作品タイトル不明
第150話 不穏な影
「羽鳥夫妻、ちょっときてくれ」
平日の昼間、担任の相川先生から呼び出される。
因みにこうして呼ばれることはザラであり、最初こそ反応はあったものの今では平然と受け入れられている。
「どうかされましたか?」
「ここだと少しな、ついてきてくれ」
そうして連れて行かれたのは、生徒指導室。
品行方正で通っている俺たちとは無縁の場所だ。
「それで、こんな場所まで来てなんですか?」
「ちょっと見せたいものがあってな」
「見せたいもの?」
そうして先生は一枚の写真を懐から取り出した。
「これは……!」
そこに写っていたのは産婦人科から出る俺たち。
角度のおかげか、渚沙は写っていないが、服装、表情、どれをとっても俺たちだった。
「こんな写真が学校に送られてきてな」
「こんなことってあるんですか?」
「もちろんある訳がない。保護者の通報だって小学校じゃあるまいし、そんなに多くはない。他にもあるぞ」
そう言って先生はまた複数枚の写真を見せてくる。
買い物帰りの俺たちの写真、下校途中であろう写真、中にはアリシアと写っているものまであった。
「これは一体……」
「何文言もなくこれらが送り付けられたんだ」
「ストーカー……ですか」
「十中八九そうだろうな。本来なら親御さんに連絡するだったりで内々に処理する話だが、お前たちは結婚もしている。十分に受け止められるであろうと判断したんだ」
「今時こんなことをしてくるやつがいるんですね」
俺はそれに対して捨てるように言葉を吐く。
「全くだ。驚いているところ悪いが、今後の対応策を説明するぞ。まずは一人で出歩かないこと。必ず二人以上で行動するんだ。必要最低限の外出に控えること。幸い定期テストも終わっている、なんであれば学校を休んでもらっても構わない。今後学校としては警察と連携してことにあたるつもりだ。わからないことや不安なことがあればなんでも言ってくれ」
「ありがとうございます」
「なんだかお前たち冷静だな。いや、こっちとしては助かるんだが……」
正直な話、セレスは皇国屈指の人気を誇る王女であったし、俺も俺で勇者としてそれなりの知名度を得ていた。
なので、そういったファンがつくことも経験している。
当時は皇国騎士団や特務親衛隊の面々が警護に当たってくれていたので当時とは状況は違うが、大きな驚きというのはそんなにない。
「学校がしっかりと対処してくださるので安心しているんですよ」
「そうか?そう言ってもらえると嬉しいが、今後何かしら進展があれば連絡する。頼むぞ」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言って俺たちは生徒指導室を後にする。
「……どうしましょうか」
「まさかこちらの世界でストーカーに遭うとはなぁ」
「あの写真、アリシアも写っていました」
「そうだな。正直俺たちに敵う一般人がいるとは思えないが、伝えてやらないとな」
驕りでもなく、戦場で10年肉弾戦を続けてきた俺と、セレス。その指導と魔獣・騎士団との戦闘経験のあるアリシアに、平和を謳歌するこの現代日本人が敵うとは到底思えない。ましてや魔術があるのだ。秘匿を考えたら乱用はできないが、虎の子の兵器となるだろう。
「あれだけの写真が蓄えてあるとなると……」
「家もバレていると考えた方がいいな」
「家の結界を強めます」
「頼む」
「それと、お義母様やお義父様、唯さんにもお伝えしないと。お三方が一番無防備です」
「それもそうだな」
「それと……渚沙とのお散歩はしばらく控えた方がいいですね」
「そうだな」
実は渚沙、意外にもお散歩が大好きだ。外に出ると朗らかな表情を浮かべ元気よく腕や足を振る。
そんな渚沙だが、今回の事象を鑑みるとしばらく控えた方がよさそうだ。
我が家の中で一番無防備であるのは渚沙だ。守りきる自信はあるが、万が一があってはいけない。
平和とはいえない日常が始まってしまったのである。