作品タイトル不明
第173話 バレンタイン
朝、目が覚める。
いつも通り訓練をするためだ。
しかし、今日はいつもと違った。
「あれ?セレス?」
いつも横で寝ているセレスがいない。
魔力で探ってみると、どうやら台所にアリシアと一緒にいるらしい。
「……なんでだろ」
多少気になるがまあいい。
いつも通り訓練に向かう。
◇
体を動かした後、俺はシャワーで汗を流し、皆が集まっている台所に足を向ける。
台所に繋がる扉を開けると、特徴的な甘い香りが鼻腔を擽る。
「おはようセレス、何をしてるの?」
「あ、おはようございます。カズヤさん……すみませんが食堂で待っていてくださいますか?朝食も含めもうすぐ出来上がるので」
「うん?わかった」
食堂で待つこと十数分。朝食と何やら箱を持ってセレスたちが入ってくる。
「お待たせしました、朝ごはんにしましょう」
「お、今日はパンケーキか。いいね」
「ありがとうございます。さ、渚沙もご飯にしましょうね〜」
食事を終え、席を立とうとするとセレスが手を引く。
「どうかした?」
「カズヤさん、今日がなんの日かご存知ないのですか?」
「今日?今日って2月14日……あ」
思い出した。今日はバレンタインデーだ。
元々妹と母さんからしか貰えてなかった日だったし、異世界にはそんな日はなかった。なのですっかり失念していた。
「こちら作ってみたんです。よかったら食べてくれませんか?」
そう言って差し出された小さな箱。
綺麗にリボンで包装なされたそれは指し示すところおそらくチョコだろう。
「もちろん! ありがとう!」
「お父様、私も作ってみたのですけど……」
「アリシアも作ってくれたのかい? 嬉しいよ、ありがとう」
アリシアからも小さな箱を手渡される。
セレスの箱が綺麗だとすると、アリシアのは可愛いだろうか。
俺の感性ではその程度しか言葉にできない。
「開けても?」
その言葉に彼女たちは頷く。
開けてみると、アリシアの箱にはオレンジにチョコレートがかかったもの、セレスの箱にはガトーショコラだろうか
?小さく可愛らしいものが入っていた。
「アリシアの方から頂こうかな、これなんて名前なんだい?」
「こちら、オランジェットというお菓子です。お口に合えば良いのですが……」
一口食べてみるとチョコレートの程よい甘味と苦味、それにオレンジ特有の酸味が合わさりとても美味しい。
「うん、美味しいよアリシア。俺の語彙ではこんな陳腐な言葉になっちゃうけど、すっごく美味しいよ」
「ありがとうございます。えへへ」
自然と手が頭に伸びる。
撫でるとアリシアは心地良さそうに目を細めてくれる。
「これはガトーショコラかな?」
「いえ、こちらはフォンダンショコラですね」
「ありゃ、また間違えた」
「見た目は似てますから、しょうがないですよ」
口に入れるとクリーム状のチョコが口の中に広がる。そして温かい。
「温かいのは初めて食べたけど、美味しいね」
「お口にあったようで何よりです。フォンダンショコラは出来立てもまた美味しいのですよ」
「うん、美味しいよ。本当にそろそろ国語を本格的に勉強するべきかもしれないな」
「ありがとうございます」
ちょっと特別な日の嬉しい贈り物。
今日もまた、平和だ。