作品タイトル不明
第190話 鎧
あの一件以降、俺たち家族の壁が一枚剥がれた気がする。
まあ、直接現場を見たことが大きいだろう。
「お兄、ちょっと気になったんだけどさ」
「なんだ?」
「お兄の鎧ってちゃんと見たことがないなぁって」
このように遠慮なく聞いてくるようになったのだ。
「鎧? 鎧なら武具庫にあるだろう?」
「そうじゃなくてさ、お兄の鎧! 絶対特別仕様なんでしょ?」
「いやまあ、専用ではあるけどさ」
「日本にいると西洋甲冑なんて見る機会そんなにないんだから見せてよ〜」
そんな話をしていると、セレスが唯の肩を持つ。
「良いじゃないですか、見せるぐらい」
「え、セレスもそっち側なのかよ」
そんな羨望の眼差しを向けられたら弱る。
身を守る道具ではあるが、実際に戦闘で使ったものだ。汚いとは言わないが綺麗な代物ではない。
少し躊躇していると、アリシアも加勢する。
「お父様の外套はイーディス様から下賜された追跡魔法やその他便利な魔法が付与せれた物なんですよ」
「何それ! 超見たい!」
さらに興味津々といった顔でこちらを見てくる唯。
そんな彼女の熱意に根負けした俺は鎧姿となる。
「うおお! 凄い! お兄がカッコよく見える!」
「”が”とはなんだ」
唯は近寄り、鎧を触り見る。
「凄い、プラチナみたい……」
「これ、プラチナに見えるかもしれませんがミスリルなんですよ」
「ミスリルってあのファンタジーでよく出てくるあの?」
「はい、鋼と同じ剛性をもちながら極めて高い魔力伝導率を誇る金属、それがミスリルです。その中でも魔力伝導率の高いミスリルはプラチナのように白金に輝くんです」
「すごい……」
「手入れがそこまで出来てないから鈍い輝きになってるがな」
「そうは見えないけど……」
俺もそれなりに手入れしてるから、輝きこそあるものの、鍛冶師が行うそれとは違う。
「向こうの専門職に比べれば全然さ」
「鎧の曇りは心の曇り、ですからね」
「なんか自衛隊の半長靴みたい」
言えて妙かもしれない。俺は笑う。
「兜は被らないの?」
「俺は視界が遮られるから被ってないな」
「そういうもんなんだ……へぇ……」
興味深そうに鎧を触れる唯。関節回りの蛇腹機構やプレートなど隅々まで観察する。
途中動いてみてなんて言いながら唯はそれを楽しんだ。
「そんなに見てて楽しいものか?」
「面白い!」
「そ、そうか」
「お兄の剣は特別製だったりするの?」
そう言って唯は俺の腰に帯びている剣を指さす。
「戦場で使うものは無銘だよ。物は良いけどな」
「今腰に下げてるのは? 見るからに特別そうだけど」
「これは儀礼用のロングソードですよ。戦いに使えるだけじゃなくて見た目にも拘った一品です」
「俺は別に普通でよかったんだけどな」
「だめですよ。勇者なのですから相応の剣でなければ」
「わかってるさ」
剣帯から外し、唯に持たせる。
「わわっ」
「銘をアロンダイト。国最高の鍛冶師が鍛え上げた志向の一品さ」
「……重いね」
「まあ、な。抜いてごらん」
「え!? 抜き方なんてわからないよ!」
う言って戸惑う唯、その様子に口角を上げつつ、抜き方を教える。
「鞘に這わせるんじゃなくて、一気に抜いてごらん」
「う、うん」
しゃらりという音とともに剣は抜かれる。
その刀身は鋼のそれとは違い白金を輝かせ、装飾が煌めく。
「初めてにしては上出来だ」
「……何度目になるかわからないけど、すごいね。それしか感想でてこないや」
「ははっ、そう言ってもらえればこの剣を作ったやつも浮かばれるというもんだ」
「お兄、これ、どうやって仕舞うの?」
「どれ、貸してみろ」
俺は慣れた動作で剣を収める。
「……手慣れてるね」
「まあ、慣れたからな」
また慣れた動作で剣帯に剣を戻す。
「これ、どのくらい重いの?」
「計ったことないが、2、30キロぐらいあるんじゃないか?」
「そんなのでこないだ飛んだり跳ねたりしてたの!?」
「訓練の賜物だな」
そんな話をしながら唯の満足がいくまで付き合う。
しばらくして、それも一旦落ち着く。
「ありがとねお兄」
「いや、いいさ。兄に興味を持ってくれてうれしいよ。今度セレスの鎧も見せてもらうといい」
「セレスさんも鎧あるの!?」
「一緒に戦場を戦ったんだからそりゃあるさ。しかもセレスのは凄いぞ? なんたって王族だからな。ドレスメイルってやつで……」
「か、カズヤさん! 私のは別にいいかと思うのですが……」
「見たい! 私すごく見たいよ!」
唯の興味の矛先がセレスに向き、また興奮をは高潮を迎える。
そんな様子をアリシアと共に笑って見守る。
うん、今日も平和だ。