作品タイトル不明
第208話 古本屋
208話 古本屋
買い物の帰り、俺たちは古本屋にやってきていた。
セレスがもっと他の料理を覚えたいと言ったのが発端である。
俺としては、普通の本屋でも良かったのだが、レシピは最新である必要がないとのことだったので、こうして古本屋に足を向けた。因みにケインが務めている本屋は駅前にある所なので別の店舗だ。
店はチェーン店ではなく、個人でやっているお店。
存外掘り出し物も多く、中学生の頃、少ない小遣いで漫画を買い漁ったのを覚えている。
「日本のお店といった感じがして、凄く趣のあるお店ですね」
「俺が物心ついた頃には合ったお店だからな」
店内はさほど広いとは言えないが、狭いとも言えない。丁度良い空間に所狭しと並べられた本たち。古紙特有の匂いが肺を満たす。
「レシピの本は……あちらですね」
特段BGMがあるわけではない店内は図書館の様な静けさを持っている。
そんな沈黙の中、俺たちは目的の本が並べられている棚までやってくる。
「思っていたよりもたくさんありますね」
「言っただろう? ここは掘り出し物が多いって」
「洋食、和食、中華。民族料理まであります!」
楽しそうに本を眺めるセレスを見守りつつ、俺も何かないかと本を探る。
「もしや、和也君かい?」
そう声を掛けてきたのは店主だった。
白く立派な髭を蓄えている店主は俺の微かに残る記憶の中と変わらない。
「はい、そうですよ。良く分かりましたね」
「狭い町内じゃ、よく来る客の名前と顔は一致するさ。大きくなったね」
むず痒い気持ちのまま笑うと、店主は目を細める。
「隣の別嬪さんは彼女かい?」
いたずらに笑う店主に俺たちは手をつないで言葉を返す。
「彼女じゃなくて、妻です」
「初めまして、セレスティーナと申します」
「やや、お嫁さんだったとは。ワシも年を取るもんだね」
髭を撫でながら感慨深い表情を浮かべる店主は、思いついたように言った。
「結婚祝いだ。好きな本を持っていくといい」
「そんな、悪いですよ」
「若い者が遠慮なんてするんじゃあない。ここには本くらいしかないからね。受け取っておくれ」
「……ありがとうございます」
セレスは何冊か見繕った後、ぐるりと店内を見渡す。
そのまま店主の所に持っていくかと思ったら、とある本の前で止まった。
「……これは」
「お嫁さん、その本が何かわかるのかい?」
「憶測でしかないですが、なんとなくは」
その本というのは、現代の本とは違った装丁がなされた分厚い本。
中を覗いてみても幾つかの幾何学模様と日本語ではない文字が書かれたそれは、とても見覚えがあった。
「こりゃ凄い。見るからに外国人だったものな。お嫁さんの国の言葉だったのか。この店にいつの間にかあった本でな? 内容がわからん本を売るわけにいかんので処分しても、いつの間にか戻ってくるのよ。それで、どんな本なんだい?」
「古い研究者の記録、ですかね」
「なるほどな。書かれているものからしてそんな気はしていたが、そうだったのか」
「……こちらの本、頂けますか?」
「ワシの元にあっても読まれることはないからの。良いぞ。ただ、何かあったらすぐに手放すのじゃぞ?」
「わかりました」
件の本と、レシピ本を数冊。店主に包んでもらい、店から出る。
「家に帰ったらさっそく読んでみましょうね」
「ああ、俺も興味が沸いた」