作品タイトル不明
第211話 入学式挨拶
桜舞い散るこの季節、俺たちは学校に来ていた。
新学期にはまだ早いがどうして俺たちが登校しているのかと言うと、それは理由は冬休み前までに遡る。
◇
「セレスティーナさん、ちょっといいか?」
クラスメイトたちと談笑しているとき、先生からそんな呼声が掛かる。
セレスは俺に目配せをした後、席を立ち去る。
会議室に連れられたセレスは、先生に聞く。
「どうしたんですか?」
「ちょっと頼みたいことがあってな」
先生はそう申し訳なさそうに話を切り出す。
「セレスティーナさんに入学式の在校生挨拶をして欲しいんだ」
「えっと、それは生徒会長のお仕事では?」
「従来なら慣例通り生徒会長が行うのだが……今年は少し異例だったからな」
先生が言うには、まだ生徒会がきちんと機能していない段階でこうした行事に出るのは相応しくないのではという意見が出たとのことだ。
「次最終学年で、かつ成績最優秀者であるセレスティーナさんに白羽の矢が立った。そう言う訳なんだ」
「そう言うことでしたら……お受けさせていただきます」
「そうか! 非常に助かる!」
◇
と言うわけで、入学式に登壇するためにわざわざ学校に来たのだ。
「別に、私だけでもよかったんですよ?」
「せっかくのセレスの勇姿、見逃したくないからな」
「まあ。カズヤさんが見ているのなら一層気合を入れて執り行わなければいけませんね」
そんな話をしていると、担任の相川先生が見えた。
「悪いな、休みの日に呼び立てて」
「いえ、問題ありませんよ?」
「そう言ってくれると助かる」
セレスは先生に連れられ、式会場へ。
俺はそれを見物しに舞台袖に向かう。
しばらくして式が始まる。
緊張した面持ちの新入生たち。俺たちもいつかはこうだったのかと感慨に更けていると、いつの間にかセレスの番となっていた。
「在校生代表、セレスティーナ・ヴィ・羽鳥・ユグドラシア」
「はい」
外国人名に一度、その容姿を見て二度、会場が騒つく。
「きれー」
「お姫様みたい」
壇上に立ち、新入生たちを見守るセレス。
俺はこうしてまたセレスの演説を聞けると思うと、口角が上がる。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
そんな言葉から始まる挨拶はその場にいる誰もを引き込んだ。
セレスが送る言葉は例に漏れることはない。新入生への祝福、歓迎の意。そして学校生活の魅力だ。
だが、その堂々たる立ち振舞い、話術。長い時間の式典に疲れた彼らさえも掴んで離さない。
彼女は王族だ。民の前で演説する機会も多々あった。
それらは今回の式典のようなカンペはなく。その場で言葉を紡ぐ必要があった。勿論、全く用意をしていなかったわけではない。先生らに挨拶の内容を確認するために一度書面に認め、提出している。
けれど彼女は、一度たりともそれを見ず、覇気を持って真摯に向き合い言葉を送る。
「――以上を持ちまして、歓迎の挨拶とさせていただきます」
彼女が礼をとって、一拍ののち、拍手が起こる。
さすがセレスだ。その一言に尽きる。
◇
「今日は助かった。ありがとう」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
「それにしてもあの挨拶、凄かったぞ。私たちまで引き込まれてしまった。きっとセレスティーナさんにはそういった才もある」
「母国でそう言った機会が多かったので、昔とった杵柄と言うやつです」
先生と別れて帰り道。
セレスはグッと背を伸ばし、俺は彼女を労った。
「お疲れ様、セレス。やっぱりセレスの演説は凄いな」
「そんな大したものではありませんよ? それにカズヤさんもできるじゃないですか」
「俺のは戦場限定だ。平時には使い物にならないさ」
「それでも、十分凄いと思いますけれど」
「疲れたか?」
「いいえ、この程度……と言いたいところですけど、久々だったので少しだけ」
「帰ったら昼寝でもするか」
「たまには良いかもしれませんね」
そんな話をしながら俺たちは手を繋ぐ。
うん、今日も平和だ。