地よい。
「……」
私の脳内に今日の昼間の会話が反芻する。
『あんまり奥ゆかしすぎるのも良くないよ?』
私としては、そんなつもりはない。
これが当然と教育されたのもあるが、私の性格的にこうなってしまうのだ。
現代日本人的感覚からすれば奥ゆかしいになるのだと思う。
しかし、いざ甘えるというのも中々難しい。
個人的には十分甘えていると思うのだ。髪を梳いてもらったり、抱き合ったり。回数こそ多くはないが、それなりに甘えるという行為は行っている。
後他にどうすればよいのだろうか。
葛西さんに聞いておけばよかったと若干後悔する。
「セレス?」
「……え、はい?」
「どうしたんだ? さっきからこっち見てるけど」
「ええっと、その……なんでもありません」
そういって本で顔を隠すと、カズヤさんが両手を広げて言う。
「おいで」
「……ずるいです」
私は吸い込まれるようにカズヤさんの胸に収まる。
お風呂に入った後なので石鹸の匂いがする。でも、カズヤさんの匂いだ。安心する。
「今日はちょっと甘えただな」
「何も言ってないのですけれど」
「分かるよ。何年一緒にいると思ってる」
優しい声音と手つき、撫でられる頭が心地良い。
「実は今日葛西さんに言われたことがありまして」
私は言葉のままにカズヤさんに伝える。
「なるほどな。そんなことがあったのか」
「でも、甘えるってよくわからなくて……」
「そうだなぁ、自分のしたいことを欲望のままにすればいいんじゃないか?」
「な、中々難しいことを言うのですね」
「セレスのしたいことはなんだ?」
そう言われてしばらく思案してみる。
「……ありました」
「お、なんだ?」
カズヤさんの首元に顔を埋めながら言う。
「もっと貴方と共にありたい、そう願ってしまうのです」
「……もちろん。俺もそのつもりだよ」
どちらともなく動き、流れるようにキスをする。
その一瞬にも満たない時間がとても愛おしい。
「カズヤさん、愛しています」
「俺もだよ、セレス。愛してる」
部屋の明かりは消え、明日を待つ。
でも、まだちょっとだけ今日という日が終わらないでほしい。
そんなわがままな願いを抱いてしまう夜だった。