作品タイトル不明
第155話 ちょっとした事件
155話 ちょっとした事件
あの一件から一週間が経った。事件は未だに進展を見せていない。
家族の皆には鬱屈とした日々を過ごさせているので、そろそろどうにかしたいところだが、こちらから何かアクションを起こすわけにもいかず、どうにも歯がゆい思いをしている。
そんな中、俺たちはいつも通り買い出しに来ていた。場所はいつものショッピングモール。今日は渚沙のものも買う必要があったので、こちらまで足を運んでいた。
ちょうど、一階での用事を済ませ、二階にあがるところだ。
「あとは、渚沙のミルクと服ですね」
「子供って不思議なぐらい成長するよな。この間まではいっていた服がもうだめになるなんて」
「たしかにそうですね。でも、こちらの世界は凄いです。多種多様なサイズの赤ちゃん用の服がありますから」
「向こうだとこうはいかないからな。俺たちは服を作らせていたけど、市井の民たちはどうだったんだろう」
「大人の服に関してはある程度知っていますが、子供の、赤子の服に関してはあまり知らないですね」
そんなどうでもいい話に花を咲かせていると、なんだか不穏な気配を感じる。
微弱だが、俺に向かって敵意のようなものを向けてくる男。セレスに対してはまるで嘗め回すような視線を向けている。
セレスも気が付いたのか、若干困り眉。少し警戒していると、男はスマートフォンをセレスのスカートに向けた。
「おい、何をやっている」
「ヒッ」
彼女のスカートを抑えつつ逃がさないように、その男の手首を掴む。
「盗撮か? 下種な真似を……セレス」
「はい、警察に通報しますね」
「警察!? 勘弁してくれ!」
「知らん、己の行いを悔いるが良い」
騒ぎを聞きつけ警備員も寄ってくる。
どうやら平和な買い物は終わりの様だ。
◇
夕方。予定より長く拘束されたショッピングモールからの帰り道。
「セレス、大丈夫だったか?」
「はい、カズヤさんが守ってくれましたから」
結論から言うと、あの男はストーカー犯ではなかった。
ただ、男のスマートフォンからは様々な女性の盗撮写真が見つかり、そのまま御用となった。
「少し残念です。これで解決するかと思ったのですが」
「まあ、そんなうまい話はないだろうさ」
幸い、セレスの写真は撮られていなかった。しかし、娘を持つ身としてはあのような犯罪が実際にあると実感すると思うところがある。
「今日のカズヤさん、ちょっと昔のカズヤさんを見ているみたいでした」
「え、そう?」
「はい、あそこまで怖い顔をなさらなくてもよかったのでは? あの男、相当怯んでいましたよ?」
「まあ、逃げれないようにするつもりだったし、力加減は考えたぞ?」
そう返すとセレスは俺の眉間を指で押さえる。
「まだ皺がよってますよ?」
「うそだ」
「ホントです。渚沙と会うまでには直しておいてくださいね?」
「……不快だったんだ。セレスをあんな下種な企みに晒されたのが」
「守ってくれたではありませんか」
「それでも嫌なものは嫌なんだ」
俺の気持ちの吐露に、セレスは何故かありがとうと返す。
「あなたにそこまで想われていることがこの得なくうれしいのです」
そう言ってセレスは先行する。
「さ、帰りましょう? 今日はカズヤさんが好きなごはんにしましょう」
「……ありがとう」
俺たちはそうして日常に戻って行く。
この平和を噛みしめながら。