軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-19

商人と一緒に備長炭の打ち合わせをアメリカ公使館でしてて、まとまりかけた所で大声が聞こえた。俺を呼ぶ声だ。良いや、待たせとこう。どうせろくでもない話に違いない。アメリカ人コックが「呼んでるんじゃないのか?」なんて気にしてたけど、こっちの方が大事。目の前の商談とくだらない小言、どう考えたって前者だ。

商人もコックもホクホク顔で商談を終えてもまだ叫んでた。思わず「役立たずがうるさいな」と呟いたら、コックから『「役立たず」ってどんな意味なんだ?』って質問。どう答えようか悩んだけど「useless」って答えたら理解してくれた。笑ってた。ついでにアメリカとの往復、ずっと船酔いで寝てたらしいよって教えたら、『確かにそれなら無能だな』って同意してくれた。わざわざ異国に来た彼らなら、間違いなく同意してくれると思ったよ。共感得られて嬉しいよ。

公使館から出たら声の主が文句言って来た。返事くらいしろって。見送りしてくれたコックが『無能のくせに偉そうだな』って呟いたの聞き逃さなかったぞ。思わず笑いそうになった。

「米国との協議と勝様のお相手、どちらが重要でしょうか?」

「返事くらいは出来るだろう」

「待つくらい出来ませんか?」

苦虫を潰したような顔。どうせ要件は分かってる。堀田様との話だろ。

「勝様の顔は潰していないと思いますが」

「それはない。だが何度考えても、お前と堀田様の答えが一致した理由が分からんのだ。それを聞かせろ」

「だったら尚のこと、大人しく待てませんか?」

「…すまんかった」

「勝様の道理を通したければ、各国公使の頭を下げさせる地位になってからにして下さい。米国に行ったんですから、それくらいの認識、良い加減持たれてはいかがですか?彼らに勝様の、幕府の道理は通じないと何度もお伝えしております」

「…ワシが悪かった。気を付ける」

「で、答えが一致した理由ですね。それをお教えするのは簡単です。ですが、聞きたいのであれば、勝様の覚悟を聞かせていただく必要がある。それまでは話すことは出来ません」

「覚悟?」

「玄徳になる気があるかどうか、その答えを明確に聞いておりません。厳密には、勝様が玄徳にならずとも、蜀に属すかどうかだけですが。もちろん勝様でも構いません。神輿は軽い方が、と言いますのでね」

「何をそんなに怒っておる?」

「そりゃそうでしょ。そんじょそこらのガキを会わせるお相手じゃない。考えずとも分かるはず」

「いや、しかしな、お前が持ち込んだ財務諸表。しかもお前は異国とも平気でやり合うではないか」

「それを堀田様は知っておられたのですか?」

「……」

「迂闊すぎます。ご自身の手柄のために、せっかく調所で隠してもらえてる私をむざむざと外に出さないで下さい。普段はキチンとしていらっしゃるのに、ご自身の手柄に繋がると考えると、途端に脇が甘くなる。そんなことだから『useless』と米国からも言われるのですよ」

「どんな意味だ?」

「私の口からはとてもとても。気になるようでしたら米国人に直接聞かれたらいかがです?いずれにしても、全ての話は勝様の覚悟を聞いてからになります。あと、横須賀の海軍学校ですが、あと数日で完成します。横須賀は準備出来次第運用開始します。あっ、あと江戸で現在使用している海軍学校を内田様が使いたいとのこと。譲渡致します。よろしいですね?それと海軍で使用する船ですが」

「分かった分かった、任せる」

「はい。きちんと帳簿には記しておきます」

どさくさ紛れで内田様の要望通したった。でも、老中との面談に腹立ってたのは事実。リスクとリターンが見合ってない。俺にはリスクしかなかった。ギャンブル以上に勝ち目ない。得がない。親代わりの内田様からの指示なら飲める。勝様は、はっきり言ってただ利用する、されるだけの間柄。ならばリスクに見合ったリターンがないと動くだけ無駄。割が合わない。そこんとこ、下手に立場があるからこそ、理解しないんだよな。その分を少しだけでも回収しとかないとやってらんない。

俺の中では3人の師匠と勝様は、キッチリと区分けしてる。けど向こうは自身を同一視してる感じ。このモヤモヤ、既視感あるよな。なんだ?あぁ、あれだ。直属の上司と仲が良いからってだけで、自分の部下かのように使おうとする、全く無関係の部署の上席だ。もしくは学生の頃の、別の部活の偉そうな先輩とか。なんでお前の指示を俺が聞かなきゃいけないんだ?お前の部下じゃねーよってやつだ。まぁ、勝様はそれよりは実利があるだけ、まだマシだけど。あとついでにもう一つ、通させちゃおうかな。

「もう一つお願いしたいことがございます。横浜から川崎宿までの間に、堺よりも大きな商売の町を作りませんか?」

「堺よりも大きなだと?」

「はい。商人の集まる町を江戸の近くに。どうでしょう。許可さえ頂ければ、あとは商人たちが勝手に作るでしょう。どうです?幕府も金の無心がしやすくなるかと存じますが」