作品タイトル不明
第181話 誘い
夜、誰もが寝静まった頃。巨大な魔力のうねりで目が覚める。
「セレス」
「はい」
「渚沙とアリシアを頼む、俺は対処に」
「お気をつけて」
コートを羽織り、剣を手に俺は家の方へと駆ける。
階段を下っているあたりでドンと大きな衝撃が家を揺らす。
地震などの自然的なものには感じられない。
「お兄……何今の」
唯が眠たげに目をしながらそう聞いてくる。
「わからない。確認してくるからお前は家の外に出るな」
「う、うん」
魔力の感じ的に庭の方か。
庭に足を向けると、そこには見覚えのある鎧姿があった。
「お久しぶりです。カズヤ隊長」
「その鎧、サティ教国の騎士に相違ないか?」
真紅の鎧に金の装飾が施された鎧を身に纏った騎士たちが膝を付いていた。
「ご賢察の通り、我らサティ教国に支えし神殿騎士にございます」
「何用があってこんな異界にまで足を向けた?」
俺は彼らに目的を尋ねる。異世界に到達する魔術など、星の巡りが良くなければ実現できるはずがない。
色々な思考が錯綜する中、彼らは面を上げて言った。
「あなた方をお迎えにあがったのです!」
「迎え?」
「いかにも! あなた方を追放したアルバシア帝国は滅びました! 今こそ! 我らが神の名の下に世界平定を成し遂げましょうぞ!」
そう力強く言う騎士は、さあ! と手を伸ばす。
俺はゆっくりと一息ついて、言葉を返す。
「……アルバシア帝国はいかようにして滅んだのか?」
「彼奴等、お二人の威光を借り身勝手な世界平定を言い出したのです!その暴走をなんとしても止めるべく、我らが神の名の下に、各国が協力し、それを打ち倒したのです!」
「……そうか」
誇らしげにいう彼に哀しいものを感じつつも、なんとかそれを飲み込む。
「さあ! 今こそ! 我らと共に世界平定を!」
「……悪いが、他を当たってくれ」
「何をおっしゃいますか! カズヤ隊長!」
騎士たちが驚き、鎧が軋む。
「俺はもう、あの世界との関わりはない。あの世界の英雄カズヤはもう役目を終えたんだ」
「しかし!」
「それに、俺一人が言ったところでどうにもならないさ。政治は戦争ほど単純じゃない。それはお前たちもわかるだろう?」
「……」
「わざわざ異世界にまでやってきて言ってくれたのにすまない。向こうに戻ったらそう伝えてくれ。なんであれば一筆添えよう」
「貴方の考えは十二分にわかりました。確かに、元の世界に戻ったカズヤ隊長を再び遣わせるのは私も疑問ではあったのです」
そう言って騎士たちは魔術を起動させる。
「理解してくれて助かる」
「いえ、願わくば、もう会うことがないことを願います」
「ああ、そうだな」
そう言って騎士たちは姿を消す。
「カズヤさん!」
「大丈夫だ、帰ってくれたよ」
「……そうですか、私の世界の者が迷惑をかけます」
「それはなしだって言ったろ? それにちゃんと話してわかってくれたから大丈夫だよ」
頭を下げるセレスの頭を撫でる。
「ちゃんと話すから。さ、家に戻ろう」
そうして俺たちは庭を後にする。
空には月が三つ。うん、今日もまだ平和である。