作品タイトル不明
第161話 勇者の1日そのよん
夕方、もう夜とも言える時間帯。
俺たちは屋敷にあるホールに集まっていた。
「まさかパーティーまで再現するのか」
久々に灯りが灯ったホールには豪華と言える食事が並び、その様相は侯爵級を招いてもおかしくない。
「用意するの大変だったんじゃないか?」
「手前に置いてあるお料理以外は幻影魔術ですので然程。でも、シエルたちの手腕は素晴らしかったことを実感させられますね」
パーティーとなれば飾り付けやテーブルや椅子、もちろん料理など。用意するものは多岐にわたる。俺たちが戦闘訓練をしている間にこれを用意していたのか。
「すごい! なんて言うんだろう、貴族っぽい!」
「まあ、貴族ですからね。ご歓談中失礼します。隊長、ご準備を」
「準備?」
「このパーティーの主催ですから」
そう言ってケインに控室へ案内される。
控室にはパーティーで使う最上位の正装が用意されていた。
俺専用に設計された騎士服。何にも汚されることのない白に差し色に赤、金の装飾が成された豪華な服、それを包み込む真紅のマント。そして腰に携えるのは英雄としての儀礼で用いるカリバーン。
「それほど昔ではないのになんだか懐かしいですね」
「セレス」
そう声を掛けてきたのは母なる海を感じさせる蒼色をしたドレスを着たセレス。背中は大胆に魅せつけている。シルバーの装飾類は彼女の美しさを引き立て、特に耳のイヤーカフは印象的だ。エルフの伝統的な紋様が刻まれたものだが、今らしい革新さも兼ね備えている。
「セレスも着替えたのか」
「ええ、今回のパーティーの主催ですから」
「まさかこっちに来てまでパーティーをやるとは思ってなかったよ」
「それは、私もです。けれど、身内だけのパーティーですので肩肘張る必要はないのでは?」
「その点は楽だな。そういえば、アリシアは?」
「渚沙を寝かしつけてから着替えると言っていたのでもう少し時間がかかるかもしれません」
そんな話をしていると、ちょうどよくアリシアがやってきた。
「お待たせしました」
「いいえ、そこまで待っていませんよ? ドレスは初めて一人で着たのでしょう? 大丈夫でしたか?」
「少し苦戦しましたが、自分で着れましたよ」
こちらは綺麗な砂浜を思わせるような淡い黄色のドレス。背中は隠れており、貴族令嬢が着るドレスといったところか。装飾品はゴールドで揃え、華やぐ彼女のかわいさを更に引き立てている。
「さて、そろそろ行こうか」
「はい」
俺たちはホールへと繋がる扉を開ける。
ホールに入るとケインの分体であろう貴族服に身を包んだ人々が歓談をしていた。
「ご歓談中に失礼致します。主催であるハトリ公爵一家が登場致します。拍手でお迎えください」
いつの間にか儀礼隊服に着替えたケインがそう音頭をとる。
拍手に合わせて俺たちはホールの上段、中央に立つ。
「さ、ご挨拶を」
一体どこまで作りこむのか。そんなことを思いながらも俺は促された通り、挨拶をする。
「今日、この場に皆が集まってくれたこと、感謝する。あの大戦から8年、未だ世界は混乱の中にある。今度は人族同士での動乱があるかもしれない。そこでこの平和を維持、実現してくれるのが諸君たちだ。これからの未来、それは諸君らの手に掛かっているといっても過言ではないだろう。今宵は僭越ながら普段尽力してくれている諸君らの労いの意をこめてこのような場を設けさせてもらった。これからも世界の平和のため、共に戦おうではないか!」
俺の言葉に分体たちはおおっ!と声をあげる。
「乾杯!」
「「乾杯!」」
一層歓談の声が大きくなる中、俺たちは壇上を降りる。
すると両親、唯たちが寄ってきた。
「すごいよ! お兄、なんだか本当に貴族みたい!」
「貴族なんだよ唯」
「セレスさんもすごく綺麗! お姫様みたい!」
「お姫様だったんだよ唯」
「まあ、ありがとうございます」
「アリシアちゃんも、すっごい似合ってる!」
「ありがとうございます。唯お姉様」
「なんだか俺たちの格好が浮いて見えるな」
周りは皆貴族服、しかもパーティー用と気合の入った服装に対して両親と唯は極々普通の私服、ジーパンにパーカーといった装いだ。言いたいことはわかる。
「まあ、異世界なんだし、その辺は気にしなくていいよ」
「そうか? そういえば、お前の服装、形容し難いがすごいな」
「まあ、二番目に豪華な服だからね」
「二番目?」
「一番は皇城で陛下と謁見する時に着る服だよ」
「ああ、そっかそう言うのもあるんだな」
「どちらにしてもそんなに良いものじゃないけどね。重いし」
「そういうもんか?」
「そういうもん」
「皆さん、手前に置いてある料理は全て食べられますので、よかったら召し上がってくださいな」
「え! これ食べれるの! やった!」
そうして始まる立食パーティー。これまでは貴族の腹の探り合いのようなものばかりで楽しめるものではなかったが、こういうのも悪くない。