作品タイトル不明
第185話 目に映るものは
一言で言うなら圧倒的だった。
ケインさんの弓で3割ほど削られた騎士たちをお兄は正面から切り伏せていた。
襲いくる騎士たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
「破壊せヨ」
「Ha!」
「……フンッ!」
お兄が剣を振るうと剣圧で窓が揺れる。
全身鎧(フルプレートアーマー) でも関係なく斬るお兄は、ゆっくりと前に進みながら剣を振るう。
お兄の覇気と言うべきものが窓越しでも伝わり体が震える。
そんな時、優しい光が体を包んだ。
「大丈夫ですか?」
「……アリシアちゃん」
「今、渚沙を寝かしつけてきたところですが……なるほど、お父様が戦っておられるのですね」
アリシアちゃんは治癒魔術をこのリビングに施してくれたらしく、それで幾分か気分が楽になる。
「ここは今戦場ですから、そうなられるのも無理ないですよ」
足が竦む私たちに優しく語るアリシアちゃん。
「……アリシアちゃんは平気なの?」
「私は向こうの世界で戦闘を経験しているので、ある程度は。と言っても、人同士の戦闘は初めてですが」
そう困り眉で答える。
「和也は……今、戦っているのか?」
「はい、戦っています」
お父さんがそう当たり前のことを聞く。
私たち日本人からすれば戦闘はおろか、喧嘩だって縁遠い話だ。そう疑問に思うのもしょうがない。
「お父様たちは今、命のやり取りをされています」
「……和也は今、人を斬っているのか」
「……はい」
――殺人。
私たち日本人の尺度で言えばそれは犯罪。それも重罪だ。殺人は悪いこと。これは火を見るよりも明らかだった。
けど、今お兄は人を斬っている。
前に聞いたことがある。
イースガルドでももちろん人殺しは犯罪だ。
だが、こと戦場においてはその限りではない。しかし、それは勝った者だけに許される特権。
――私には結論を見出すことはできない。
「……お兄、怪我だけはしないで……!」
今私が出せる精一杯の言葉だった。
◇
「……a――」
最後の一人を斬り伏せたところで、俺は周囲を見渡す。
綺麗な芝生だったこの空間が、血みどろの恐ろしいものに変貌していた。
「――ケイン、状況は」
「はっ、周囲に敵影なし、皆事切れています」
「……そうか」
大きく息を吐き、自身の鎧を顧みる。白銀は血に汚れその輝きを鈍らせていた。
剣についた血を払い、鞘に納める。
「……セレス、よく耐えたな」
「いえ、鎧を綺麗にしますね?」
「いや、いいよ」
「いいえ、ほら」
そう言って断ろうとするもセレスは家の方に目配せする。
……そう言うことか。
「頼む」
「はい」
鎧を綺麗にしてもらい、俺は家の方に向かう。
「……もう大丈夫だ。敵はいない」
俺がそう声をかけるも、家族は静寂を持って返す。
……まあ、そうだよな。
「お疲れ様でした。お父様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫だ。……だが、こっちは大丈夫じゃないよな」
そう言って俺は父さん、母さん、唯に目をむける。
「――ごめん、こう言うことなんだ」
精一杯な笑顔を作りながら俺は言葉を続ける。
「――俺は、人殺しなんだ」
「……違うよ、違うよお兄は、だって!」
「違わないよ。人を斬って、殺した。何も違わないさ」
なんて説明すればいいか浮かばず、俺は死骸たちの方へ向かおうとする。
「待って!」
「……アリシア、後はお願いしても良いかな?」
「――はい、おまかせを」
「ありがとう」
「お兄!」
後ろ髪引かれる思いながらも、俺はその場を立ち去った。