作品タイトル不明
第201話 春の昼食
何もない日。
今日の分の課題を片付け、アリシアと共に渚沙と遊びながら、のんびりと時が過ぎる。
これこそまさに平和と言えるだろう。
程よい運動に、程よい勉学、そして遊び。
こちらの世界に帰ってきてからは特にそうだが、こうして何もない日を享受できる。
これがどれだけ素晴らしいことなのか、今の俺には良く分かる。
「どうしたんですか?そんな顔をして」
「どんな顔をしていたんだ?」
「まるで、万感の思いに浸っているかのような表情をしていましたよ?」
「良く分かったな。まさしくそれよ」
「どういうことです?」
「この平和を噛みしめていたのさ」
「まあ」
戦場を経験したセレスはあの世界で暮らしていた家がどれだけ脆いものであったかを知っている。
俺のこうした突飛な発言も茶化したりせず、受け止めてくれる。
「う!う~」
「凄いですよ、渚沙。上手に寝返りできてます」
パチパチと手を叩くアリシアに朗らかな笑みを浮かべる渚沙。
「じゃあ、くまさんのところまで寝返りできるかな~?」
そういって渚沙の視界にテディベアを映した後、いつもの声で呼びかける。
『渚沙くん!こっちこっち!』
声に反応して横を見るも、さすがに寝返りを始めたばかりの子。動くことはできず、ポカンとした表情を浮かべるだけだった。
「ふふっ、渚沙にはまだちょっと早かったかもしれませんね」
「あば?」
「ほっぺぷくぷくですね~」
そうして頬を遊ばせる俺たち。
「ぶー」
「ああ、ごめんなさい。触りすぎましたね」
ふと、時計に目をやると昼食の時間だ。
この春休み期間はできる限り昼食は俺が作るようにしている。
今日はそうだな……パスタにしようか。
セレスみたいな料理は作れないが、二人ともおいしそうに食べてくれるので、モチベーションが上がる。
それと並行して離乳食も用意する。
最近始まった離乳食だが、渚沙は嫌がることなくそれを食べてくれる。
まだ味という味はないのだが、おいしそうに食べてくれていると思う。
「今日はパスタですか、良いですね」
「調味料はお好みでどうぞ?」
タバスコと粉チーズを机の上に並べ、俺たちは手を合わせて食事を始める。
これは、異世界にはなかった文化だったが、日本のこの作法を気に入ったセレスが屋敷で取り入れたのだ。以降、我が家では必ず行っている。
「そうだ、アリシア」
「はい」
「最近一緒に訓練できてなかっただろう? たまにはどうだ?」
「お父様に訓練を付けていただけるのですか! 嬉しいです!」
「じゃあ食べて一休みしたら訓練場な」
「はい!」
なんてことないいつもの日。
それが途方もなく眩しい。