軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-18

堀田様は気さくなおじさんだった。いや、違う。気さくなおじさんを演じてた。目が笑ってない。これがこの人の人間性によるものなのか、サプライズ失敗によるものなのかは俺は知らない。ま、少なくともバカではないとは思う。勝様や佐久間氏ほどの虚栄心はなさそうだけど、俺は前世からこの手の目をした人と上手くいった試しがない。根拠はないし冤罪かもしれないけど、距離を縮めたくはない。

だから淡々と、それこそ何の感情も入れることなく、記されてる数字に雄弁に語らせた。どういう感想を持ったのかなどの私見は含めない。ただただ、俺の話を黙って聞いていた。だからこそあえて、この書類が正しいならということは付け加えておいたが。

だって実態を知らないし。ついでに調所の正当性を知ってもらうために、勝様に渡してるのと同じ書類を渡しておいた。小遣い帳はもちろん出してないけど。歴史の短さと出納帳をキチンと添えて出すからこそ、正当性と透明性を証明出来る。誠実に数字と向き合えば、組織の体力、誠実さ、見据えてる方向までもが。収入については聞かれたので、主たる収益の和算と数独の輸出を説明したところ驚かれた。言ってないんかい!その上で、「この収入と幕府からの予算を元に、試作や実験を繰り返しております。この収入がなくなると試作が滞り、知の発展に遅れが生じます。それでもよろしければ、全てお納めします」と言ったらところ、不問となった。そりゃそうだ。幕府年間予算の20%ほどの実験試作費用を請求されたら回らないもんね。決定権は持ってるみたいだ。で、こっちはキチンと報告してんだから、ちゃんと上に挙げとけよ、役立たず。

最後、なぜ俺が説明に来たのかを聞かれた。そりゃそうだよね。

「縁あって内田様の内弟子にして頂きました。内田様に付き添い蕃書調所のお手伝いをしている中で、箕作様、小野様にも可愛がって頂きました。横浜に調所が移った際に、内田様は関流の宗家預かりとしての立場もあるので横浜へは出向けませんでしたゆえ、内田様の代わりでせめてもの小間使いとして横浜へ赴いた次第です。門前の小僧、とでもいうのでしょうか。聡明な方々や異国の人に接しているうちに蘭語を習得できました。この金の流れを記した書につきましては、その流れでオランダ人から教わりました。書物にはなっておりませんので、口伝で教わった次第です。それならばということで箕作様から命じられまして、勘定方の見習いのようなことをしております」

「勝、誠か?」

「えっ、あっ、はっ、はい。えっ、ええ、その様に聞いております」

おい、アンタがそんなリアクションだと怪しまれるだろうが。嘘は事実に混ぜるのがバレない方法だなんて、いつの世だって変わらんだろ。

「そうかそうか、賢人に薫陶を受けると、かように賢くなるのか。元服も近かろう。将来が楽しみな麒麟児だな。その知を幕府のために生かすよう精進せよ」

「はい。それではこれにて失礼致します」

「最後に藤二、幕府の財政をこれからどうしたら良いと思うか?」

このタイミングで聞いてくるか。逃がしてくれよ。

「では恐れながら申し上げますと、更に借金をすればよろしいかと」

「そうか、ワシもそう思っておった。では壮健にな」

「はい、失礼します」

この人、俺の発言の真意を理解してない。理解しようとすらしない。愛想が良いだけの日和見タイプだ。絶対に味方にしちゃいけない。信用出来ん。

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side 堀田正睦

このようなもん、わざわざ仰々しく見せられんでも幕府の財政が厳しいことなど分かりきった話だ。だからこそこれまで何度も財政改革を行ってきた。ことごとく失敗したがな。借入が思いの外多かったが、だからどうした。

大体どれほどの知見があったとて、所詮はガキの世迷言。こんなくだらんことに時間を使わせて、勝への認識を改める必要があるかもしれぬな。横浜と関係が近しいということで重用していたが。だが、算法を異国が買うとはどういうことだ?なぜそんなものを欲しがるのだ?

洋書調所は金が掛かる。海軍も金が掛かる。洋書調所の金を減らせば海軍の発展が止まる。海軍の金は止められん。清の二の舞だけは避けねばならぬ。痛し痒しだな。

まあ、いざとなれば佐倉に戻れば良い。ワシが新たに借金を推し進めたわけじゃない。過去からの流れを粛々と踏襲するのが一番楽だ。下手に改革しようとするからおかしなことになるんだ。