作品タイトル不明
3-12
やりすぎちゃったかも。でもまぁ、本人の希望叶えただけだし。すっかり意気消沈。昭和の有名ボクシング漫画の主人公の最後みたいに呆けてる。海軍学校の教科書の内容に驚いて、横浜に連れて行き図書館の蔵書に怯え、各国公使館におののき、バイリンガル、トリリンガルと本物の外国人を見て、最後は落武者。
横浜の米国公使館のコックさんとたまたま顔を合わせて『そのしょぼくれたジジイは何だ?それよりあの固い炭、あれで料理すると味変わるんだ。何だあれは。買えるのか?』と。『買えるけど、備長炭高いよ?商人に確認して見積もり出そうか?』ってくだらないけど、頭の中でチャリンチャリン音がする会話。横で見てた佐久間氏が、会話終わった後に何だったのか聞いてきたから、もう一押ししたのが効いたのか?
「ソイツは誰だ?調所の人間か?って聞かれたので、違うよ、この人が勝手なことしてそちらに迷惑かけても、こっちは無関係だから好きにして良いよ、って話してました」って、大ボラ吹いてやった。口パクパクからの無言。俺のせいで入水自殺なんて後味悪いから、最後勝様の所へ送ってってあげた。勝様とは他にも打ち合わせしたいことあるし。人とか人とか人とか。人材は人財。本当に欲しい。そしてラクしたい。
そうか、佐久間氏もうまく使いこなせばラクになるかもしれないんだよな。あれ、使いこなせるかな?全く自信ない。まだどんどん暴走してく天才たちを見てる方が精神衛生的に良い。そして何となく、佐久間氏と高杉さんの相性が良すぎる気がする。高杉さんがあの人を師事してしまうと、碌なことにならなそう。
そうだ、俺が反応を「遅くする」ための触媒を目指せば良い。いやいや、それだと四六時中あの人たちを見張らなきゃいけない。付きっきり。そんなんイヤだ。断固拒否。1人思案をしてたら勝様が帰宅。
開口一番「どうなった?」だって。
なんかイラッとした。そんな気になるなら自分で縄でもつけて縛っとけよ。
「任せられた以上、どう使おうと私の自由、そういうことでよろしいですよね?」
「構わん。極力顔を合わせたくない」
「それは私も同意見なんですが」
言質取った。使い方はまだ見えないけど、佐久間氏が俺の指示でやらかしたとしても勝様の責任。そんな簡単なことすら見えなくなってる。
「それで、依頼した人は?」
「それなんだがな、ちと悪い流れがあってな」
「悪い流れ?」
「うむ、幕府の考えを反旗を翻さんと煽動してる人間を、昨年から罪人として捕らえておるんだ。攘夷も開国も関係なく。その罪人の中に、お前の名簿にあった人間が数人入っておってな」
「……外国軍艦、江戸湾に並べましょうか?その後の支配を争えって言えば、江戸城なんか即潰れますよ。城と一緒に死にたいんですか?」
「待て待て待て待て、良いから待て。ワシの方で消せる名前は消しておいた。だから待て。ワシはまだ死にたくない」
「知りませんよ。止められない、傍観してるだけなら同罪です」
思い出した。キーワードがないと思い出せない前世の記憶、自分のうろ覚えの記憶、本当にイヤになる。安政の大獄だ。井伊直弼だ。そっからの桜田門外ノ変だ。そんなアホなことするヤツ救わん。勝手に殺されろ。俺は知らん。
「幕府の命に従わないってことが基準ならば、幕府を盲信する守旧派は誰も失わないってことですよね?」
「そりゃそうだ」
「…また商人使って良いですか?」
「やめろって。お前の名簿にあった名は何とかする。約束する」
「絶対ですよ?江戸城の命運を我らが握ることなど容易いこと、忘れないでくださいよ。実験失敗で間違って城に当てること、やろうと思えばやりますよ?大体、自分の藩、自分の家の財政運営も出来ない人間が国家運営しようとすることが、そもそもおかしいんですよ。政治とは金をどう使うか。金の使い方を知らん人間が使い方を決めてる。矛盾しかありません」
商人にまとめてもらったリストを、自分の使いやすいデータにしておいた。その写しを渡す。
「例によって写しです。私が商人たちにまとめてもらった、商人たちへの借金額のまとめです。良かったですね、勝様はこの中に名前がありませんでした」
「なんだこれは?!」
「我々と取引のある商人たちからの情報ですので、守旧派と主だった付き合いのある商家の情報は含まれておりません。ですので、ここに書かれている以上に借入がある可能性は否定出来ません。勝様もそちらから借入していれば、私は勝様の借金を知ることはありません」
「我が家は大丈夫だ」
「そうですか。安心しました。そしてこちらは、同様の各藩の情報です。こちらは更に、地元で借入していれば知る由もない。ですが、傾向は見えて来るかと。あとついでに…、これ以上はやめときますか。刺激が強すぎるようですので」
「いやいや、ここまで聞かされて勿体ぶるな。そちらも寄越せ」
「良いんですか?この情報を知ったら、勝様のこれからの人間関係変えるかもしれませんよ?」
「構わん。出せ」
「では。代替わりしてからの借入の増減が書かれております。家の事情ではなく、借金というものに対する、個人の捉え方が出ております」
黙っちゃった。