軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第187話 家族の思いは

翌日、お兄たちは屋敷から出てこなかった。

休日だから、かもしれない。

けど……。

得も言われぬ不安感が私たちを襲った。

お兄の部屋を何度も前を過ぎる。

扉を開けようと何度もドアノブを握る。

でも、なんて声をかけて良いのか分からず、それを捻ることはできない。

誰かが声をかけるでもなく、私たち3人はリビングに集まった。

「……」

沈黙が肌を刺す。

何かを口にしようとしても言葉にならず、閉口する。

それの繰り返し。

「――お兄のこと、どう思う?」

数刻経って、言えたのはそんな言葉だった。

「――人を、殺したんだよな。和也は」

「……昨日だけじゃなくて、魔王大戦の時も、ね」

お兄が武器を持って戦った。

その結果、お兄が立ち、他が倒れた。

現代の日本人ならば言うだろう。「話し合いで解決できなかったのか」と。

「少なくとも、昨日のお兄は、守ってくれたんだと思う」

私たちに背を向けて、荒れる騎士だったモノたちを相手取っていた。

血に塗れながら、私たちを守ってくれた。

「私、思うんだ。私たちの尺度で捉えられない問題なんだと思う」

私の言葉に両親はゆっくりと頷いた。

「少なくとも私にはさ、お兄が悪いことをしたとは思えないんだ」

私が吐露するように伝えると、お父さんが重い口を開く。

「……勝てば英雄、負ければ犯罪者か」

「どう言うこと?」

「同じことを行ったとしても、勝てば英雄的行動と称賛され、負ければ犯罪者と誹りを受ける。ただそれだけさ」

お父さんの理論なら、お兄はずっと勝ってきた側なんだろう。

……でも、お兄はそうだとは思ってない。

「きっとさ、お兄は……そんなの関係ないんだと思う。自分の罪をずっと反芻してて……それでさ」

「――俺たちはどうするべきなんだろうな」

気がつけば、夜になっていた。

こんな大きな問題を抱えていると言うのに、人間の本能には忠実なようで、腹が減る。

食事を作る気にはならず、買い溜めていた冷凍食品を皆で食す。

それなりに進化した素晴らしい冷凍食品達だったが、今の私たちには味がせず、喉の通りもいつもより悪かった。

時計がそろそろ両針とも天を向く頃。

静寂が支配していたリビングにガチャリとドアが開く音が聞こえた。

皆一様に音の出所に顔を向ける。

「――セレスさん」

顔を見せてくれたのはセレスさん。

いつもの洋服ではなく、どこか装いが違う。異世界の服だろうか。

とてもよく似合っているが、それがどこか境界線を感じて心に何かを感じる。

「カズヤさんは今対処をされているので、代わりに私が来ました。……すみません、皆さんにそんな顔をさせてしまって」

申し訳なさそうにするセレスさんに私は聞いた。

「対処って、何?」

「こちらの世界とイースガルドにパスができてしまっている可能性……平たく言えば召喚や転移ができてしまう状態だったのを、出来ないようにするために、今、イーディス様に交渉しているのです」

「というと、今回みたいなことが起こらないようになるってことか」

「はい、今回は私の世界の者がご迷惑をお掛けしました」

そう深々と謝罪するセレスさん。

でも、私にはそんなことはどうでもよくて、言った。

「そんなことしたら、セレスさん達は!」

「ご心配ありがとうございます。でも、良いのです。私たちの居場所は家族がいるところ。場所ではないのですから」

綺麗な笑顔でそう言うセレスさん。

「そんなことよりも、昨日の件について、皆さん思うところがあるのではないでしょうか」

「それは……ある」

父さんが慎重に頷く。

「私たちは、戦場で起きた事。そう捉えるだけで済むのですか、皆さんはそうは行かないですものね。こればかりは価値観や倫理観の違いと言えるでしょう」

凛とした表情でそう告げるセレスさんの顔はどこか哀しげに見えた。

「ですが、カズヤさんのことは、どうか、いつもの目で見てはもらえないでしょうか」

切実に、まさに言葉通りの願いだった。

「皆さんも知っての通り、カズヤさんは優しい方です。敵味方関係なく、魔物であろうとも一つの命と捉える。戦闘を終えた後一人黙祷を捧げ、命を尊ぶ。そして誰よりもその死に責任を感じておられる方なんです。ですので、どうか家族である皆さんだけは――!」

膝を着き、頭を深々と下げたままセレスさんは言う。

私たちはこの整理が出来ない感情とは別にどこか安心感を得る。

「……私たちは、どうすれば良いのかな。分からないんだ、どうしたら良いのか」

「……心中お察しします」

「でも、お兄はお兄だよ。変わらない……うん、変わらないんだ」

一つ、思うところがストンと落ちた。何を言えば良いのかも、わかった気がする。

「……ありがとうございます」

セレスさんはそう言ってまた頭を下げ、リビングの出口に向かう。

「明日、朝食を終えた後、カズヤさんをこちらにお通しします。そこでどうかその旨をカズヤさんに」

「……うん」

「それではまた明日」