作品タイトル不明
第157話 ケインの提案
「ねえお兄」
家のリビングで渚沙と遊びながらくつろいでいると、唯が話しかけてきた。
「なんだ?」
「お兄の勇者の姿見てみたい」
そんなひょんなことを言う唯に思わず振り返る俺。
「お兄が勇者なのはもう分かってるんだけどさ、お兄が勇者な姿、劇とあの一瞬しか知らないから。だめ……かな?」
「いや、あの別に大したことはやってないから、そんなに気にしなくていいんじゃないか?」
実際、そんなに大したことはしてない。
俺一人でどうにかなったのは戦場だけであって、政になれば部隊の面々や関係各所の役人たちの働きがなければ俺には何もできなかった。
「でも、気になるんだもん!」
「でもなぁ……」
そんなことを話していると、ケインが入ってくる。
「話は聞かせてもらいました」
「……ケイン?」
「私は常々思っていたのです。いくら隊長が過ぎたことと思っていても、ご家族の皆様は知りたいはず。私も隊長の行いや働き
を知って頂きたいと!」
「何が言いたいんだ? ケイン」
「ショクバケンガクですよ隊長! 隊長のイースガルドでの業務を再現するんです!」
なぜか興奮気味で話すケインに俺は疑問符を浮かべる。
「いいですね! すごく見たいです!」
「唯、そんなことしないから。第一人はどうするんだよ。セレスを含めても3人しかいないだろ?」
「そこは私の魔法でどうにかしますから」
「無駄遣いするなよ」
ケインの持つ魔法は並列存在。言わば実体のある分身のようなものだ。熟練の魔術師が一体分身を作るのがやっとのところ、ケインは 存(・) 在(・) す(・) る(・) だ(・) け(・) だと100体の並列存在を生み出すことができる。
こう聞くと非常に有用に聞こえるかもしれない。
実際、隊の人数を誤魔化すなどでは大いに役立った。
しかし、戦闘においてそこまでのアドバンテージがあったかというとそこまでではない。
なぜかと言うと、戦闘はお決まりのパターンがあるわけではないからだ。
右から来た攻撃を避ける。左上から斬る。フェイントを混ぜて攻撃する。
こういった思考プロセスの積み重ねで戦闘は行われている。
なので、自立思考ができる並列存在でなければ真の戦力として数えることができないのだ。
そこで、ケインが持つもう一つの魔法、分割思考が役に立つ。
これは左手で数学を解きながら右手で歴史を解くといった全く異なる別々の動作を同時にこなせるという代物。
183名という大人数をケイン一人で副官を務められたのはこの魔法によるところも大きい。
これを応用することで自立思考する並列存在を操ることができる。
といっても、5体が限界ではあるが。
「いいえ! この程度全く問題ありません!」
「いや、そう言うわけではなく……」
「なんの話ですか?」
押し問答を繰り返していると、お茶を持ったセレスが会話に入ってくる。
「実はねセレスさん――」
「ああ、なるほど。そう言うことですか」
「なあセレス、お前からもなんか言ってやってくれ」
「良い機会なのではないですか?」
「え」
「あなたの英雄としての行いは前回の劇で伝わりました。今度は日頃のお仕事について教えても良いのでは?」
「うぐ……」
「ねえ、お兄! お願い!」
「うぐぐ……」
上目遣いでおねだりしてくる唯。
……俺は折れないぞ!
………………
…………
……