軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第186話 化け物

「……お父様」

「ありがとうアリシア。唯たちに安眠の暗示をかけてくれたんだよな」

「お分かりになるのですか?」

「先の戦闘で感覚が研ぎ澄まされているからな。この屋敷と家の状況を把握する分には造作もないさ」

死骸を処理した後、俺たちは屋敷に戻っていた。

サロンのソファに腰を掛け、中庭を覘く。

「アリシア、アリシアも今日は疲れただろう?もう、休みなさい」

「……お父様」

アリシアは何か言いたげな表情を浮かべるも、言葉が出ず。言い淀む。

そんなアリシアにそっと手をかけ、セレスも諭す。

「後は大丈夫だから、ね?」

「……分かりました。おやすみなさい。お父様、お母様」

そう言ってアリシアは下がる。

暫くの沈黙の後、セレスは俺にそっと寄り添いながら、言った。

「もう、誰も居ませんよ」

「……そうか」

その言葉に肩の力を抜き、ソファに体を預ける。

「……見られていたよな」

当たり前のことを聞く。

俺は心の中でどこか信じたくなかったのかもしれない。

そんな俺の吐露にセレスは頷いた。

「……しっかりと」

「……だよなぁ」

俺は更にソファに体を預ける。

見られていた。俺が人を殺すところを。

それはどちらの世界の法律でも重罪で、まごうことなき悪行。

話はしていた。以前文化祭の折に、異世界で勇者として多くの者を斬ったことを。

しかし、話と現実は違う。何より――

……何より、彼らに血を見せてしまった。

「俺はもう、化け物だよ」

「化け物、ですか?」

「そう、どちらの世界の住人でもなく、人を殺した大罪人。数え切れぬほど斬ってきた俺はもう、人なんて語るのも烏滸がましい化け物だ」

自嘲気味に笑うと、セレスが肩に手を添えてくれる。

「でしたら、私も化け物です」

「セレスも?」

「数は違えど、私も多くを斬ってきました。ですから私も化け物ですよ」

反論したかったが、どうにも言葉が見つからず押し黙る。

「……これからどうしようか」

「これからですか?」

あんな現場を見られた以上、家を出ることも考えなければ。

幸い金はある。知り合いのいない土地に越すのも良いか。

「私も連れて行ってくださいね?」

「まだ、何も言ってないぞ?」

「どうせ、家を出てどこか別の場所に行こうとでも考えていたのでしょう?」

「……流石だな」

俺の考えていたことを端から端まで当てるセレスに感嘆符を漏らす。

「私はあなたと共にあります。ですから、置いていかないでくださいね?」

「……ありがとう」

そうしてまた沈黙が場を支配する。今宵の静寂はひどく冷たい。俺たちの触れる手だけが熱を交換する。

夜空には月が見えない。

今日が終わろうとしている。