作品タイトル不明
第212話 歯
「あう〜ばっ」
なんでもない平日の昼下がり。俺たちはやるべき事を済ませて、リビングでのんびりと過ごしていた。
もうすぐで春休みが明けてしまうので、こうして渚沙と一緒に過ごせる日も残り少ない。なので今はめいいっぱい一緒に遊んでおこう。
そんな思いで俺とセレス、アリシアは渚沙に構う。
「こちょこちょ〜」
「あははは!」
最近ではこういった擽りにも反応を示すようになった。
我が子の成長は凄まじく、最早自分の老いを感じるほど。しかし、悪い気など微塵もなく、むしろ心地よさすら覚える。
「もうカズヤさん、そんな遠い目をしてどうしたんですか?」
「我が子の成長が眩しくてな」
「ふふっ、そうですねぇ」
アリシアが渚沙を笑わせていると、ふと、渚沙の口の中に白いものが見えた。
「え?」
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと気になってな。渚沙、ちょっとごめんよ」
そういって渚沙の口を開け、中を確かめる。
「あえ〜」
「やっぱり、歯が生えてる」
「まあ、本当ですか?」
そういってセレスも一緒になって覗き込む。
小さな口なので分かりずらいが、確かに上の歯が一本生えていた。
「本当ですね! これからしっかり歯磨きしないと!」
そう嬉しそうに言うセレス。
アリシアもそれを確認して、弟の成長を喜ぶ。
「生えてます。……ちっちゃい」
「乳歯だからな。アリシアもこのくらいだったんだぞ?」
「少し前のことなのに全然わからないです」
アリシアはあちらの世界を出る前に、全ての歯が生え変わっている。
まあ、自分の歯をそんな事細かに見るなんてことはそうそうないだろうから無理もない。
「じゃあこの後歯ブラシを買いに行くか」
「そうですね。後布……こちらだとガーゼでしょうか?それも買わないとですね」
なんでも、最初はガーゼ磨きで初めて、口の中を触られてることに慣れたら歯ブラシに移行するのだとか。
アリシアの時は使用人とセレスに任せっきりだったから、知識がなく、面目なく感じてしまう。
「あちらはそれが普通でしたので、気に病むことはないのですよ?」
育児は奥方と乳母、使用人の仕事。それがあちらの世界での普通だった。
なので、郷に入ったら郷に従えと言われればそこまでなのだろう。だが、日本の感覚を絶妙に持っている俺からすれば、歯痒く感じるところがある。
「こっちで存分に育児を手伝うとするさ」
「それはとても嬉しいです」
そうして俺たちは出かける支度をする。
うん、今日も平和だ。