作品タイトル不明
第176話 眠り
夕方、家のリビングにて。
お義母様と一緒に家事をしていると、唯さんがこちらにやってくる。
「お兄寝てるや」
リビングの方に目を向けると、ソファですやすやと寝息を立てているカズヤさんがいた。
家事は私たちに譲ってもらい、アリシアはお友達と出かけ、渚沙も寝ている。
やることがなく、いつの間にか寝落ちしたのだろう。
「なんだか珍しいわね、和也がこんなところで寝るだなんて」
お義母様のそんな感想を聞きながら私はブランケットをカズヤさんに掛ける。
「……セレス」
「はい。私はここにいますよ」
起こさないように優しく頭を撫でる。
すると、モゴモゴと口を動かすカズヤさん。何を言っているのか気になり、耳を寄せてみる。
「……」
「どうかしたのですか?」
「…………危ない」
「え?」
よく見てみると、なんだか体が強張っているように見受けられる。
何かを言うわけではなく、魘されている様子。そんな彼に私は手を握り、大丈夫と繰り返す。
「……【ホーリーランス】」
「……!いけない!」
カズヤさんが寝ながら魔術を行使する。
光の槍を作り出そうとするのを私が別の魔術を使ってそれを 解呪(ディスペル) する。
「大丈夫、大丈夫ですから!」
「今のって……?」
唯さんの疑問に答える前に、私は治癒魔術を込めた手でカズヤさんを撫でる。
しばらくすると、強張りも解け、穏やかな寝息を立て始める。
「……カズヤさんは優秀な魔術師でもありますから、こういったこともできちゃうんです」
「……前、ケインさんから、魔術は頭の中で数学をしながら言葉で国語をするようなものだっていってたけど、寝ながらなんてできるの?」
「隠し事はできませんね」
私はカズヤさんの頭を撫でながら話を続ける。
「あれは、カズヤさんがよく戦場で使っていた魔術です。それこそ、寝ながら行使できるほどに。一般人だった彼が戦場で植え付けられた恐怖は計り知れません。最近はこのようなことは減っていたのですが、たまに夢に見るようなのです」
「じゃあ、お兄は夢の中でも戦ってるってこと?」
唯さんの言葉に私は静かに頷く。
あの時、戦場ではそんな夢をみる時間もないほどに切迫していた。
そのことを考えると、今が平和な証拠かもしれない。
だが、カズヤさんが苦しんでいるのは事実。どうか彼の眠りが平穏でありますように。
そう願いながら彼の頭を撫で続けるのだった。