作品タイトル不明
第204話 お花見そのに
弁当を広げ、それを突きながら桜を楽しみつつ飲み物を煽る。
この上ない平和を噛みしめていると、葛西さんたちがタッパーを差し出す。
「これ、母さんが持ってけって。よかったらみんなで食べてくれ」
「私も~」
「まあ、ありがとうございます」
「悪いな。気を遣わせて」
「いや、大丈夫だぜ……って実際作ったのは母さんだけど」
弁当にまた彩が増える。
それらをつまみながら俺はアリシアの方を見る。
「ほら渚沙、桜ですよ~」
「あうあ~」
「……明るくなりましたね」
「ああ」
あちらの世界にいたときに比べ、アリシアは明るくなったと思う。
貴族として、英雄の娘として様々な場面で年齢にそぐわぬほどの重圧に答え続けたアリシア。
どちらかが正しいだなんて論じるつもりはない。ただ、今のアリシアが彼女の元来の性格なのだと考えると、思うところがある。
「弟の存在が良い影響を与えているのかもしれないな」
「確かに、アリシアの人間性がさらに育ったように感じます」
「渚沙に感謝だな」
笑顔を咲かせる二人を見ていると無意識的に口角が上がる。
家族皆が平和に、のびのびと過ごせている。
それがなによりも嬉しい。
「それにしても桜、綺麗ですね」
「向こうにはなかったもんな」
「似た花はありましたけど、こちらの方がより可憐に見えます」
「俺も久しぶりに見ると感動するものがあるな」
よくよく思い出しても、あちらで花を愛でる機会はそれほど多くはなかった。
大戦の後、戦後処理に追われた俺は、そう大した休暇なく戦場へと戻った。
その僅かながらの期間でセレスと共にお茶会をした時が、最後だったかもしれない。
「これからはいろんなところに行こうな」
「はい。家族皆で」
春の穏やかな風が頬を撫でる。
それを全身で感じ、口元に笑みが零れる。
「いいな。この空気」
「私も好きです。誰もが平等に平和を感じられるこの空気が」
「どうしたんだ? 二人とも」
「そんな黄昏てないで、こっちおいでよ! 写真撮ろう!」
唯たちが俺たちに声をかけてくれる。
「行くか」
「はい」
桜舞う心地よい日に。
うん、今日も平和だ。