作品タイトル不明
3-11
なんか嫌な予感しかしない。勝様のパターンだと、いい話なら向こうから来る。「褒めろ」のドヤ顔。呼び出されるのは不測の事態、悪い話、ロクでもない話。あえてスルーした結果、督促の文だ。金か?咸臨丸か?守旧派か?要約すると、さっさと来い、俺を助けろってことだろうな。
確かに呼ばれるはずだ。要らないって言ったら来やがった。顔見た瞬間帰ろうとしたら全力で止められた。尊大な態度は相変わらず。大人しく京都にいろや。この人の天邪鬼な性質忘れてた。来いと言えば来ない、来るなと言えば来る。完全にこちら側の失態だ。
「久しぶりだな。まだ元服してないのか?」
「何しに来られたんですか?」
「義兄の顔を見に来て何が悪い?」
「ほう、幕命を差し置いてわざわざ義兄のために来られるなんて、よほどお暇なんですね。京都でのお役目をもう達成出来たなんて流石ですね」
「志半ばであったが、義兄の頼みとあらば仕方あるまい」
「まだ中途半端ならば、達成すべく京都に戻られたら良いではありませんか。大体その義兄からの要請を断られたとお聞きしましたが?」
「そうは言ったが、義兄に顔向けが出来んと思い直して、こうして馳せ参じたんだ」
「随分と厚い皮の顔ですね。勝様、私を呼ばれた理由は?」
「……なんとかしろ。頼む、なんとかしてくれ」
「私は『もう必要ない』とお伝えした以上、私に押し付ける道理がないのでは?」
(「もう」だと?やはりコイツか)
「人を厄介者扱いするとは何事!」
「「厄介者だ(です)」」
「藤二、お前に任せる。佐久間、藤二からお前の役目を聞け。ワシは忙しい。ご老中から呼び出しがあるからな、では」
逃げやがった。ただで逃すか!
「では勝様、咸臨丸は宜しいですよね?こんな厄介ごと押し付けてくるんですから」
「………好きにしろ」
「はい」
とりあえず一個解決。さっさと溶かそう。そして早いこと、酸化防止の仕組みを作ってもらおう。耐久性アップは大事。ネックはやっぱり電気だ。そんな現実逃避よりも喫緊の課題は、目の前の佐久間氏。この人とこうして対峙するの何度目だろ。
「下田以来でしょうか?」
「そうだな。体と共に生意気さも成長したみたいだな」
「今回は湯の花は?」
「この会談はワシの意思ではないのになぜ必要だ?」
((忘れてなかったか))
「腹を割って話しましょう。我々が欲するあなたの能力は『弁論を教える能力』。そこだけは欲しい。むしろ、それ以外は必要ありません。それ以外の部分は、我々とは相容れない。それでも宜しければ手伝って頂けますか?」
「小僧、吐いた言葉は消せぬぞ。それを分かってぬかしてるんだろうな?」
「はい、その無駄に尊大な態度は我々には不要、そう申しております」
「いい加減にしろ!!お前の態度は目に余る。ワシが天下に名だたる佐久間象山と知ってそこまで宣うとは、覚悟の上であろうな」
「はい、そこです。その発言こそ要らない要因、そして問題点があります」
「何だと?」
「落ち着きましょうよ。元服前の小僧にみっともない」
「お前が」
「落ち着けって言ってるだろ、バカが!」
「バカだと?事もあろうにこのワシに向かってバカだと?」
「わざわざこっちが要因と問題点を教えてやろうとしてるだろ、黙って聞けよ!それとも天才を自認するなら、それを自身で言えますか?」
「………聞いてやる。言え」
「とりあえずその右手、刀から手を離しましょう。話はそれからです。丸腰の小僧がそんなに怖いですか?天才ともあろうお方が」
「いちいち煽るな!早く言え!!」
「まず、本当の天才は自分で天才とは言いません。知に対してどこまでも謙虚です。あなたもそういう時期があったことでしょう。名が売れてその謙虚さが失われてるからこその発言です。そして問題点。本当に天下に名を轟かせているのであれば、天子様とお会い出来たんでしょうね?」
「………」
「その沈黙こそが答えです。あなたを持ち上げてくれる環境でしか、あなたは天才でいられないのです。それをまずお認めになられてはどうですか?更にです。現在の蕃書調所改め洋書調所において、あなたが天才を自称するのが烏滸がましいほど、本物の天才たちが溢れています」
「…なぜ言いきれる?」
「もはやあなたの蘭学は過去の遺物です。我々は蘭語以外の言語も使えます。蘭書で書かれていることを、別の言葉で確認出来ている。過去の蘭書で正しいとされていたことが、現在の他の国では間違いであったことを証明すら出来ている」
「…………まことか?偽りなら本当に叩き切るぞ?」
「はい。越前の橋本さん覚えておられますか?以前五月塾から間者として送り込んで来ましたが。その橋本さんと杉先生のお2人が、現在学び舎で教えております。その様子と教本を見に行きますか?」
「…連れて行け」
「では、内田様のお宅の隣にありますゆえ、そちらまで参りましょうか」
掛かった。ギリギリ知への欲求が勝った感じかな?